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エーテルコード  作者: エトコッコ
第10章:いつでも、誰かが

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第8話「自分らしく」


フルスロットルでファイへ突撃するレギオンΩ。


次の瞬間——


ファイは、再び無数の《ビーム》を放つ。


だが、レギオンΩはそれを、常識外れの空中機動で回避していく。


無数の《ビーム》が氷原を穿ち、爆発が連続する中、赤い機体だけが縫うように飛び続けていた。


(ま、おとりくらいにはなるか!)


リーアは口元を吊り上げた。


その間に——シラユキ、レンゴク、ツムギは即座に離脱。


バサラヲとエンプティアの元へと急行した。



「イノ!」


烈が声を張り上げる。


「烈さん!皆さん!」


イノは、集まってきた3機を見渡した。


「すまねぇ……頼るしかなかったんだ……」


烈は悔しそうに言う。


「何を言ってるんですか!」


イノは即座に返した。


「助けるに決まってるじゃないですか!」


その言葉に迷いはない。


本心からの言葉だった。


「事情は、大体わかりました」


イノは静かに続ける。


「さっき消えた、あの光……それがまた必要なんだよね?」


イノは閃へ問いかけた。


「そう!」


閃はすぐ頷く。


「今は全員エーテル切れなんだ。さっきの状態に戻るには、全員のエーテル量がある程度回復しないといけない」


「なるほど……」


イノは小さく呟き、少し考え込む。


そして——


「……いいアイデアがある」


静かに、そう言った。



イノは静かに目を閉じ、エーテルを集中させる。


淡く輝く《エーテルボール》が、4つ生み出された。


イノはそれらを、バサラヲ、シラユキ、レンゴク、ツムギへ向けて放つ。


光の球はそれぞれの機体へ吸い込まれ、4人の身体へエーテルが流れ込んでいった。


「これって……!」


音が驚いたように呟く。


「皆さんに、ボクのエーテルを全部渡しました」


イノは穏やかに言った。


「え!?」


閃は目を見開く。


「ボク、そんなに容量多い方じゃないけど……ゼロよりはマシかなって」


実際、4人のエーテルはある程度回復していた。


だが、《ソウル・テザリング》の発動条件には、まだ遠い。


「いや、そんなことしたらイノがヤバいだろ!!」


閃は思わず叫ぶ。


その通りだった。


今のイノは、エーテルを完全に使い切った状態。


もしこのタイミングでファイの攻撃を受ければ、防ぐ術はない。


だが、イノは不思議なほど落ち着いていた。


「大丈夫だよ、閃」


静かにそう言う。


「ちゃんと考えはある」


そして——


イノはゆっくりと振り返った。


「烈さん、怜さん、音さん——閃」


穏やかな声が響く。


「ボクを信じて……見守っててくれる?」


その言葉に、迷いはなかった。


「わかった!」


閃は即答する。


そして——


烈、怜、音も、静かに頷いた。



(さすが、Ωクラス……一筋縄ではいかんな)


攻撃を回避し続けるリーアを見ながら、エドワードは静かに思った。


一方——


(わざわざこっちに飛んでくる攻撃なんて、いくらでも対処できるっての!!……ま、ジリ貧だけど)


