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エーテルコード  作者: エトコッコ
第10章:いつでも、誰かが

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第9話「生命の煌めき」


静寂。


残ったのは、レギオンΩの残骸。


リーアは——死亡した。


その事実は、あまりにも重く、そして揺るがなかった。


「クソォ……!!」


烈が悔しさを滲ませた。


「リーア……」


怜は静かに、その名を口にする。


かつて命を懸けて戦った敵。


だが今は、共に戦った仲間。


音は、何も言えなかった。


ただ静かに、涙を流していた。



(Ωチーム……リーア。どうか、安らかに——)


エドワードは、最後まで抗い続けたリーアへ、静かに敬意を捧げていた。


最期まで、戦い抜いた1人の戦士として。


そして——


エドワードは、ゆっくりとエンプティアへ視線を向ける。


漆黒のエーテルを纏い、なおも立ち続ける黒い機体。


(彼も……ファクターズやリーアと同じか)


エドワードは静かに思う。


(——もう、引く気はない)


「……ここまで力を解放しても、届かないのか……」


イノは、ファイを見つめながら小さく呟いた。


その声には焦りも恐怖もなかった。


ただ、現実を受け止める静かな重さだけがあった。


(ボクも……時間がない)


カルマ解放の代償は、確実にイノを蝕んでいた。



怜は、不意にあることを思いついた。


「カイバさん。エーテルコンデンサーのエーテルって——」


「元々ファクターのエーテルを蓄積してるのよね?」


『レイサマ。ソノトオリデゴザイマス』


カイバの機械的な声が返ってくる。


「なら、そのエーテルをファクター本人へ還元することは可能?」


『モチロンデゴザイマス』


その返答に、怜の目がわずかに鋭くなる。


エーテルコンデンサーは、全EDに2基搭載されている。


1基につき、およそ15分分のエーテルを蓄積可能。


本来は、今のようなオートモード時のエネルギー源として使われるものだ。


怜はすぐに、その情報を3人へ共有した。


「なるほど……!!それは思いつかなかった!」


閃が唸る。


「怜!冴えてるぜ!」


烈も声を上げた。


「さっそくやろう!!……あ、でも、どうやって……?」


音が首を傾げる。


「カイバさんにやってもらうのよ」


怜は即答した。


4人は、それぞれのカイバへ指示を出す。


次の瞬間——


レッグアーマー内部から、蓄積されていたエーテルが逆流するように4人へ戻されていった。


その感覚に、4人は確かな回復を感じる。


これで、《ソウル・テザリング》再発動までの時間は、さらに短縮された。


だが、当然リスクもある。


残されたエーテルコンデンサーは、あと1基。


EDの稼働時間は、残りおよそ11分。


それでも、僅かな可能性にかけるしかなかった。



ファイの攻撃が、容赦なくエンプティアを襲う。


《ビーム》が装甲を削り、《光の剣》が機体を切り裂く。


漆黒のエーテルを纏っていたエンプティアも、徐々に動きが鈍り始めていた。


(せめて……せめて、もう少し……!!)


イノの目的は、ただ一つ。


ファクターズの回復——そのための時間稼ぎだった。


(目に見えて弱り始めたか……)


エドワードは静かに分析していた。


エンプティアも、もはや時間の問題。


誰の目にも、そう見えていた。


だが——


「まだだ……まだッ!!」


イノは、決して諦めていなかった。


その瞬間だった。


(イノ!!しっかりしろ!!)


「え……?」


突然、イノの頭の中に声が響く。


それは、聞き慣れた女性の声だった。


「アーク……?」


(ホラ!ボサっとしてんなよ!)


相変わらず乱暴で、強引な声。


だが——どこか優しかった。


(相変わらず容赦ないな、アークは)


今度は、少し笑ったような声が響く。


「クリス……?」


(イノ。俺たちも手伝うぞ)


静かで、頼もしい声。


(君だけに……背負わせない!)


「サム……!!」


(イノ、遅くなってごめんね!)


