表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルコード  作者: エトコッコ
第10章:いつでも、誰かが

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/73

第3話「リミット」


深夜。


司令室には、トーマスだけが残っていた。


モニターが淡い光を放ち、静かな電子音だけが空間に響いている。


エドワードがオルフェを脱退してから、すでに1ヶ月が経過していた。


だが、エドワード、アリス、そしてファイの所在は一切掴めていない。


日本軍からの圧力も日に日に強まっている。


“本当に追跡しているのか”


“情報を隠しているのではないか”


そんな疑念すら向けられていた。


オーキュラムは、世界最高峰の監視・解析システム。


本来なら、人が完全に姿を消すなどあり得ない。


まして相手は、エドワードほどの重要人物。


まるで世界そのものが、彼らの存在を覆い隠しているかのようだった。


あるいは——地球上に、いない。


誰かが漏らしたその仮説すら、冗談に聞こえなくなっていた。



トーマスは深く椅子にもたれ、片手で額を押さえた。


積み重なる問題が、じわじわと神経を削っていく。


そんな中、トーマスの手は無意識にポーチへ伸びる。


中に入っているのは、タバコ。


指先が箱へ触れたところで、彼はふと動きを止めた。


(……いかんな。すっかり癖になってしまった……)


代わりに、机へ置かれたマグカップを手に取る。


中身はブラックコーヒー。


アルが淹れてくれたものだった。


すでに冷めきっていたが、それでも苦味と香りはしっかり残っている。


トーマスは静かに口をつけた。


(もし……本当に地球上にいないとしたら、一体……)


そこまで考えた時だった。


『んはぁ〜い?ごきげんドゥ〜?』


ヨハンだった。


「……」


トーマスは完全に無反応を貫く。


『えっ?無視??ひどくなぁ〜い???』


トーマスは視線すら動かさなかった。


「……なんか用か」


感情の起伏がほぼない声だった。


するとヨハンは、やれやれと言わんばかりに続ける。


『あのさぁ、僕ちゃんが言うのもアレなんだけど……お前、ハッキングドッキリに慣れすぎだろ』


ヨハンが珍しくツッコむ。


「……」


トーマスは再びヨハンを無視した。



『ま、それよりも——随分おもろいことになってきたじゃないのよ〜』


ヨハンは、心底楽しそうに笑っていた。


『エドワードはやっぱ面白いヤツだなっ!!』


『私に似てるよ!!いや、私よりタチ悪いかぁ?アッハッハッ!!』


陽気な笑い声が司令室に響く。


以前のトーマスなら、その言葉に激昂していただろう。


エドワードをヨハンと同類扱いされることなど、到底許せなかったはずだ。


だが今のトーマスは、何も言い返さなかった。


ただ冷めた目でモニターを見つめたまま、静かに口を開く。


「……随分と暇そうだな。羨ましいよ」


淡々とした皮肉に、ヨハンは面白そうに喉を鳴らした。


『おぉ〜?“トーマス坊や”がそんな口を利くようになるとはねぇ』


クククと笑うヨハン。


「生憎、こっちは忙しい身でね」


トーマスは無表情のまま返す。


『それなのに、エドワードの居場所は、未だ分からずじまい……と』


その一言に、トーマスの表情が静かに険しくなった。



「……言いたいことは、それだけか?」


トーマスは冷たく言い放った。


『そういうなよ〜』


そして、不意に声色を変えた。


『もし、このヨハンちゃんが、エドワードの居場所を知ってるとしたら?』


「知るか。お前の言うことなど信用できるか」


トーマスは即座に切り捨てた。


ヨハンは大げさにため息を吐いた。


『相変わらず、頭が固いというかなんというか……』


『私が、そんな“くだらない嘘”をつくわけないだろう?』


その言葉に、トーマスの眉がわずかに動く。


『お前、エドワードの何を見てきたんだ?』


「いい加減にしろ!!」


トーマスの声が司令室に響いた。


「大体、前の交流会といい……一体、お前は何を考えている!!」


『お前なぁ……ちょっとはエドワードを見習ったらどうだ?』


『交流会の時、エドワードは何て言ってた?』


トーマスの脳裏に、あの日の会話が蘇る。


“今回の件に関しては、嘘はついていない”——エドワードは、確かにそう言っていた。


当時のトーマスは、その言葉に引っかかりを覚えながらも、その場では深く追及しなかった。


だが結局気になり、後日エドワード本人へ確認している。


その時、エドワードはこう答えていた。


“少なくとも、小細工をするようなタイプではない”