リーアは、ファイの猛攻を掻い潜っていく。


そんな中、イノは戦闘の中心へ向かっていた。


今、エンプティアを動かしているのはエーテルではない。


D細胞から生み出された人工筋肉。


それだけで、機体を稼働させていた。


「イノ……あの状態で、一体……」


烈が不安げに呟く。


今のイノが前へ出るなど、自ら死地へ向かうようなものだった。


だが、その時。


音の脳裏に、ある光景がよぎる。


「……もしかしてイノくん、前にサムがやった“あれ”をするつもりなんじゃ……」


音の言葉に、3人はハッとした。


「だとしたら……!!イノが危ねぇ!!」


烈が叫ぶ。


「今は……イノを信じよう……!」


閃は静かに言った。


その言葉には、強引に自分を納得させるような響きもあった。


本心では、閃も烈と同じ気持ちだった。


それでも——


イノが言った“信じて”という言葉を、無下にはできない。


「でもよ……!」


烈は悔しそうに拳を握る。


「わたしが《風聖清浄》を使えたら……イノくんも救える!」


音も焦ったように言った。


だが、その声には明らかな動揺が滲んでいた。


その瞬間——


怜が無言で《アイスフィールド》を展開する。


静かな冷気が4機を包み込み、精神を少しずつ鎮めていく。


その影響で、3人もわずかに冷静さを取り戻した。


「今焦ったって、回復が早くなるわけじゃない」


怜は静かに言う。


「怜……」


閃は小さく呟いた。


怜の言う通りだった。


焦燥は、精神を乱す。


そして精神の乱れは、エーテルの乱れへ直結する。


焦れば焦るほど、逆に回復を遅らせる可能性すらあった。


「……すまねぇ」

「ありがとう、怜……」


烈と音は静かに言った。


ファクターズは、イノとリーアを信じ、回復へ集中した。



イノは静かに呟いた。


「——カルマ、解放」


その瞬間、エンプティアから漆黒のエーテルが噴き出した。


禍々しい闇の粒子が機体全体を包み込み、空気そのものを震わせていく。


音の予想は、的中していた。


それは、かつてサムが見せたものと同じ。


個人で引き起こせる最大値——80パーセント解放。


カルマ解放によって、エーテルは強制的に増幅され、それをD細胞が喰らうことで機体性能も飛躍的に上昇する。


イノが先ほど、自身のエーテルを全てファクターズへ渡した理由。


それは——カルマ解放によって、後からエーテルを増幅できるからだった。


さらに、カルマ解放によって生み出されたエーテルには不純なエーテルが混じる。


それを他者へ分け与えることはできない。


だからこそイノは、自分が元々持っていた純粋なエーテルを、先に渡していた。


漆黒のエーテルは、さらに膨れ上がっていく。


やがて、それは空へ向かって巨大な柱のように伸び始めた。


その光景は、かつてのラフティアを彷彿とさせる。


「やっぱり……」


音は、あの日の光景を思い出しながら呟いた。


一方——


(ボクがこれを使う時、それは——)


イノは強く拳を握りしめる。


(“仲間”を、守る時!!)


その瞳に、迷いは一切なかった。



「あれは……!!」


凄まじいエーテルを纏うエンプティアを見て、エドワードは目を見開いた。


彼は以前、ファクターズとゼクストの決戦を見ている。


その時——ラフティアが見せた、あの異常な力。


エドワードは、一瞬でそれと同質のものだと理解した。


「あのエーテル……私が持ってるものと、全然違う……」


アリスは、漆黒のエーテルを見つめながら呟く。


その光は、彼女の光のエーテルとは対極にあるようだった。


「はぇ〜……あんな隠し球、持ってたんだ……」


その光景には、リーアですら驚きを隠せない。


「アリス。赤いロボットより先に、あの黒いロボットを倒そう」


エドワードは即座に判断した。


「うん!そうねっ!」


アリスも同じ結論に至っていた。


次の瞬間——


ファイの手に《光の剣》が生成される。


そして、光速の斬撃がエンプティアへ襲いかかった。


しかし——


剣が届くより早く、エンプティアはファイの背後へ回り込んでいた。


漆黒の残光が走る。


両腕のブレードが、ファイを斬り裂いた。


「!!」


エドワードが驚愕する。


ファイは即座に振り返り、剣を薙ぎ払う。


だが——そこにエンプティアの姿は無い。


(なっ……!!)


次の瞬間——


ファイの片脚へ、鋭い斬撃が叩き込まれた。


(ファイが……スピードで負けているだと!?)


エドワードは目を疑った。


ファイの速度は、光速。


それを上回るなど、本来あり得ない。


閃の《雷化瞬来》のような瞬間移動でもない。


実際、エンプティアの軌道はかすかに見えている。


「なぜだ……!?」


エドワードが思わず呟く。


すると、アリスが静かに口を開いた。


「多分……空間そのものが歪んでるんだと思う」


「空間を……!?」


エドワードはハッとする。


エンプティアがファイより速いのではない。


《カオス・ディメンション》——空間そのものを歪め、周囲の時間の流れへ干渉しているのだ。


その影響でアリスやエドワード、そしてファイも無意識のうちに速度を落とされている。


だからこそ、光速で動いているはずなのに追いつけない。


(なるほど……!それなら合点がいく!)


