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エーテルコード  作者: エトコッコ
第10章:いつでも、誰かが

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第2話「ソウル・テザリング」


ファクターズは連日、完全同調のための新スキル開発と、それらを組み合わせた合体スキルの訓練に明け暮れていた。


閃の新スキル《電繋でんけい》。


4人の意識とエーテルを接続するための“ケーブル”となる。


続いて烈の新スキル《強火きょうか》。


《電繋》を通じて全員の同調率そのものを一気に引き上げる。


さらに、音の《調律のウィンド》。


増幅された同調率を一律で100パーセントへ調整。


そして最後に、怜の新スキル《セービング》。


その100パーセントの状態を安定維持する。


理論上は成立する。


だが、それはあくまで理論上の話。


成功する保証など、どこにもない。


ファクターズは、まずシミュレーション空間で実験を行った。


結果——成功。


しかも、1回目で。


「……ぅえ?」


最初に声を漏らしたのは音だった。


「こんな……あっさり……?」


続いて閃。


誰もが呆然としていた。


シミュレーションモニターには、完全同調達成の数値が確かに表示されている。


エラーも、何もない。


完璧な成功だった。


「いや、待て待て待て……」


烈が思わず頭を抱える。


「こんなの、もっと苦戦する流れだろ。普通……」


「……確かに」


怜も珍しく困惑したように呟いた。


牧もモニターを見つめたまま、小さく息を呑む。


誰もが、拍子抜けしていた。



次の段階は、実際にEDへ搭乗した状態で行う、本格的な実験だった。


いくらシミュレーション上で成功したとはいえ、現実で再現できなければ意味はない。


むしろ、本番はここからだった。


格納庫には、これまで以上に緊張感が漂っていた。


ファクターズは、それぞれ自身のEDへ搭乗する。


通信回線が開かれ、互いの呼吸を確認するように短い声が交わされた。


そして——


4人は、新たな合体スキルを発動した。


その瞬間——


4機のEDから、同時に光の粒子が溢れ出す。


「こ、これは……!」


モニターを見守っていた職員たちが息を呑む。


数値が、一気に跳ね上がる。


「完全同調——成功です!」


牧の声が響いた。


それは間違いなく、理論上だけではない“現実”として成立していた。


だが、その状態は長く続かなかった。


次の瞬間には、光の粒子が霧散し、同調状態も解除される。


格納庫に静寂が落ちた。


しかし——


たとえ短時間でも、完全同調は確かに成立した。


方向性は間違っていない。


それだけで十分だった。



「合体スキルの名前さ——《ソウル・テザリング》ってどう?」


夕食中、不意に閃がそう言った。


「おぉ!かっこいいな、それ!」


「うん!すごくいいよ!」


烈と音は、嬉しそうに笑った。


怜も静かに頷き、わずかに笑みを浮かべる。


《ソウル・テザリング》——魂の共有。


互いの意識、感覚、エーテルを繋ぎ、重ねる。


まさに、今の4人に相応しい名前だった。


「これからやることもよぉ、だんだん明確になってきたな」


烈は言う。


3人は頷いた。


次の段階——それは《ソウル・テザリング》の精度をさらに高めること。


そして、完全同調状態を維持できる時間を少しでも伸ばすことだった。


今のままでは、数秒が限界。


実戦投入には、まだ程遠い。


「みんな、体調は大丈夫?」


音が少し心配そうに尋ねる。


「音のおかげでバッチリ!」


閃は笑顔で親指を立てた。


烈と怜も同意するように頷く。


連日の過酷な特訓。


本来なら、とっくに限界を迎えていてもおかしくない。


だが、それを支えているのが、音の《安静のウィンド》だった。


さらに、訓練生や職員たちが、パトロールや雑務を全面的に引き受けてくれていることも大きい。


多くの支えがあるからこそ、ファクターズは訓練へ集中できている。


その事実を、4人は理解していた。



それから数日後。


《ソウル・テザリング》の精度は、さらに向上していた。


連携は日を追うごとに洗練され、完全同調へ至る速度も安定性も、明らかに上昇している。


そして、最大の課題だった“完全同調の維持時間”は、意外な形で答えへ辿り着いた。


その発見をしたのは牧だった。


牧は連日、膨大な実験データを解析し続けていた。


