第7話「集まる力」
ファクターズとファイの激しい攻防は続いていた。
氷の大地は幾重にもひび割れ、巨大な氷山すら、一瞬で消し飛んでいく。
凄まじい轟音と閃光が南極を揺らした。
(キリがないな……もっとも、それはあちらも同じだろうが)
エドワードは静かに思う。
「ねぇ、パパ」
アリスが、不意に口を開いた。
「あのロボットたちの光……なんだか、私が出す光に似てるね」
アリスは、4機のEDが纏う粒子を見つめながら言った。
「……確かに、そうだね」
エドワードは静かに答える。
完全同調と、光のエーテル。
そこに何か因果関係があるのか——。
エドワードの脳裏に一瞬その考えがよぎる。
だが、今それを考察している場合ではない。
(あのフォーメーション……あれを崩せば、何か変わるのか?)
エドワードは、依然として固まって戦い続ける4機へ視線を向けた。
「アリス。あのロボットたちを見て、何か見えたりしなかったかい?」
「んー……」
アリスは首を傾げる。
そして、ふと何かに気づいたように声を上げた。
「あ!あのツノのロボットから、“線”みたいなのが伸びてて——」
「それが、他のロボットと繋がってるの、ちょっとだけ見えたかな?」
アリスはそう言った。
ツノのロボット——バサラヲのことだ。
(バサラヲを中心に線……?そして、あの戦い方……)
エドワードの目が鋭く細まる。
(そうか……!)
ついに、彼はファクターズの戦術の核心へ辿り着こうとしていた。
◆
「アリス、戦い方を変えよう」
エドワードは静かに言った。
「あのロボットたちを引き離すんだ」
「うん!わかったわ」
アリスは素直に頷く。
(アリスが見た“線”……間違いなく限界がある)
エドワードは思考を巡らせる。
(だからこそ、あの4機は常に固まって戦っていた)
(そして——あの線こそが、完全同調の条件のひとつ)
エドワードは確信に近いものを感じていた。
次の瞬間、ファイの手に巨大な《光の剣》が出現する。
そして——
ファイは目にも止まらぬ速度で4機へ突撃する。
だが、その瞬間——閃の《雷化瞬来》が発動。
4機は雷光と共に、その場から瞬時に姿を消した。
◆
「戦い方、変わったな」
閃が鋭く言った。
それまでの遠距離主体とは違う。
ファイは、明らかに接近戦を中心とした動きへ切り替えていた。
「完全同調さえ切れなければ……何とか持ちこたえられる!」
烈が叫ぶ。
だが、その時——
ファイが突然、動きを止めた。
「……止まった?」
怜が警戒するように呟く。
次の瞬間、ファイの全身が膨大な光のエーテルに包まれていく。
嫌な予感が走る。
そして——
《テレポート》で4機の目前へ出現した。
直後、《光の爆発》が発生する。
かつて、天華連盟の本拠地、そしてアメリカ第4支部を消し去った、あの光。
その爆発規模は凄まじく、1つの大陸さえ飲み込み、消滅させるほどだった。
しかし——
音の《風命守護》が、その爆発を真正面から受け止める。
風の障壁が、破滅の光を押し返していた。
だが——
ファイは間髪入れず、《光の剣》を振り下ろす。
(破られる!!)
音は直感した。
次の瞬間、《光の剣》が《風命守護》を切り裂き——巨大な斬撃がツムギへ迫った。
「させるかっ!!」
バサラヲが瞬時に前へ飛び出す。
ツムギを庇うように立ち塞がり、刀で斬撃を受け止めた。
しかし、その圧倒的な力に、刀身はヒビ割れていき、ついに折れてしまった。
そしてファイは、さらに追撃するように再び《光の爆発》を発動する。
光が、4機を飲み込んだ。
◆
やがて、光が消えていく。
そこに立っていたのは——ファイのみだった。
4機のEDは、それぞれ大きく吹き飛ばされ、氷原の各所へ叩きつけられていた。
「——おいっ!!みんな大丈夫か!!」
最初に立ち上がったのは烈だった。
烈の叫びに応えるように、離れた場所にいた3人も次々と意識を取り戻していく。
各機の損傷は、驚くほど少なかった。
完全同調時に纏っている光の粒子が、4機を守っていた。
もし、これが通常状態だったら——4機は、跡形もなく消し飛ばされていただろう。
「閃!!テザリングが……!!」
烈が焦った声を上げた。
その言葉に、閃はハッとする。
《ソウル・テザリング》は、完全に断ち切られていた。
こうなれば、完全同調を維持できる時間は、残り僅かしかない。
閃はすぐにモニターへ視線を向ける。
そこに表示されていた数字は——残り15秒。
(……っ!!)
