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神様、その聖号は返品できますか?~貧乏くじ王女、嫁いだ先は竜が住まう国でした~  作者: みつまめ つぼみ
第2章 星の乙女

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12/22

第12話 夢

 私はワイングラスを傾けながらフリードリヒ殿下に尋ねる。


「殿下は普段、どんなことをされているのですか?」


「俺か? なぜそんなことを知りたがる」


 私はニコリと微笑んでフリードリヒ殿下の目を見つめる。


「私が知りたい、ではいけませんか?」


「……王宮で書類整理と、竜騎士隊の訓練ぐらいだな。大規模な軍事訓練も、参加することはあるが」


「あら、殿下が書類仕事もなさるんですか? 少し意外ですわね」


 フリードリヒ殿下が眉をひそめて私を見た。


「兄上の負担を軽減するためだ。俺だって少しぐらいは手伝える」


「たとえば、どんな書類を見てらっしゃるのかしら」


「……王族に上がってきた書類は、まず俺のところに届く。俺が決裁できるものは俺が署名し、政治判断が必要なものは兄上や父上に上げる。それを知ってどうする」


「もちろん、私が殿下の仕事をお手伝いするためですわ」


 私がニコリと微笑んで答えると、フリードリヒ殿下は驚いたように目を見開いた。


「おまえ、もう仕事のことを考えているのか」


「部屋にこもり切りでは、退屈ですもの。それに、私でも少しはお役に立てるかもしれませんよ?」


 フリードリヒ殿下が小さく鼻を鳴らして答える。


「地理も勢力も諸侯の顔もよく知らんまま、大したことはできまい」


「ええ、そうでしょうね。でもそれは覚えればいいだけの話ですわ。しばらくは殿下の足を引っ張るかもしれません。でも仕事を覚えれば、役に立ってみせますわよ?」


「そんなことより、おまえには社交界で顔を売る方が向いてるんじゃないのか。夜天教会から返事が来るまでどの程度の時間があるかは知らんが、貴族に顔を売っておいて損はあるまい」


「ええ、そちらも手を抜くつもりはありませんけど。今は社交界につながる伝手(つて)がありませんもの。それなら先に仕事を覚えることを優先しますわ。明日からお手伝いに伺ってもよろしくて?」