そして何度も数値を見返す中で、ある異常に気づく。


「……これって、まさか……」


モニターを見つめながら、牧は小さく呟いた。


完全同調時——ファクターのスキル効果、そしてエーテル総量は、通常時とは比較にならないほど増大している。


そして、《ソウル・テザリング》によって4人のエーテルが接続されることで、互いの力が相互作用を起こす。


結果——エーテルが循環し続け、理論上、エーテルを消費しない状態になっていたのである。


つまり、《ソウル・テザリング》で、完全同調状態へ入った時点で、エーテル不足という概念そのものが無くなった。


「……実質、繋がってる限り“無限”ってことね……」


牧は信じられないという表情で、モニターを見つめていた。


当初、完全同調が数秒で解除されていた原因。


それは、《ソウル・テザリング》自体の精度不足。


単純に、接続のブレによる同期崩壊ということも明らかになった。



さらに日を追うごとに実験データは蓄積され、《ソウル・テザリング》の全貌が少しずつ明らかになっていった。


同時に、それまで見えていなかった致命的な制約も浮かび上がる。


まず、閃の《電繋》。


その最大接続距離は、およそ50メートル。


《電繋》は物理的な障害物に遮断されない、レーザー式エーテルケーブルといったもの。


しかし、50メートルを超えた瞬間、《電繋》は強制解除される。


《電繋》の射程そのものが、《ソウル・テザリング》の有効範囲。


閃のバサラヲを中心として、他3機の行動可能範囲は半径50メートル以内に限定されるということだった。


さらに問題なのは、その制約が絶対である点。


もし1機でも範囲外へ出た場合、その瞬間、《ソウル・テザリング》自体が解除される。


《ソウル・テザリング》解除後も、それぞれの完全同調状態そのものは約20秒程持続する。


しかし、それが過ぎた後——4人のエーテル残量は、ほぼ底を尽きてしまう。


そして、エーテルの回復には、もちろん時間が必要となる。


再度行うには、最低でも全員のエーテル量が、それぞれの6割以上まで戻っていなければならない。


エーテル容量が全員違うように、回復スピードも、もちろんバラバラ。


4人全員が、その最低ラインまで回復するのは、約1時間。


つまり——


ファイのような存在を相手取った場合、戦闘中、《ソウル・テザリング》が一度でも解除された場合、再発動は事実上不可能とも言える。


強力だが、失敗も許されない。


《ソウル・テザリング》は、まさに諸刃の剣だった。



《ソウル・テザリング》に関する様々なデータが出揃い、ファクターズはシミュレーションルームへ集まっていた。


モニターには、細かな数値が並んでいた。


「……あのファイ相手に、行動範囲が50メートルしか取れないのは、かなり不利だな」


腕を組みながら、烈が低く言った。


「……しかも、一度でも《ソウル・テザリング》が解除されたら……」


怜は静かに続ける。


「少なくとも、戦闘中にもう一度発動するのは難しい……」


「んー……やっぱ、固まって戦うしかないよな」


閃が椅子へ深く座りながら言った。


それが、現時点での最適解だった。


しばらく沈黙が続く。


「あのさ……」


音が、おずおずと口を開いた。


3人の視線が集まる。


「わたしが前に完全同調した時、いつもなら使えないようなスキル……使えたよね」


巨大化し、暴走状態となったラフティア。


その内部からサムを救い出した《風聖清浄》。


あれは、音が完全同調状態だったからこそ発動できたスキルだった。


「えっとね……そろそろ“次の段階”に行ってもいいと思うの」


音は少し緊張したように言う。


「次の段階?」


烈が聞き返す。


音は頷いた。


「うん。それぞれの“完全同調時専用スキル”」


その言葉を聞いた瞬間、3人の表情が変わった。


「……なるほど」


怜が静かに呟く。


「確かに、音の言う通りだな」


烈も納得したように頷いた。


完全同調によって、通常時とは比較にならないエーテル出力を得られる。


ならば、その状態だからこそ使える、新たなスキルが存在していても不思議ではない。


むしろ、そこにこそ本当の可能性がある。


次の瞬間——


「いい事思いついた!」


閃は、勢いよく立ち上がった。


「上手く行けば、《ソウル・テザリング》の弱点、カバーできるかもしんない!」


その閃の表情には、確かな自信が溢れていた。

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