第2話「ソウル・テザリング」
ファクターズは連日、完全同調のための新スキル開発と、それらを組み合わせた合体スキルの訓練に明け暮れていた。
閃の新スキル《電繋》。
4人の意識とエーテルを接続するための“ケーブル”となる。
続いて烈の新スキル《強火》。
《電繋》を通じて全員の同調率そのものを一気に引き上げる。
さらに、音の《調律のウィンド》。
増幅された同調率を一律で100パーセントへ調整。
そして最後に、怜の新スキル《セービング》。
その100パーセントの状態を安定維持する。
理論上は成立する。
だが、それはあくまで理論上の話。
成功する保証など、どこにもない。
ファクターズは、まずシミュレーション空間で実験を行った。
結果——成功。
しかも、1回目で。
「……ぅえ?」
最初に声を漏らしたのは音だった。
「こんな……あっさり……?」
続いて閃。
誰もが呆然としていた。
シミュレーションモニターには、完全同調達成の数値が確かに表示されている。
エラーも、何もない。
完璧な成功だった。
「いや、待て待て待て……」
烈が思わず頭を抱える。
「こんなの、もっと苦戦する流れだろ。普通……」
「……確かに」
怜も珍しく困惑したように呟いた。
牧もモニターを見つめたまま、小さく息を呑む。
誰もが、拍子抜けしていた。
◆
次の段階は、実際にEDへ搭乗した状態で行う、本格的な実験だった。
いくらシミュレーション上で成功したとはいえ、現実で再現できなければ意味はない。
むしろ、本番はここからだった。
格納庫には、これまで以上に緊張感が漂っていた。
ファクターズは、それぞれ自身のEDへ搭乗する。
通信回線が開かれ、互いの呼吸を確認するように短い声が交わされた。
そして——
4人は、新たな合体スキルを発動した。
その瞬間——
4機のEDから、同時に光の粒子が溢れ出す。
「こ、これは……!」
モニターを見守っていた職員たちが息を呑む。
数値が、一気に跳ね上がる。
「完全同調——成功です!」
牧の声が響いた。
それは間違いなく、理論上だけではない“現実”として成立していた。
だが、その状態は長く続かなかった。
次の瞬間には、光の粒子が霧散し、同調状態も解除される。
格納庫に静寂が落ちた。
しかし——
たとえ短時間でも、完全同調は確かに成立した。
方向性は間違っていない。
それだけで十分だった。
◆
「合体スキルの名前さ——《ソウル・テザリング》ってどう?」
夕食中、不意に閃がそう言った。
「おぉ!かっこいいな、それ!」
「うん!すごくいいよ!」
烈と音は、嬉しそうに笑った。
怜も静かに頷き、わずかに笑みを浮かべる。
《ソウル・テザリング》——魂の共有。
互いの意識、感覚、エーテルを繋ぎ、重ねる。
まさに、今の4人に相応しい名前だった。
「これからやることもよぉ、だんだん明確になってきたな」
烈は言う。
3人は頷いた。
次の段階——それは《ソウル・テザリング》の精度をさらに高めること。
そして、完全同調状態を維持できる時間を少しでも伸ばすことだった。
今のままでは、数秒が限界。
実戦投入には、まだ程遠い。
「みんな、体調は大丈夫?」
音が少し心配そうに尋ねる。
「音のおかげでバッチリ!」
閃は笑顔で親指を立てた。
烈と怜も同意するように頷く。
連日の過酷な特訓。
本来なら、とっくに限界を迎えていてもおかしくない。
だが、それを支えているのが、音の《安静のウィンド》だった。
さらに、訓練生や職員たちが、パトロールや雑務を全面的に引き受けてくれていることも大きい。
多くの支えがあるからこそ、ファクターズは訓練へ集中できている。
その事実を、4人は理解していた。
◆
それから数日後。
《ソウル・テザリング》の精度は、さらに向上していた。
連携は日を追うごとに洗練され、完全同調へ至る速度も安定性も、明らかに上昇している。
そして、最大の課題だった“完全同調の維持時間”は、意外な形で答えへ辿り着いた。
その発見をしたのは牧だった。
牧は連日、膨大な実験データを解析し続けていた。
そして何度も数値を見返す中で、ある異常に気づく。
「……これって、まさか……」
モニターを見つめながら、牧は小さく呟いた。
