第5話「天啓」
(ファクターズ……なぜここに……!?それに、あれは完全同調……!?)
突如として現れたファクターズ。
そして、完全同調状態へ移行している4機のED。
あまりにも予想外の状況に、エドワードは動揺を隠せなかった。
『エドワードさん!そこにいるんですよね!?』
次の瞬間、閃からファイへ通信が入る。
ファイの頭部にあるコクピットは複座式となっており、前方にアリス、後方にエドワードが搭乗していた。
「一体、なぜここが——」
そう言いかけた瞬間、エドワードは自ら答えへ辿り着く。
「……なるほど。ヨハンか」
エドワードは低く呟いた。
◆
「エドワードさん!一体、何をしようとしてるんすか!?」
烈が問いかける。
『……“世直し”だ』
エドワードは低い声で答えた。
「世直し……?」
音が小さく呟く。
『そうだ』
エドワードは静かに続けた。
「……エドワードさんの言う“世直し”って——」
「天華やヨハンみたいな、争いの火種になるような連中を消して……」
「犠牲になった人たちを、アリスの力で蘇らせる——そういうことですか?」
閃は真っ直ぐに問いかけた。
『その通りだよ、閃くん』
エドワードは迷いなく答える。
「トーマスさんと松永主任が言ってました。恐らく、そうなんじゃないかって……」
閃がそう言うと、エドワードは黙り込んだ。
「エドワードさん!!何で俺たちがここに来たか、分かりますか!?」
烈が強い口調で言う。
『止めに来た——だろ?烈くん』
エドワードは冷静な声で返した。
「その通りっすよ!!」
烈は即座に言い返す。
『止める……か』
エドワードは小さく呟いた。
「わたしたちは……!エドワードさん達と戦いたいわけじゃありません!」
音も声を上げる。
音の言う通りだった。
ファクターズは、ファイと戦うためにここへ来たわけではない。
あくまで、“止める”ために来たのだ。
戦いは最後の手段。
できることなら、戦わずに説得したかった。
◆
『それは……私だって同じだよ、音くん』
エドワードは静かに言った。
『君たちとは戦いたくない』
『だが……今さら止める気もない』
その声は、どこまでも淡々としていた。
「エドワードさん……!」
音が悲しそうに声を漏らす。
「……僕らも、引く気はありませんよ?」
閃は真っ直ぐに言った。
『……そうか』
エドワードは短く返す。
「何でだよ!?大体、何で止めに来たか——」
『分かっているさ』
烈の言葉を遮るように、エドワードは口を開いた。
『ファイの……アリスの存在が世に知れ渡った時、世界の均衡は、間違いなく崩れる』
『そして、かつての世界大戦のような、大きな争いが再び起きる』
『さらに——これまでも研究対象にされてきたエーテルコードの存在は、今まで以上に研究や迫害の対象にもなるだろう……』
“古代より、エーテルコードは、いつの時代も争いの渦中にいた”——
その言葉は、争いが起きるたび、人々の間で繰り返されてきたものだった。
『それらを未然に防ぐために、君たちは来たんだろう?』
エドワードは、ファクターズへ静かに問いかけた。
◆
「そこまで分かってて……!!」
烈は声を荒げた。
トーマスも松永も言っていた。
“エドワードほどの人間なら、この先に待つ結末など、理解できないはずがない”——と。
『確かに、私がやろうとしていることは、ある種……非人道的なのかもしれない』
『だが、いつの時代も、革命には大いなる犠牲が伴ってきた!』
『しかし、アリスがいれば——その犠牲すら、無くすことが出来る!』
エドワードの声に、徐々に熱が帯びていく。
『この世には、何の罪もない人々が犠牲となり——本来、死に値するようなクズ共が、のうのうと生きている!』
『もし、そんな間違った世界を、確実に変えられるとしたら!?』
『そして……この世界から、“死”そのものを無くせるとしたら!?』
『この世界は、今よりもっと、より良いものになる!!』
エドワードは強く言い切った。
「……“死”って、そんな簡単なもんなんすか……!!」
