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エーテルコード  作者: エトコッコ
第10章:いつでも、誰かが

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最終話「いつも、何度でも」


「閃くん……」


エドワードは、小さく呟いた。


ファイの元へ、ゆっくりと近づいてくるバサラヲ。


「……改めて、話がしたい」


閃は静かに言った。


その声は、驚くほど落ち着いていた。


リーア、そしてイノ。


イノは、ただの協力者ではない。


心を通わせた、友達と呼べる存在だった。


それを、自分は目の前で死なせた。


いや——殺した。


普通なら、深い憎悪を向けられて当然。


むしろ、その方が楽ですらある。


エドワードは、そう思っていた。


だが、閃は違った。


彼は、再び“対話”を望んでいる。


しかも、今のバサラヲは丸腰同然。


とても戦えるような状態ではない。


「話……」


エドワードは複雑そうに呟く。


もし今、ファイが攻撃をすれば——バサラヲも、後ろにいる3機も、簡単に消し去れるだろう。


だが——


無抵抗の相手を攻撃する。


それは、かつて自分達が憎み、否定してきた“虐殺者”と何が違うのか。


エドワードは、自問していた。


自分は今、何になろうとしているのか——と。



「話……とは……?」


エドワードは静かに口を開いた。


彼は、閃との対話を選んだ。


「イノが最後に、教えてくれました」


閃は真っ直ぐエドワードを見据える。


「イノの気持ち。そして——願いを」


そのやり取りは、通信を通して怜、烈、音にも届いていた。


静まり返った空気の中、閃は続ける。


「イノは——最後に、あなたに伝えていました」


エドワードの表情が、わずかに揺れる。


「“絶対に、生き返らせないでください”——彼は、そう言っていた……」


エドワードは静かに言った。


「エドワードさんは、それを聞いて……どう思いましたか?」


その声には、責めるような怒りもない。


悲しみを押し付けるような感情もない。


ただ——純粋に、問いかけていた。


「……」


エドワードは、すぐには答えられなかった。


なぜなら——


彼自身、すでに揺らぎ始めていたからだ。


(私は……本来、ゼクストのような子ども達すら救いたかったはずだ)


かつて抱いていた理想が脳裏をよぎる。


(私のやっていることは、決して“正義”ではない)


(……だが、“悪”だとも思えない)


(なぜ彼らは、命を懸けてまで止めようとする……?)


エドワードは、自分でも見ないようにしてきた疑問へ、少しずつ向き合い始めていた。


胸の奥に沈めていた矛盾が、ゆっくりと浮かび上がっていく。



「パパ……?」


その声に、エドワードはハッと我に返った。


そして——


「……こんなはずでは……と思った」


静かに、そう口にした。


「やっぱり……エドワードさんは、エドワードさんだ!」


閃は、少し安心したように言った。


その声は、いつもの彼らしい柔らかく明るい口調だった。


「閃くん……?」


エドワードは呆然と呟く。


「もし、本気で僕たちを消したいなら」


「さっきの戦いの中でだって、僕たちを狙う方法はいくらでもあったはずです」


「僕らも最初は、きっとそうすると思ってました」


「でも、エドワードさんは、それを一度もしなかった」


閃は静かに続ける。


「今だって——消そうと思えば、すぐに消せる」


その言葉は、核心を突いていた。


エドワードは、丸腰同然のバサラヲ達を、最後まで狙わなかった。


エドワードは再び黙り込む。


すると閃は、はっきりと言った。


「あなたは、ヨハンとは違う」


その言葉に、エドワードの肩がわずかに震えた。


「それは、僕らだって」


「トーマスさんだって、松永主任だって——みんな知ってます」


閃の言葉が、少しずつエドワードの心へ届いていく。


積み上げてきた野望。


自分を支えていた“正しさ”。


その殻が、音を立てて崩れ始めていた。


脳裏に蘇る、彼らの言葉。


——“そんなの、生きてる側のエゴなんじゃないんですか!?”


——“死って、そんな簡単なもんなんすか……!!”


——“エドワードさんの本当の願いって……また、アリスちゃんに会いたかった……そうだったんじゃないんですか……?”


——“……アリスは、どう思ってる?”


そして——アリスの言葉。


——“やっぱり私は、ずっとパパの味方でいたい”


気づけば、エドワードの目から、涙が流れていた。



「パパ……」


「アリス……」


アリスは、まっすぐエドワードを見つめていた。


「私も……今のパパの、素直な気持ち、知りたい」


その言葉に、エドワードは言葉を失う。


「パパは……」


喉が震える。


「パパは……」


何度も言葉を飲み込み、やがて——震える声で、ようやく口を開いた。


「パパは、ずっと……ずっと……!」


涙が溢れる。


「アリスと、一緒にいたい!!」


その叫びは、偽りのない本心だった。


「それだけが……それだけが——パパの望みだ……!!」


「パパ!!」


アリスは、勢いよくエドワードへ抱きついた。


その瞬間——


ファイから、大量の光の粒子が溢れ出す。


光は周囲へ舞い散り、まるで祝福のように降り注いでいた。


「私ね……実は、パパの気持ち、知ってた」


アリスは優しく言う。


「ファイを通して、パパがずっと迷ってたことも……苦しんでたことも……」


「全部、伝わってた」


「でもね——」


アリスは、少しだけ寂しそうに笑う。


「パパの正直な気持ちを……パパの口から聞きたかった」


「アリス……!」


エドワードは、強くアリスを抱きしめた。


「ごめんよ……こんな、こんなパパで……!」


声が震える。


涙が止まらなかった。


「私はっ……!」


今度は、アリスが泣きながら言った。


「私も、ずっとパパと一緒にいたい!!」


「何度生まれ変わっても……ずっと、ずっとパパの子どもになりたい!」


ファイの身体は、徐々に光の粒子へ変わっていく。


その輪郭が、少しずつ薄れていく。


「アリス……ずっと愛してるよ」


エドワードは涙を流しながら言った。


「私も、パパのこと……ずーっと愛してる」


アリスは、満面の笑みで答えた。


そして——


ファイは、無数の光の粒子を残しながら、静かに消滅した。



光の粒子は、雨のように荒れ果てた氷の大地へ降り注いでいた。


砕けた氷。


蒸発した海。


崩壊した大地。


それらすべてが、まるで時間を巻き戻すように、静かに元へ戻っていく。


「……終わった、のか?」


烈がぽつりと呟く。


「……ええ」


怜は、降り注ぐ光の粒子を見上げながら静かに答えた。


「エドワードさんと……アリスちゃん……消えちゃったの……?」


音が不安そうに呟く。


誰も、答えられなかった。


やがて3人は、閃のいるバサラヲの元へ向かう。


「閃……」


烈が声をかける。


すると閃は、ゆっくり振り返った。


「……帰ろっか」


そう言って、少しだけ笑う。


それは——いつもの閃だった。


「……そうだな」


烈も小さく頷く。


「そうね」


怜も静かに言った。


「……うん!」


音も涙を拭いながら笑う。


こうして、彼らの任務は達成された。


エドワード、アリス——そして、ファイ。


彼らが最後にどうなったのか、本当のところは誰にも分からない。


ただ、ひとつだけ、確かに言えることがあった。


それは——


2人は、これからもずっと、一緒にいるということだった。

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