完全同調時——ファクターのスキル効果、そしてエーテル総量は、通常時とは比較にならないほど増大している。
そして、《ソウル・テザリング》によって4人のエーテルが接続されることで、互いの力が相互作用を起こす。
結果——エーテルが循環し続け、理論上、エーテルを消費しない状態になっていたのである。
つまり、《ソウル・テザリング》で、完全同調状態へ入った時点で、エーテル不足という概念そのものが無くなった。
「……実質、繋がってる限り“無限”ってことね……」
牧は信じられないという表情で、モニターを見つめていた。
当初、完全同調が数秒で解除されていた原因。
それは、《ソウル・テザリング》自体の精度不足。
単純に、接続のブレによる同期崩壊ということも明らかになった。
◆
さらに日を追うごとに実験データは蓄積され、《ソウル・テザリング》の全貌が少しずつ明らかになっていった。
同時に、それまで見えていなかった致命的な制約も浮かび上がる。
まず、閃の《電繋》。
その最大接続距離は、およそ50メートル。
《電繋》は物理的な障害物に遮断されない、レーザー式エーテルケーブルといったもの。
しかし、50メートルを超えた瞬間、《電繋》は強制解除される。
《電繋》の射程そのものが、《ソウル・テザリング》の有効範囲。
閃のバサラヲを中心として、他3機の行動可能範囲は半径50メートル以内に限定されるということだった。
さらに問題なのは、その制約が絶対である点。
もし1機でも範囲外へ出た場合、その瞬間、《ソウル・テザリング》自体が解除される。
《ソウル・テザリング》解除後も、それぞれの完全同調状態そのものは約20秒程持続する。
しかし、それが過ぎた後——4人のエーテル残量は、ほぼ底を尽きてしまう。
そして、エーテルの回復には、もちろん時間が必要となる。
再度行うには、最低でも全員のエーテル量が、それぞれの6割以上まで戻っていなければならない。
エーテル容量が全員違うように、回復スピードも、もちろんバラバラ。
4人全員が、その最低ラインまで回復するのは、約1時間。
つまり——
ファイのような存在を相手取った場合、戦闘中、《ソウル・テザリング》が一度でも解除された場合、再発動は事実上不可能とも言える。
強力だが、失敗も許されない。
《ソウル・テザリング》は、まさに諸刃の剣だった。
◆
《ソウル・テザリング》に関する様々なデータが出揃い、ファクターズはシミュレーションルームへ集まっていた。
モニターには、細かな数値が並んでいた。
「……あのファイ相手に、行動範囲が50メートルしか取れないのは、かなり不利だな」
腕を組みながら、烈が低く言った。
「……しかも、一度でも《ソウル・テザリング》が解除されたら……」
怜は静かに続ける。
「少なくとも、戦闘中にもう一度発動するのは難しい……」
「んー……やっぱ、固まって戦うしかないよな」
閃が椅子へ深く座りながら言った。
それが、現時点での最適解だった。
しばらく沈黙が続く。
「あのさ……」
音が、おずおずと口を開いた。
3人の視線が集まる。
「わたしが前に完全同調した時、いつもなら使えないようなスキル……使えたよね」
巨大化し、暴走状態となったラフティア。
その内部からサムを救い出した《風聖清浄》。
あれは、音が完全同調状態だったからこそ発動できたスキルだった。
「えっとね……そろそろ“次の段階”に行ってもいいと思うの」
音は少し緊張したように言う。
「次の段階?」
烈が聞き返す。
音は頷いた。
「うん。それぞれの“完全同調時専用スキル”」
その言葉を聞いた瞬間、3人の表情が変わった。
「……なるほど」
怜が静かに呟く。
「確かに、音の言う通りだな」
烈も納得したように頷いた。
完全同調によって、通常時とは比較にならないエーテル出力を得られる。
ならば、その状態だからこそ使える、新たなスキルが存在していても不思議ではない。
むしろ、そこにこそ本当の可能性がある。
次の瞬間——
「いい事思いついた!」
閃は、勢いよく立ち上がった。
「上手く行けば、《ソウル・テザリング》の弱点、カバーできるかもしんない!」
その閃の表情には、確かな自信が溢れていた。