それは——かつて散っていった仲間たちの声だった。


「みん……な……!!」


イノの瞳から、涙が溢れる。


それは“悲しみ”の涙ではない。


「みんなの力を貸して!!」


イノは叫ぶ。


(おうよ!!)

(それでいい)

(まかせて!)


アーク、クリス、サム。


3人の声が重なった瞬間——


イノの中から、凄まじいエーテルが湧き上がる。


それは、尽きかけていたはずの力。


だが今、その光は再び燃え上がっていた。


そして——


その変化は、エンプティアにも現れ始めていた。



「一体……どうしたんだ……」


エドワードは、目の前の光景に言葉を失っていた。


突然、エンプティアから、凄まじい光が溢れ始めた。


それは、完全同調を思わせる輝き。


だが、同時に漆黒のエーテルも渦巻いている。


光と闇——相反する力が混ざり合い、エンプティアを包み込んでいた。


「あれ……ひとりの力じゃない……」


アリスが静かに呟く。


「何人かの力が、織り交ざってる……」


「何人かの……?」


エドワードは眉をひそめる。


そして、ある考えに辿り着き、表情を強張らせた。


(……まさか)


(かつて散っていったゼクストの……“魂”とでもいうのか……!?)


エドワードは混乱していた。


理論では説明できない。


だが、アリスの感覚を信じるなら——それしか考えられなかった。


その時、エンプティアから通信が入る。


『次が——“ボクら”の最後の攻撃です』


『人を生き返らせることができるんですよね?』


イノは、閃の記憶からそれを知っていた。


静かに続ける。


『なら、最後に言わせて下さい』


『どうか——』


『どうか、“ボクら”を……』


その声には、迷いも恐怖も無い。


『絶対に、生き返らせないでください……!!』


「——ッ!!」


エドワードは目を見開く。


「ま、待ってくれ!!」


思わず叫ぶ。


だが、すでに通信は切れていた。



エンプティアは、ゆっくりと上空へ舞い上がった。


そして——


両腕を静かにかざす。


その姿を、ファクターズは見上げていた。


「あれは……!?」


烈が目を見開く。


先ほどまでとは、明らかに違う。


「完全同調に似た光……」


音が呟く。


だが、それだけではない。


漆黒のエーテルもまた、機体を包み込んでいる。


「イノ……!!」


閃は、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えていた。


きっと、あの攻撃が、イノにとって最後になる。


そんな予感が、確かにあった。



エンプティアの頭上に、巨大なエーテルの塊が形成され始める。


《カオス・ミーティア》。


それは、光と闇が入り混じった、まさに“混沌”そのものだった。


周囲の空気が震え、南極の空さえ軋み始めていた。


「パパ……!」


アリスが不安そうに呟く。


「あ、あぁ……!」


エドワードの声にも、明らかな動揺が滲んでいた。


そして——


「いくよ……みんな!!」


次の瞬間——


《カオス・ミーティア》が、放たれた。



ファイもまた、両手をかざす。


その前方に、巨大な《光の玉》が生成された。


まるで太陽そのものを凝縮したかのような、圧倒的な光の塊。


そして、次の瞬間——


《光の玉》は、《カオス・ミーティア》へ放たれた。


2つの巨大なエーテルが激突する。


凄まじい衝撃波が世界を揺らした。


氷の大地は一瞬で消滅し、その周囲の海すら蒸発していく。


轟音と閃光が南極を覆い尽くした。


その余波だけで、ファクターズの4機も大きく吹き飛ばされる。


《カオス・ミーティア》と《光の玉》は、空中で激しく拮抗していた。


「な、なんてパワーなんだ……!!」


エドワードは叫ぶ。


その光景は、もはや人智を超えていた。


そして——


少しずつ、ファイが押され始める。


「す、すごい……!!」


アリスも目を見開いていた。


イノの命を懸けた一撃。


散っていった仲間たちの想いを乗せた“最後の力”。


それは、ついにファイすら圧倒し始めていた。


やがて、《光の玉》に亀裂が走る。


そして、ついに——


《光の玉》は、完全に砕け散った。


「……!!」


エドワードが息を呑む。