“奴は、何かを考えているようで、何も考えていない”


“そして、何も考えていないようで、何かを考えている”


“つまり、奴の言葉の意味を考えようとしても、徒労に終わることが多い”


その言葉を思い出していた。



「……つまり、お前はエドワードの居場所を、私たちに教えると?」


トーマスは慎重に問いかけた。


するとヨハンは、軽い調子で答える。


『そゆことっ♪』


「理由は?」


『面白そうだから』


即答だった。


ふざけているようにしか聞こえない。


だがエドワード曰く、ヨハンという男は、実際にそういう理由で動く。


それが余計に厄介だった。


「……見返りは?」


トーマスは警戒を崩さず尋ねる。


するとヨハンは、腹を抱える勢いで笑い始めた。


『見返りなんか、いらねーよ!!』


『いやぁ〜、ホント最高!!お前ら全員、深刻そうな顔しちゃってさぁ』


完全に愉快犯だった。


トーマスは眉間を押さえたくなる衝動を堪えた。


「……そもそも、なぜお前がエドワードの居場所を知っている?」


『愚問にもほどがある!』


その問いに、ヨハンは鼻で笑った。


『お前らとは頭のデキが違いすぎるのさ!』


『お前らがイッショーケンメー探しても、手がかりすら掴めなかったのにぃ??』


『僕ちゃんは、暇つぶしの片手間で、あっさり見つけちゃったのよ〜』


「……その情報、確かなんだろうな?」


トーマスは冷静に問い返した。


『後は自分らで確かめたら〜?』


ヨハンは、楽しそうに笑った。


その直後、オーキュラムへデータが受信される。


『ま、とりあえず位置情報は送っとくわ。じゃね〜♡』


司令室に再び静寂が戻った。



オーキュラムへ転送された位置情報を開く。


司令室中央の大型モニターへ、世界地図が表示される。


そして——


赤いマークが浮かび上がった。


「……!!」


トーマスの目が見開かれる。


表示されていたのは——南極。


(なぜ……南極に……?)


トーマスは眉をひそめる。


当然、その地点も含め、オーキュラムは調査済みだった。


考え得る限りの解析は行っている。


それでも、何も異常は検出されなかった。


だがもし、ヨハンの情報が正しいのだとしたら——


アリスのスキルによって、ファイやエドワードごと完全に存在を隠蔽していたことになる。


オーキュラムすら欺くレベルで。


トーマスはすぐにスマカを操作し、数秒後、電話が繋がった。


「松永副総帥、夜分にすまない。至急、共有したい情報がある」


「エドワードたちの居場所についてだ」


トーマスは、南極に表示された赤いマークを見つめたまま、ヨハンから送られてきた情報について説明を始めた。



翌日。


トーマスはファクターズを司令室へ呼び出し、昨夜ヨハンから接触があったこと、そして送られてきた位置情報について説明した。


「なるほど……ヨハンの笑ってる姿が目に浮かびますね」


呆れ混じりの声で閃が言った。


もっとも、ファクターズはヨハンの姿を見たことがない。


あくまでイメージだった。


トーマスは軽く息を吐くと、4人へ視線を向けた。


「いつも急ですまない」


そう前置きした上で、本題を口にする。


「単刀直入に聞きたいんだが——」


「ファイの元へ向かうまでに、あと何日必要だ?」


その言葉の意味を、全員理解していた。


つまり——


ファイとの戦闘を想定した上で、ファクターズのトレーニングが完了するまで、あとどれくらい必要か。


閃は少しだけ考え、はっきりと答えた。


「あと1週間ください」


迷いのない声だった。


「本来なら、今すぐにでも向かいたいです」


閃は真っ直ぐトーマスを見る。


「それは、他の3人も同じだと思います」


3人も無言で頷く。


エドワードを止めたい気持ちは、全員同じだった。


「でも、やっぱり——どうしても必要なんです」


「最終段階の……あの“スキル”が」


その言葉に、トーマスはゆっくり頷いた。


「1週間だね。わかった」


「後のことは、全てこちらに任せてくれ」


「君たちは、引き続きトレーニングに集中してほしい」


その声には、確かな信頼が込められていた。


4人は姿勢を正し、力強く返答する。


「了解です!!」


その声が、静かな司令室へ力強く響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