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エーテルコード  作者: エトコッコ
第10章:いつでも、誰かが

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第1話「歓迎会」


数日後。


全てのオルフェに情報が共有され、各地で様々な意見や議論が交わされていた。


トーマスと松永も、この数日間はその対応に追われ続けていたが、ようやく一息つける状況になっていた。


「懸念はまだいくつもある。だが……やはり共有して正解だったと思う」


トーマスは静かに言った。


「えぇ。私もそう思うわ」


松永も頷く。


「しかし——ファイの出現以降、それに合わせるように世界の動きが止まったようだ」


トーマスはモニターへ視線を向けながら続けた。


イシュタールの消滅、そして、天華本拠地の崩壊。


それらの情報が世間へ公表された訳ではない。


だが、それでも世界には確かな変化が起きていた。


各地で発生していた争いは、完全に消えた訳ではないものの、一時的に減少している。


それは日本も例外ではない。


その影響もあり、ファクターズは今、トレーニングに集中できている。


そういう意味では、不幸中の幸いとも言えた。


訓練へ専念させるため、普段の任務は訓練生たちが代わりに担っている。


連日続くのは、あまりにも平穏な日々。


「何も起きないなら、それが一番なんだけど……」


「まるで、嵐の前の静けさみたいね……」


松永は小さく呟いた。


その感覚は、状況を知る誰もが抱いていた。



「あ!ハミルさん!」


光井がハミルに声をかけた。


「やぁ、光井くん!」


ハミルも笑顔で応える。


アドルとハミルが日本支部へ来てから、数日が経過していた。


2人はすっかりこの場所に馴染んでいる。


救出活動の際、東と光井はキャリア内で2人と様々な話をしていた。


もちろん、アドルとハミルの関係についても知っている。


「どうっすか?もう慣れました?」


光井が尋ねる。


「うん。皆さん、本当に優しく迎えてくれてさ」


ハミルは柔らかく笑った。


「よかったっす!あ、住むとこは見つかったんすか?」


「ここからエレカで15分くらいの場所に、マンションを借りたよ」


そう言って、ハミルはスマカを取り出し、部屋の写真を見せた。


「おぉ、めっちゃ綺麗な部屋じゃないっすか!」


光井は感心したように声を上げた。


「ありがとう。僕もアドルも、かなり気に入ってるんだ」


ハミルは嬉しそうに微笑んだ。


「引っ越し前って、なんかワクワクしません?」


「ふふ、そうだね」


ハミルは、少し懐かしむような表情を浮かべる。


「実はさ、アドルとは……元々、同棲するつもりだったんだ」


「まさか、こんな形で実現するとは思わなかったけどね」


その言葉に、光井はぱっと表情を明るくした。


「結果的によかったっすよ!」


「うん、本当にそう思うよ」


ハミルも穏やかな笑顔で返した。



「やっほー」


聞き慣れた軽い声に、アドルが振り向く。


「あ、リオさん。お疲れ様です」


「いやー、2人が来てくれてさ、マジ助かってるわ〜」


リオは気楽な調子でそう言った。


「いやぁ、そんな……」


アドルは少し照れたように笑う。


「あ、そうだ」


リオが何か思い出したように口を開く。


「はい?」


「今さ、“歓迎会”やろうって話になってんだけど、アドルとハミルの都合いい日、教えてくんない?」


「えっ!?そんな……いいんですか!?」


アドルは目を丸くした。


「当たり前じゃん♪ま、引っ越しの最中でバタバタしてるかもだけどさ」


リオは笑いながら肩をすくめる。


「いえいえ!すごく嬉しいです!」


アドルの表情がぱっと明るくなった。


その後、アドルはリオに自分たちの都合のいい日を伝える。


「じゃ、日程決まったら、すぐ連絡するね」


「はい、ぜひお願いします」


アドルは嬉しそうに頭を下げた。



歓迎会当日。


会場となったのは、食堂だった。


広々としたテーブルには、色とりどりの料理が並べられている。


肉料理、海鮮、果物、デザート——そのどれもが、今では滅多に口にできない天然食材ばかりだった。


普段の食事とは比べものにならないほど豪華な光景に、食堂は開始前から賑わいを見せている。


やがて、前へ立ったトーマスが静かに口を開いた。


「皆、ここ最近で立て続けに起きた出来事によって、混乱や疲弊も、まだ少なくないと思う」