 フリードリヒ殿下が私を見つめ、ワインを(あお)った。


「……明日はやめておけ。聖竜に会いに行く」


 私はきょとんとして殿下の顔を見つめた。聖竜って、神様が言ってた名前よね。


「明日出発するのですか? 場所をご存じなの?」


「ああ、ゼクレゾン侯爵領に竜峰山(ドラゴンズ・ピーク)のひとつがある。国内最大級の山だが、そこに聖竜がいる。飛竜なら片道二日、往復五日程度だ」


 そっか、じゃあ先に神様の野暮用を済ませてしまうべきかな。私はフリードリヒ殿下に笑顔で(うなず)いた。


「ええ、わかりましたわ。それで出発は何時ごろですか?」


「朝食を取ったあと、すぐに出発する。おまえひとりでは着替えもままなるまい。従者も連れて、五騎で向かうつもりだ」


 ま、確かにカリンがいてくれないと、身の回りのことはできないんだけれど。彼女は飛竜を怖がってたし、大丈夫かなぁ。


「では決まりですわね。このこと、シュテファン殿下や国王陛下はご存じなのですか?」


 フリードリヒ殿下がしばらく私を見つめて固まった。……やっぱり言ってないのか。私は苦笑を浮かべながら殿下に告げる。


「では、その報告を伝えに行きましょう」


 私はフリードリヒ殿下の手を取ると、国王陛下たちに向かって歩き出した。





****


 夜会が終わり、部屋に戻ってきた私にフリードリヒ殿下が告げる。


「明日の朝、起こしに来る。ここで朝食を取ろう」


「ええ、構いませんわよ? では、おやすみなさいませ」


 フリードリヒ殿下は小さく(うなず)くと、私の部屋から立ち去っていった。私は疲れた身体をソファに沈めると、カリンに告げる。


「カリン、お水をもらえるかしら。それと明日からまた飛竜の旅よ。準備をお願いね」


 水差しに手を伸ばしていたカリンの動きが止まり、ぎこちない動作でこちらに振り向いてきた。


「……姫様、いまなんと?」


「だから、明日から飛竜に乗って聖竜に会いに行くわ。あなたも含めて、従者を数人連れていくことになるわね。五人まで乗せられると思うから、人選は任せるわよ」


「また飛竜ですかー?! またあれに乗って旅をすると(おっしゃ)いました?!」


「そうよ? 素敵な空の旅だもの。何度味わっても楽しいわよね」


「それは姫様くらいです! 私はもう、あんな怖い思いは嫌ですよ!」


「じゃあ、カリンはお留守番してる? 私はそれでも構わないわよ?」


 カリンが一瞬(ひる)んだあと、ぐっと力を込めるように拳を握った。


「いえ! 姫様のおそばに仕える者として、それは譲れません!」


「そう? じゃあ頑張りましょう? 大丈夫、慣れれば平気になるわよ」


 カリンが水の入ったコップを私に手渡してきた。それを受け取ると一気に喉に流し込む。お酒、ちょっと飲み過ぎたかな。セクレトスのワインは強いのかな。今日はいろんなことがあったし……。さっさと寝てしまおうか。


「カリン、お風呂に入るわ」


「はい、姫様」


 私は服を脱ぎながら、浴室へ向かった。





****


 ベッドの中で寝返りを打つ。真っ暗な部屋の中で、見慣れない天井を見上げていた。今日からセクレトスの国民かぁ。聖竜ってどんな竜なんだろう。飛竜みたいに可愛らしいといいけど。あちこち見て回って、各地の情報も仕入れないとなぁ。夜天教会も追い返して、なんとか婚姻を――。


 私の意識は、いつの間にか深い闇に吸い込まれていった。



 ふと気が付くと、私は暗い闇の中を歩いていた。あれ? なんで歩いてるんだっけ? でも前の方から誰かが呼ぶ声が聞こえる気がする。声がする方へ向かってまっすぐ歩いていくと、見えない『なにか』の気配が色濃く立ち込めた。


『リディア』


「……誰かしら? あなたは誰?」


『気を付けるがいい。狙われている』


「狙われてるって、誰に?」


『会ったときに話そう。竜峰山(ドラゴンズ・ピーク)で待つ』


「と、いうことは……あなたは聖竜ね? これは夢?」


 それっきり声が途切れ、気配もなくなってしまった。こっちの質問に答えてくれてもいいと思うんだけど。それに狙われるって……心当たりしか、ないなぁ。聖竜が警告してくるような危険かぁ。何が起こるんだろう?


 腕組みをして考えていた私は、やがて意識が遠くなっていった。





****


「リディア、起きろ」


 フリードリヒ殿下の声で目が覚めた。視界の中に殿下の顔がある。え? なんで? 部屋の中は陽の光が差し込んでいて、すっかり朝だ。


「でん……か? なぜ私の寝室に?」


「侍女が『起こしても起きない』というのでな。俺が起こしに来た」


 私はあわててガウンを羽織ると頬を膨らませてフリードリヒ殿下に抗議する。


「いくら婚約者でも、淑女の寝室に入るのは良くないと思いますわ!」


「そうなのか、すまん」


 髪を手で()きながら、必死に顔を隠すように殿下から顔を背ける。……寝顔を見られたかもしれない。恥ずかしいなぁ、もう。殿下の気配が動かないので、こっそり横目で様子を(うかが)う。殿下は私のことをじっと見つめているようだった。


「……フリードリヒ殿下? そこでなにをしてらっしゃるの?」


「いや……こんなおまえも新鮮だな、と」


「もう! 淑女の寝起きを観察なさらないで! 食卓でお待ちください!」


「……わかった」


 なぜか残念そうに眉をひそめたフリードリヒ殿下が、私に背中を向けて寝室から出ていった。もー! 絶対寝顔を見られた! ああいうところは直してもらわないと! ベッドから降りて私は顔を洗ったあと、カリンたちに着替えさせてもらう。部屋着のドレスを身につけたあと、鏡の前で顔をチェックする。……大丈夫かな? むくんでない? カリンがおかしそうにクスクスと笑みをこぼした。


「姫様、何を気にしてらっしゃるんですか」


「だって、フリードリヒ様がいらっしゃるんですもの。みっともない顔は見せられないわ」


「大丈夫ですよ、姫様は今日もお綺麗です」


「そう? ありがとう」


 私はカリンにウィンクをしてから、朝食の席に向かった。


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