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エーテルコード  作者: エトコッコ
第10章:いつでも、誰かが

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第4話「氷の大地」


深夜。


ファクターズは、それぞれのEDの前に立っていた。


その場には、トーマスと松永、そして訓練生に加え、クレアの姿もあった。


本来であれば、ファクターズへの気遣いから、大規模な見送りは避け、静かに出発する予定だった。


だが、それでも見送りたいという訓練生とクレアの強い願いもあり、彼らはこの場へ足を運んでいた。



「閃くん、烈くん、怜くん、音くん——あとは、頼んだ」


トーマスはファクターズの目を真っ直ぐに見つめ、順番に握手を交わしていった。


「……みんな、少しだけ抱きしめさせて?」


そう言った松永の瞳には、涙が滲んでいた。


「もぉー松永主任!そんな顔しないでくださいよ」


閃はいつものように明るく笑いながら、松永を軽く抱きしめる。


そして、あえて慣れ親しんだ主任という呼び方を口にした。


「あはは……ごめんなさい。歳のせいかな。涙もろくなっちゃって」


松永は目元を拭いながら、どこか照れたように笑った。


松永は、1人ひとりを優しく抱きしめていく。


「怜……」


怜は何も言わなかったが、その静かな表情のまま、松永の温もりを確かに感じていた。


「烈くん……」


烈は少しだけ照れくさそうに視線を逸らしていた。


「音ちゃん……」


音は目に涙を浮かべながら、松永へぎゅっと抱きついていた。



「なぁ、こういうこと……言っていいのか分かんねぇけどよ——」


光井はゆっくりと口を開いた。


「みんな……絶対に帰ってきてくれよ!?」


その目には、堪えきれない涙が浮かんでいた。


「ここは、すべて僕たちに任せてください。皆さんは何も心配いりません」


東は真っ直ぐにそう言った。


その表情は、凛々しさと頼もしさに満ちていた。


「こういう空気にならないように、見送りは無しって話だったのにさ?……まぁ、気持ちは分かるけど」


アンジュは肩をすくめながら、いつもの調子で言う。


「……」


みのりは何も言わなかった。


涙を流すまいと必死に堪えているのか、その小さな体はぷるぷると震えていた。


閃はそっとみのりへ歩み寄り、何も言わず、優しく抱き寄せた。



「さよならなんて、絶対に言わないからね?」


そう言って、クレアは怜と音を同時に抱きしめた。


「うん……」

「クレアちゃん……」


2人も、それぞれ静かに言葉を返す。


そして、烈の前へ。


クレアは少しだけ恥ずかしそうに視線を揺らした。


だが、烈の方からそっと手を差し出した。


クレアはその手を握り返し、2人は静かに握手を交わす。


「いってくる」


「……いってらっしゃい」


その一言には、互いの想いが確かに込められていた。


「何か、俺のこと忘れてにゃ〜い?」


ニヤリと笑いながら、閃がアホ毛をくるりとカールさせて言った。


「おごっ!?」


次の瞬間、クレアは無言で閃の横腹をどつく。


その光景に、その場の全員が思わず笑っていた。



「それじゃ、行ってきます」


閃はそう言った。


ファクターズは、それぞれのEDへと搭乗する。


そして、そのまま《ソウル・テザリング》を発動。


幾度ものトレーニングを重ねた成果もあり、その動作には、もはや無駄がなかった。


4機のEDが完全同調を発動する。


「全員、行くぞ」


閃が3人へ声をかけた。


「わかった」

「おう!」

「うん!」


それぞれが力強く返事を返す。


そして——


閃は、新たなスキルを発動した。


その瞬間——


4機のEDは。その場から一瞬で姿を消した。



南極。


見渡す限り、白。


そこは、まさに氷の大地。


空も大地も曖昧になるほどの銀世界が、どこまでも広がっている。


今は、“白夜”と呼ばれる、24時間太陽が沈まない時期。


初めて訪れる南極という場所に、ファクターズは不思議な感覚を覚えていた。