烈が低く呟く。
その脳裏には、亡くなった美晴の姿、そして散っていったクリスの姿が浮かんでいた。
「自分が悲しいから、嫌だからって、人を生き返らせるって……!そんなの、生きてる側のエゴじゃないんですか!?」
閃が言う。
『確かに、そう感じる人がいることも分かっている』
『もちろん、望まない者を無理に生き返らせるつもりはない』
『だが……選択肢は、あっていいはずだ』
エドワードは静かに返した。
「その基準って、何なんですか!!結局、それだって生きてる側の判断じゃないんですか!?」
閃はさらに問い詰めた。
『……そうかもしれないな』
エドワードは静かに認めた。
『それでも——私は、引く気はない』
◆
「エドワードさん……本当のことを教えてください」
音が静かに言った。
「アリスちゃんが亡くなって……きっと、耐えきれないくらい悲しくて……」
「でも、アリスちゃんが“光のファクター”で、それで生き返って……」
「エドワードさんの本当の願いって……また、アリスちゃんに会いたかった……そうだったんじゃないんですか……?」
音は真っ直ぐに問いかけた。
しばしの沈黙。
『……ああ。最初は、そうだった』
エドワードは静かに答えた。
『アリスが最初に死んだ時……まるで、世界そのものが終わったような絶望だった』
『アリスさえ戻ってきてくれれば——その時の私は、そう思っていたよ』
その声には、かつての悲しみが滲んでいた。
『……だが、この世界には、私以上に苦しみ、理不尽な目に遭っている人々が、数え切れないほどいる……!!』
『私は、そういう人々を救いたい!!アリスの力で!!』
『……それが、私に課せられた運命だ』
エドワードは強く言い切る。
「エドワードさんの言ってること……正直、わかります」
音は小さく呟いた。
「でもっ……!それでも言わせてください!!」
音は顔を上げる。
「エドワードさんは、アリスちゃんと一緒に……平和に暮らしてください!!」
その言葉に、一瞬だけ空気が止まった。
『私だけが、幸せに暮らすなど……そんなこと出来ない……!!』
『出来るはずがない!!』
エドワードは、苦しむように言った。
◆
「……アリスは、どう思ってる?」
それまで黙って話を聞いていた怜が、静かに口を開いた。
『んー、正直に言うと……どっちの言い分も、すごく分かるの』
アリスがゆっくりと答えた。
『どっちも間違ってるとは思えないし、私としては……半分半分って感じかな』
その声音には、迷いも、優しさも混ざっていた。
『だけどね——』
アリスは少しだけ微笑むように続ける。
『やっぱり私は、ずっとパパの味方でいたい』
『それが、私の答え』
アリスはそう言った。
「……そう」
怜は小さく呟いた。
◆
『君たちの実力は、よく知っている。そして、その完全同調——』
『さらに力をつけてきたのだろう……』
エドワードは静かに言った。
『だが——ファイに勝つことは、“100パーセント”不可能だ』
その言葉には、一切の迷いがなかった。
『これは、挑発でも脅しでもない』
『同じファクターである君たちなら……分かるはずだ』
「……何が言いたいんですか?」
閃が問い返す。
『単刀直入に言おう』
エドワードは短く息を吐いた。
『ファクターズの諸君——頼む。引いてくれ』
『戦ったとしても……結果は、見えている』
エドワードの言葉が、決してハッタリなどではないことは、ファクターズも十分すぎるほど理解していた。
だが——
「引くわけないでしょう」
閃は即答した。
「そんなに言うなら、そっちが引いてくれよ!」
烈が言い放つ。
「エドワードさん!!」
音も声を上げた。
『お互いに、引けない……か』
エドワードは静かに呟く。
そして——
ゆっくりと空へ浮かび上がるファイ。
「リーダーより各機へ——これより戦闘に入る!!」
「了解!」
閃の号令と同時に、4機のEDがそれぞれ武器を構える。
その瞬間——
ファイから、眩い光が放たれた。