《カオス・ミーティア》が、そのままファイへ迫る。


アリスは即座に《バリア》を展開した。


だが——


《カオス・ミーティア》は、《バリア》ごとファイを飲み込んでいった。



エンプティアから、すでに光は消えていた。


漆黒のエーテルも、完全同調に似た輝きも——もう、何一つ残っていない。


ファイもまた、完全に消滅していた。


その存在は跡形もなく消え去り、そこには静寂だけが残される。


イノは、それを確認するように静かに見つめる。


そして——


エンプティアは、力を失ったように落下を始めた。



「怜!!音!!烈!!大丈夫か!!」


閃が叫ぶ。


衝撃波によって吹き飛ばされていた4機の中で、バサラヲは比較的元の位置に近かった。


その時、閃は見つけてしまった。


氷も消え去った大地へ、叩きつけられていたエンプティアの姿。


「エンプティア……!!イノ!!」


バサラヲはすぐさま駆け寄った。


だが——


エンプティアは、徐々に灰へ変わり始めていた。


その光景を見た瞬間、閃は理解してしまった。


イノは——


すでに、死亡していた。



「イノ!!イノォォーーー!!」


閃は涙を流しながら叫んだ。


バサラヲから飛び降り、灰となっていくエンプティアへ駆け寄る。


そして、その残骸を掴もうと手を伸ばした。


だが、無情にも閃の指の隙間をすり抜けていく。


そして——


エンプティアは完全に灰となり、風の中へ消えていった。


閃は、その場に膝から崩れ落ちる。


震える手を、ただ見つめることしかできなかった。


「イノ……」


その時だった。


——閃


ふいに、声が響く。


「……?」


——閃!


もう一度、はっきりと聞こえた。


「……!!イノなのか!?」


その声は、確かにイノのものだった。


(閃……ボクの声、聞こえる?)


「聞こえる!!」


閃はすぐに叫ぶ。


(なら……ボクの話を——聞いてほしい)


イノは静かに言った。


涙を堪えるように、閃は強く頷く。


「……わかった!」



怜、烈、音は、先に合流していた。


そして、少し離れた場所にいるバサラヲを見つける。


「閃!!大丈夫か!?」


烈が叫んだ。


「俺は大丈夫。みんなは?」


閃は静かに返す。


その声は、不自然なほど冷静だった。


4人は互いの無事を確認する。


「イノくんは!?」


音が不安そうに問いかけた。


閃は静かに答えた。


「……死んだよ」


その言葉に、空気が凍りつく。


覚悟していたはずだった。


イノが命を削って戦っていたことも。


最後の攻撃が、“そういうもの”だったことも。


それでも——


実際にその言葉を突きつけられると、3人は強い衝撃を受けた。


誰も、すぐには言葉を返せなかった。



「ファイは……?」


怜が静かに呟く。


「イノの攻撃で……消えたのか……?」


烈も、信じ切れないように言った。


その時——


周囲に、無数の光の粒子が集まり始める。


光は急速に形を成し、ファイは瞬く間に復活した。


まるで、最初から何事もなかったかのように。


その光景を見ても、もはや誰も驚かなかった。


「閃……!《ソウル・テザリング》まで、もう少し——」


烈が言いかけた、その時だった。


「……また、話をしようと思う」


閃は静かに言った。


「話……?」


怜が眉をひそめる。


「エドワードさんと」


閃は迷いなく答えた。


「話って……!!した結果がこれだろ!!」


烈が声を荒げる。


「いや……“今の”エドワードさんと、話をしたい」


閃は、どこまでも冷静だった。


「閃くん……」


音が不安そうに呟く。


(閃のやつ、どうしたんだ……?)


烈も戸惑っていた。


(時間稼ぎか……?それとも……)


「——わかった」


不意に、怜が口を開く。


「でもよ……そのまま行く気か?」


烈は不安げに言った。


今のEDは通常状態。


そんな状態でファイへ近づくなど、自殺行為にしか思えなかった。


だが、閃は静かに頷く。


「大丈夫——きっと」


そう言って、閃はファイを真っ直ぐ見据え、ゆっくりと歩き始めた。

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