閃の表情が強張る。
最も懸念していた事態が、ついに現実となっていた。
◆
こうなってしまった時のための“最終手段”は、考えてあった。
だが、それはあまりにも運任せな方法だった。
残された時間の中で、再び《電繋》を4機へ繋ぎ直し、その場から離脱する。
それも選択肢の1つではあった。
しかし——
たとえ逃げ切れたとしても、アリスの《テレポート》から逃れることはできない。
逃げた先で、再び追いつかれる。
そんな未来が、容易に想像できた。
「閃!!行けっ!!」
烈が叫ぶ。
時間がない。
その声と同時に、閃は《雷化瞬来》を発動する。
その場から瞬時に姿を消した。
残された3人も、即座に動く。
「《アイスヴェール》」
「《エアマスター》!」
「《火炎装》!!」
それぞれが自身の強化スキルを重ね掛けし、限界まで力を引き上げる。
氷、風、炎——3つのエーテルが荒れ狂い、周囲の氷原を震わせた。
「踏ん張るぞ!!」
烈は叫ぶ。
「ええ……!」
「うん!!」
2人も強く応えた。
レンゴク、シラユキ、ツムギ。
3機は武器を構え直し、迫り来るファイへ再び突撃していく。
残された時間は、もう僅かだった。
◆
砂浜。
そこには、イノとエンプティアの姿があった。
かつて、サムを見送った場所。
静かな波の音だけが響いている。
(……ん?この感覚……)
イノは、不意に何かを感じ取った。
次の瞬間——
目の前に、突如バサラヲが現れる。
「……閃!!」
イノは目を見開いた。
「イノ!!説明は後で!! ついてきて!!」
閃の声は、これまでにないほど切羽詰まっていた。
「わかった!」
イノは一瞬で状況を察する。
「サンキュ!!」
迷うことなく、エンプティアへ駆け込む。
その間に、閃は《電繋》を発動し、バサラヲとエンプティアを繋いでいた。
そして——
イノが搭乗を終えた瞬間、2機は、その場から消えた。
残り7秒。
◆
上空。
そこには、リーアの駆るレギオンΩの姿があった。
どこかへ移動している最中なのか、機体は高速で空を滑空している。
すると、次の瞬間——
突如、目の前にバサラヲとエンプティアが現れた。
「わぁぁ!!?」
あまりにも突然の出現に、リーアは大声を上げる。
手にしていたチョコレートが、ぽろっと落ちた。
「ちょ!!アンタらどこから——」
「リーア!!時間が無い!!ついてきて!!」
閃は、リーアの言葉を遮るように叫ぶ。
「はぁ!?どこに——」
リーアが言い終えるより早く、《電繋》が発動。
レギオンΩを一瞬で繋いだ。
そして——
3機は、その場から消失する。
残り2秒。
◆
南極。
エンプティアとレギオンΩを連れたバサラヲは、再び激戦の地へと帰還した。
その直後——
バサラヲを包んでいた光が消えた。
それは、シラユキ、レンゴク、ツムギも同じだった。
エーテル切れにより、各EDは自動的にオートモードへ切り替わる。
静まり返った空気の中、烈が小さく呟いた。
「……閃、間に合ったか……」
最終手段——それは、イノとリーアを連れてくること。
つまり、ファクターズだけではなく、“共闘”という形へ持ち込むことだった。
だが当然、イノもリーアも、そんな事情など知るはずがない。
タイミングが少しでもズレていれば——
あまりにも綱渡り。
あまりにも運任せ。
それでも——
ファイに対抗できる可能性がある存在を考えた時、ファクターズ全員の頭に浮かんだのは、この2人しかいなかった。
◆
「あれは……イノくんとエンプティア!?それに、天華の赤いレギオン!!」
エドワードは驚きの声を漏らした。
(なるほど……閃くんがあのスキルで連れてきたのか)
エドワードはすぐに状況を理解する。
そして同時に、自身の推測が正しかったことも確信した。
(やはり……アリスの言っていた“線”を断てば、完全同調は維持できない)
4機から完全同調の光は、すでに消えている。
(あれほどの力だ。再びあの状態になるには、何か大きな条件が必要なはず)
(つまり——この戦闘中に、再び完全同調へ至るのは、ほぼ不可能……!)
エドワードの分析は的確だった。
そんな中、アリスはふと、レギオンΩへ視線を向ける。
「あれ?あの赤いロボット……前に見たのだよね?」
アリスは首を傾げながら言った。
「そうだね」
エドワードは静かに頷く。
「あれが、一応リーダーのロボットだよ」
そう言って、赤く染まったレギオンΩを見つめた。
◆
「閃たちの状況、わかったよ」
イノが静かに言った。
「え?」
閃は目を瞬かせる。
まだ何も説明していない。
ましてや、イノにとってファイは初めて見る存在のはずだった。
「なんか、不思議なんだけどさ」
イノは続ける。
「閃がエンプティアに、レーザーみたいなケーブル繋いだよね?」
「あれを通して、ボクの《テレパス》が反応したんだ」
「閃たちがここまでどう戦ってきたのか、ボク達に何をしてほしいのか……」
「全部、なんとなく流れ込んできた」
イノはそう説明した。
つまり——
閃の《電繋》と、イノの《テレパス》。
2つの能力が偶然にも相互作用を起こした結果だった。
「マジか……そりゃ助かる……」
閃は安堵したように呟く。
「はぁ〜……」
横で、リーアが盛大なため息をついた。
「あ、リーア。ごめん……」
閃は申し訳なさそうに言う。
「いやさ、ウチだってそこまで鈍感じゃないから」
リーアはファイへ視線を向けた。
「この状況見れば、アンタがウチに何求めてるかくらい分かるよ」
赤いレギオンΩのモノアイが、静かに光る。
「——つまり、ウチに“アイツ”と戦えってことでしょ?」
「……時間稼ぎをしてほしい」
閃は真っ直ぐ言った。
「時間稼ぎ、ね……」
リーアは小さく呟く。
そして、ふっと笑った。
「……ま、しゃーないね」
「リーア、ありがとう。お礼なら何でもする」
閃が言うと、リーアは呆れたように笑った。
「いーよ。メルの面倒見てくれてんだし」
そう言って、操縦桿を握り直す。
「そーと決まれば」
リーアは口角を上げた。
「——行きますか」