エドワードは瞬時に理解した。


イノの念というエーテル属性。


その性質を考えれば、空間干渉も決して不可能ではなかった。



エンプティアとファイの戦いを見つめながら、リーアは目を細めていた。


(あの子……)


何かを考え込むように呟く。


そして、小さくため息をつくと——高速でファクターズの元へ飛来した。


「ねぇ!ちょっと!誰か武器貸して!」


リーアは4人へ向かって叫ぶ。


バサラヲの金剛鬼伝は、ファイとの激突で既に折れている。


さらに、ツムギのヒスイガンブレードも、閃が離脱していた間の戦闘で破壊されていた。


すると——


「これ、使って」


シラユキが、フロストジャベリンをレギオンΩへ投げ渡した。


「お、サンキュー」


レギオンΩがジャベリンを掴んだ瞬間、槍の先端から巨大な氷の大剣が形成される。


怜が同時に《氷塊ひょうかい》を発動していた。


「気が利くねぇ♪」


リーアは笑いながら言う。


「ちゃんと返してね」


怜は真顔で返した。


その言葉に、リーアは思わず吹き出す。


「アンタ、そんな冗談言うんだ。意外!」


そう言いながら、レギオンΩは再びファイの元へ向かって加速していった。


(……冗談で言ったんじゃないんだけど)


怜は内心、静かにそう思っていた。



「さて……ハデにやりますかぁ!! ——ベルセルク・ギア発動!!」


リーアは叫びながら、ファイへ突撃する。


次の瞬間——


レギオンΩの全身装甲が展開。


内部から大量の蒸気が噴き出し、機体各部のリミッターが解除されていく。


赤い機体から放たれる圧力が、一気に跳ね上がった。


「おりゃぁあぁあぁッ!!!」


咆哮と共に、レギオンΩは氷の大地を砕きながら加速。


巨大な氷剣を振り抜き、そのままファイへ叩き込む。


《バリア》が、それを阻んだ。


重い衝撃音が響く。


だが、刃は届かない。


それは、エンプティアも同じだった。


どれほど斬り裂いても、ファイは瞬時に再生する。


『リーアさん!ダメージを与えても、すぐに元に戻ります!』


イノから通信が入る。


「だろうねぇ……!!」


リーアは歯を食いしばりながら答えた。


エンプティアが与えた傷も、すでに跡形もなく消えている。


そしてリーア自身、ファイの恐ろしさは目の前で見ている。


だからこそ、驚きはしなかった。


そもそもファイに対して攻撃など、まるで意味を成さない。


そんなことは、最初から分かっていた。


それでも——


立ち向かうファクターズ。


命を削りながら戦うイノ。


その姿を見て、リーアの中で何かが変わっていた。


(アイツらが命懸けで戦ってんのに——)


(戦うために生まれた強化兵のウチが、戦わないわけにはいかないでしょ)


「ウチはね——」


「アイツに、一泡吹かせたいんだよ」


『リーアさん……』


イノの声が小さく響く。


「じゃ、先いってるよーん」


軽い調子でそう言い残し、リーアは再び、ファイへ向かって飛び出した。



レギオンΩは、ファイの猛攻を掻い潜りながら、荒々しく何度もジャベリンを《バリア》へ叩きつけていた。


だが——


《バリア》は微動だにしない。


破れる気配すらなかった。


次第に、ジャベリンを覆っていた《氷塊》も砕け、ボロボロに崩れていく。


さらに——


コクピット内には、ベルセルク・ギアの限界を知らせる警告音が鳴り響いていた。


だが、リーアは止まらない。


「まだまだぁぁぁッ!!」


叫びながら、なおも攻撃を叩き込む。


イノもまた、エンプティアで攻撃を続けていた。


しかし、こちらも《バリア》に阻まれ、有効打には至らない。


その時——


ファイが放った《ビーム》が、レギオンΩの右脚へ直撃した。


「うぉっ!!」


レギオンΩが大きくバランスを崩す。


そこへ、無数の《ビーム》が追撃するように迫った。


「っ!!」


イノは即座に《サイコフォース》を展開。


《ビーム》を弾き飛ばす。


「大丈夫ですか!?」


イノが叫ぶ。


ファイは上空に無数の《光の矢》を生成した。


そして、それらを雨のように2機へ降らせる。


イノは回避だけで精一杯だった。


しかし——


リーアは違った。


レギオンΩは、《光の矢》を避けながらも、真正面からファイへ突っ込んでいく。


だが、その代償は大きかった。


避けきれなかった《光の矢》が、次々とレギオンΩを貫いていく。


装甲が弾け、火花が散る。


(そろそろ……限界かな)


リーアは静かに思った。


そして、持っていたジャベリンをファイへ投げた。


だが——


ジャベリンは届く前に、《光の矢》によって粉々に破壊された。


「あぁーもうダメだわ!! あと……ヨロ——」


言葉が終わるその前に——無数の《光の矢》が、レギオンΩへ突き刺さる。


そして——


機体は大爆発を起こした。


「リーアさんっ!!」


イノが絶叫する。


「リーアが……!!」


閃も呆然と呟いた。


その光景を見ていた3人も——言葉を失っていた。

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