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エーテルコード  作者: エトコッコ
第9章:変革

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第8話「繋がる力」


突然の閃の反応に、その場の全員が目を丸くした。


「ど、どうした……?」


烈が恐る恐る尋ねる。


閃は手に持っていたドーナツの残りを一口で頬張り、お茶で流し込むと、一呼吸おいて顔を上げた。


「“繋がった”」


その一言に、空気が変わる。


「繋がった……?」


音が思わず聞き返す。


「完全同調への道が……」


その言葉に、全員が息を飲む。


「閃くん……何か思いついたのね?」


牧がまっすぐに閃を見つめる。


「ちょ、ちょっと順を追って説明するっ!」


そう言うと閃は慌てて立ち上がり、ホワイトボードとペンを引き寄せた。



閃は、ボードに線を引きながら説明を始めた。


「まず——俺の“変換”で、エーテルの“ケーブル”を作る」


4つの点を線で結び、円のような形を描く。


「これで、俺たち4人を直接“繋ぐ”」


「次に、烈」


ペン先が烈の位置を指す。


「“強化”の特性を使って、このケーブルを通して全員の同調率を一気に引き上げる」


「で、ここからが重要」


閃はさらに線を重ねる。


「音の《調律のウィンド》を、この“繋がった状態”で使う」


「ケーブルを通すことで、全体に広げるよりも一人一人に対して、より精密に調整できる……と思う」


「……確かに、それなら“ブレ”も抑えられるかも……!」


音は小さく頷いた。


「そして最後は、怜」


ペンが止まり、円の中心を指す。


「全員の同調率が100パーセントに到達した瞬間——」


「“抑制”で、その状態を維持する」


静かな声だったが、はっきりと響いた。


「つまり——」


「俺が“繋ぐ”、烈が“引き上げる”、音が“調整する”、そして——怜が“維持する”」


4人の役割が、一本の流れとして繋がる。


「この流れでいけば、理論上、確実に完全同調に到達できる」


誰も、すぐには言葉を発せなかった。


それほどまでに、その構想は明確で、そして現実的だった。


さらに——


「それに、この方法なら……」


閃は少しだけ息を整えながら続ける。


「1人に負担が集中しない。全員で役割を分担するから、消耗も分散できる」


これまで音ひとりに偏りかけていた負荷も、大きく軽減される。


戦術としても、理論としても隙がない。


あらゆる面で、理想的な形だった。



閃が説明を終えた瞬間、その場にしばしの静寂が落ちた。


全員が、ただ目を丸くしている。


「閃……お、おまえ……」


烈が、信じられないものを見るように呟いた。


「閃くんっ!!!」


次の瞬間、音が満面の笑みで飛びつく。


その勢いのまま、閃は反射的に音を受け止め、抱き上げた。


「マジかよ!!オメー!!マジかよ!?」


烈は腹の底から笑いながら、バンバンと遠慮なく閃の背中を叩く。


「ネェ、ワレ、テンサイ?ワレ、テンサイジャナイ??」


当の本人はというと、自分でも驚いているのか、妙なテンションでカタコトになっていた。


「ブフッ!!あはは!」


それを見ていた怜も思わず吹き出し、珍しく声を上げて笑う。


張りつめていた空気が、一気に弾けた。


その中心で、4人が笑い合っている。


その光景を見ながら牧は、ふとある言葉を思い出していた。


“奇跡の四角フォースクエア”——


松永が、かつて口にした言葉だ。


それぞれが違う特性を持ち、それぞれが欠けてはいけない役割を担う4人。


その全てが噛み合ったときにだけ生まれるもの。


(……本当に)


牧は小さく息をついた。


(本当に……奇跡、なのかもしれない)


目の前の光景が、それを何よりも証明していた。



「うしっ!まずは、下準備からだな」


烈が腕を組みながら言う。


あの理論を実現するには、

それぞれが“役割に対応した力”を、きちんと形にしなければならない。


音の《調律のウィンド》のように、他の3人にも完全同調に必要な“新しいスキル”がいる。


「イメージは、もう掴めてる」


怜が静かに言った。


その横で、烈も頷く。


閃は2人を見て、確認するように言った。


「……3日あれば、形にできる?」


そして——


「ええ」

「3日もありゃ十分だ!」


2人は力強く答えた。


その返答に、閃は小さく笑う。


「よし。じゃあ俺たちは、3日間、新スキルの習得に使う」


はっきりと言い切る。


「あたしはその間、《調律のウィンド》の精度を、もっと仕上げるね!」


音が前に出るように言った。


「うん、お願い!」


閃もすぐに頷く。


それぞれが、自分のやるべきことを理解していた。


「牧主任!測定、付き合ってください!」


音が振り向き、ぱっと笑顔を向けた。


「ええ、もちろん!とことん付き合うからねっ!」


牧もすぐに応じる。


その言葉は、軽やかでありながら、しっかりとした支えだった。


目標は完全に見えた。


あとは、それぞれが自分の役割を、極限まで研ぎ澄ますだけ。


4人は、同時に動き出していた。



「アーンジュっ!」


廊下を歩いていたアンジュは、後ろからの明るい声に振り返った。


そこにいたのは、クレアだった。


その表情を見た瞬間、アンジュはすぐに気づく。


数日前とはまるで違う、晴れやかな顔だった。


「クレア、ずいぶんスッキリした顔してんじゃん」


アンジュは口元を緩めながら言った。


「うん!おかげさまでね。それとさ——」


クレアは笑顔で頷き、改めて向き直る。


「心配かけて、ごめんなさい」


その素直な言葉に、アンジュはくすっと笑った。


「もー、ホントだよ。無理してんの、見え見えだったし」


「本当にごめんね、アンジュ」


「ま、いつものクレアが戻ってきたなら、許す!」


軽く笑うアンジュに、クレアもつられて笑う。


「アンジュ——ありがとね」


ふと、真面目な声で言う。


「ウチ、なんもしてないよー?」


不思議そうに返すアンジュ。


クレアはくすりと笑って、少しだけ頬を染めた。


「私のこと、励ましてほしいって……烈くんに伝えてくれたんだよね?」


「え??」


アンジュの表情が、一気に“素”になった。


クレアは、あの夜の出来事を思い出しながら話し始めた。


「だって、烈くんが私の好きな“ももの汁”知ってるはずないし……きっとアンジュが教えてくれたのかなってさ」


「??」


アンジュはぽかんと口を開けたままだった。


「本当に、嬉しかった」


そう言って、微笑みながらアンジュを見た。


アンジュは、頬をぽりぽりとかきながら、目を泳がせる。


「あの、クレアさ……」


少し気まずそうに口を開く。


「ウチ……烈に、何も言ってないんだよね……」


「……え?」


空気が、一瞬止まる。


「て、てことは……」


クレアの頭の中で、ゆっくりと答えが組み上がっていく。


烈は、自分の意思で来た。


あのジュースも、自分で選んだ。


偶然かもしれないし、そうじゃないかもしれない。


その全部が、一気に頭に流れ込んでくる。


そして、みるみるうちに、クレアの顔が赤くなっていく。


「ま!良かったじゃん!!」


アンジュがニヤッと笑いながら、ぽんぽんと背中を叩く。


「いつの間にか“烈くん”なんて呼んじゃってさ!」


「……っ!!」


クレアは思わず両手で顔を覆った。


「もーさ、この際……付き合っちゃえばぁ〜?」


完全に面白がっている顔で、アンジュが追い打ちをかける。


「あ、あ、あわわわわ……!!」


クレアは今にも湯気が出そうなほど真っ赤になり、その場でわたわたと慌てていた。

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