「その中で、それぞれが現実を受け止め、それでも前へ進もうとしている——」


「そんな君たちの姿を、僕は誇りに思う」


穏やかな声だった。


だが、その言葉には確かな重みがあった。


そしてトーマスは、新たに加わった面々へ視線を向ける。


「新しい仲間——アドルくん、ハミルくん、そして……メルくん」


「我々は、君たちを心から歓迎する」


メルは、まさか自分の名前も呼ばれるとは思いもしなかったため、少し驚いたような表情を見せていた。


「さて、挨拶はこの辺にして」


トーマスはふっと笑みを浮かべた。


「今日は難しい話は抜きだ。皆、好きなだけ飲んで食べて楽しんでくれ。以上!」


直後——食堂中から大きな拍手が沸き起こった。



「お2人の出会いって、どんな感じだったんですか?」


興味津々といった様子で、みのりが身を乗り出した。


その周囲には、アンジュ、リオ、カリンをはじめ、多くの女性職員たちが集まっている。


歓迎会が始まってしばらく経ち、食堂のあちこちで賑やかな会話が広がっていた。


そんな中でも、アドルとハミルの周囲は特に盛り上がっている。


「そんなロマンチックな出会いじゃないよ」


アドルは少し照れたように笑った。


「オルフェで出会って、話してるうちに意気投合してさ。それで、自然と一緒にいる時間が増えていった感じかな」


「へぇ〜、いいじゃん!」


「じゃあ、どっちから告白したの?」


リオのその質問に、アドルが一瞬視線を逸らした。


「そこ、聞く?」


カリンがリオに言った。


「当然でしょ♪」


リオは悪戯っぽく笑う。


すると、隣にいたハミルが苦笑しながら口を開いた。


「なんか、照れるなぁ……きっかけを作ったのは、僕の方だよ」


「えぇーっ!」


周囲から一斉に声が上がる。


「ハミルさんからだったんですね!」


みのりが目を輝かせる。


「どんな感じだったんですか?ちゃんと雰囲気作って告白した感じ?」


アンジュがハミルに聞いた。


「そんな大層なものじゃないんだけど——」


ハミルは困ったように笑いながらも、どこか嬉しそうだった。


その隣で、アドルは少しだけ顔を赤くしながらグラスに口をつけていた。



「うわぁっ、すっご!これが“カニ”ってやつ!?」


メルはテーブルの上に置かれていた巨大なカニを両手で持ち上げ、そのまま大口を開けてかぶりつこうとした。


「バカ!そのまま食うやつがいるか!殻は剥くんだよ!」


烈が慌てて止めに入る。


「えー、そうなの?」


メルはきょとんとした顔をした。


「じゃあ、せっちゃん剥いて?」


「はいよ」


隣に座っていた閃は、肉料理を頬張りながら平然とカニを受け取り、器用に殻を剥き始める。


その間にも、メルは近くにあったムール貝をひとつ摘み上げた。


そして——


そのまま殻ごと口へ放り込む。


「おいし〜♡」


ガリガリッと景気よく殻が砕ける音が響いた。


「……それも剥くんだよ」


烈は呆れたように再びツッコむ。


「く、口の中……だ、大丈夫ですか!?」


東は心配そうにメルに声をかけた。


普通なら、間違いなく口の中を切っていてもおかしくない。


「ん?へーきだよ?」


メルはあっけらかんと答えた。


(お、おそるべし、強化兵……)


その光景を見ていた光井は、内心でそっとそう呟いた。



「パパっ」


不意に呼ばれた声に、トーマスは振り返った。


「クレア……!」


久しぶりの親子の会話だった。


トーマスはずっと、クレアのことを気にかけていた。


だが、このところは対応に追われ続け、まともに時間を取ることもできていない。


それでも、リオやカリンが時折クレアの様子を伝えてくれていた。


——クレアは大丈夫です。


その言葉に救われていたのは事実だ。


しかし、それでも父親としての心配が消えることはなかった。


「クレア……そして、ママにも。たくさん心配をかけてしまって、本当にすまない」


トーマスは静かに頭を下げる。


「大丈夫!私もママも、ちゃんと分かってるから!」


真っ直ぐな笑顔だった。


「ありがとう、クレア……」


娘が、自分の知らないところで成長していく。


そのことを、トーマスは強く実感していた。


するとクレアは、少しだけ頬を膨らませながら続ける。


「あ、でも!たまにはママにも連絡してあげてよ?少しだけでもいいから!」


「あはは……そうだね」


トーマスは苦笑しながら頷いた。


その表情は、普段の責任者としての顔ではなく——優しい父親のものだった。

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