ヨハンから送られてきたファイの位置情報は、オーキュラムを通じて各EDへ共有されている。


モニターには、ファイの現在地が表示されていた。


ファクターズは、そのポイントから少し離れた位置に降り立っていた。



そして、先ほどの瞬間移動。


それこそが、閃の完全同調時スキル《雷化瞬来らいかしゅんらい》だった。


このスキルは、かつてアリスの《テレポート》を映像越しに目の当たりにし、そこから着想を得て生み出したもの。


閃は、自身の雷という属性と、変換という特性を組み合わせれば、実現できるのではないかと考えていた。


そして、何より大きかったのは——かつて、音が《風聖清浄》によってサムを救い出した時のこと。


後に音はこう言っていた。


“自分なら、絶対にできると思った”——と。


つまり、最も重要なのは“できる”と信じる意思。


それは、普段使用しているエーテルスキルにも共通して言えることでもある。


閃がトーマスに言った1週間。


それは、それぞれの完全同調スキルを完成させるための時間だった。


そして完成した閃の《雷化瞬来》は、自身だけではなく、《電繋》によって繋がっている対象も同時に瞬間移動させることができる。


さらにこのスキルは、《ソウル・テザリング》中の“行動範囲の制限”という弱点を補うためのものでもあった。



「……なんか、寒そうだね」


音は、一面に広がる氷の大地を見つめながら呟いた。


「でも、綺麗……」


怜が静かに言う。


白銀の世界は、どこまでも澄み切っていて、どこか現実感が薄かった。


「もしフォームのまま外に出たら、カチコチに凍りそう」


閃が言った。


EDのコクピット内は、外気の影響を一切受けず、常に最適な温度が保たれている。


だからこそ、モニター越しに見える極寒の景色に、余計に想像が掻き立てられていた。


「そん時は、俺が溶かしてやるよ」


烈がニヤッと笑いながら言う。


「お手柔らかに……」


閃はボソッと返した。


「怜って、こういう場所でも平気なの?」


音が尋ねる。


氷のファクターである怜は、寒さへの耐性が極めて高い。


「……多分、大丈夫だと思う」


そんな雑談を交わしながら、ファクターズはモニターに表示されたファイの位置へ向かって進んでいった。



4機のEDは、ファイの反応が示されているポイントへ到着した。


だが、見渡す限り、そこには何もない。



(……本当に、ここにいるのか?)


烈は内心でそう思っていた。


そもそも情報提供者は、あのヨハン。


烈は最初から、その情報を完全には信用していなかった。


「呼びかけてみる」


閃はそう告げると、静かに呼吸を整えた。


そして——


『エドワードさん!!いるなら出てきてくださいっ!!』


スピーカー越しに、閃の大声が南極の大地へ響き渡る。


静寂。


『エドワードさん!!』


閃は、もう一度呼びかけた。


だが、返ってきたのは再び静寂だけだった。


「……やっぱ、ここにはいねーんじゃねぇか?」


烈が言う。


その時だった。


「……?風が……」


音が、何かを感じ取ったように呟く。


「音、どうしたの?」


怜が問いかける。


「さっきまでと……違う……!」


音は周囲を見渡しながら言った。


そして、怜も異変に気づく。


よく見ると、先程は無かった、煌めく粒子が周囲に漂い始めていた。


閃と烈も同時に察知する。


「この光、完全同調の時に出る光に似てる……」


閃が小さく呟く。


——そして


光の粒子は、まるで意思を持つかのように次第に集束していく。


やがて、それは巨大な輪郭を形作っていった。


「……ついに会えたな」


烈が低く言う。


「ファイ……」


怜がその名を口にした。


そこに現れたのは、かつてモニター越しに見た、黄金の巨大ED——ファイ。


「大きい……!」


音は思わず見上げる。


その姿は、ただ存在しているだけで圧倒されるほどの威圧感を放っていた。


「エドワードさん……!」


閃は、真っ直ぐにファイを見据えた。

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