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エーテルコード  作者: エトコッコ
第9章:変革

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第7話「特性」


数日後。


ファクターズは、エコー測定室に集まっていた。


室内には複数のモニターが並び、同調率、脳波、エーテル波といった数値がリアルタイムで表示されている。


それぞれがヘッドギア式の測定器を装着し、牧が隣室からデータを管理していた。


その中心にいるのは、音。


何度も深く息を整えながら、《調律のウィンド》を繰り返し発動している。


発動のたびに、モニター上の数値が微かに揺れ動く。


牧は、その変化を真剣な表情で追っていた。


測定開始から、すでに2時間が経過していた。


「よし、一旦休憩しよう」


閃がそう言って、ヘッドギアを外した。


ぴんと張りつめていた空気が、少しだけ緩んだ。



4人はモニターに表示されたデータを眺めながら、休憩を取っていた。


「音、大丈夫?」


怜が静かに声をかける。


「うん!全然大丈夫だよ!」


音はすぐに明るく答えた。


実際、その表情や呼吸を見る限り、まだ余力は十分にありそうだった。


「《調律のウィンド》の効果で、みんなの同調率が1パーセント近く動いてる!」


牧が嬉しそうにモニターを指しながら言う。


測定開始時は、0.2〜0.3パーセント程度の微細な変動だった。


それが、たった2時間で3倍近くまで伸びている。


明らかな進歩だった。


「音、すごいよ!」


閃は素直に笑顔で称賛する。


しかし、音は浮かない表情だった。


「まだ……全然だよ。たった1パーセントじゃ……」


悔しさを滲ませながら、小さく呟いた。


「あたし、もっと頑張るから!」


ぱっと顔を上げ、強く言い切る。


その言葉に、牧が少しだけ眉を下げた。


「音……“たった1パーセント”って言うけどね」


やわらかく、はっきりとした声で続ける。


「自分を含めた4人の同調率を一律で調整するなんて、とてつもないことよ?」


「マッキーの言う通りだぜ、音」


烈も腕を組みながら頷く。


「自分の同調率をコントロールするだけでも大変なのに……それを全員分って、マジでスゲーよ」


「……それに」


怜が静かに言葉を継ぐ。


「頑張るのは、音だけじゃない」


その視線は、まっすぐ音に向けられていた。


「これじゃ、音の負担が大きすぎる」


「確かに、その通りだな」


烈も同意する。


その言葉に、音は少しだけ俯いた。


「何か、ごめんね……みんな……」


申し訳なさそうに、小さく頭を下げる。


「謝る必要なんてないって」


閃はすぐに否定した。


「音はもう、これ以上ないくらい頑張ってくれてるし……こうして新しいスキルだって形にしてくれてる」


「それにさ、同調率を合わせるって言っても……そもそも俺たち、基礎同調率……つまり、スタートラインからバラバラなんだ」


「だから難しいのは当然。むしろ、ここまで持ってきてる時点で十分すごいよ」


閃の言葉に、音の表情は自然と和らいでいた。



牧はモニターに視線を落としたまま、ゆっくりと口を開いた。


「エーテルの波長がそれぞれ違うように、同調率や、その変動の仕方にも“個性”が出るの」


「個性……」


閃が小さく呟く。


「わかりやすく言うとね——」


牧は画面を操作し、いくつかのグラフを並べた。


「炎のエーテルを持つ烈くんは、変動率が最も大きい。数値の振れ幅も激しいけど、上昇率は誰よりも高い」


烈のグラフは、3人に比べ上下に大きく揺れている。


「それに対して、氷のエーテルを持つ怜は、最も変動率が小さい。上昇率は低い分、かなり安定してる」


今度は、ほとんど滑らかな線を描くグラフ。


「これは、エーテルそのものの“特性”が大きく関わってるの」


燃え上がる炎と、凍てつく氷。


対照的な性質が、そのまま数値に現れているようだった。


牧は一度言葉を区切り、少しだけ考えるように視線を落とす。


「ここからは……あくまで私の仮説なんだけど——」


「現時点で、完全同調を2回発動できているのは怜だけ」


「もちろん、タイミングや状況、精神状態……いろんな要因があると思う」


「でもね——」


牧は静かに続ける。


「その一つとして、“変動率が小さい”っていう怜の特性が関係してるんじゃないかって思うの」


大きく揺れるものより、安定しているものの方が一定の状態を維持しやすい。


完全同調に必要なのは、まさにその維持する力だった。


牧の仮説は、筋が通っていた。


「……言われてみれば、理にはかなってる」


当の本人である怜も、小さく頷いた。



「エーテルの特性か……」


閃は、改めてその言葉を頭の中でなぞる。


これまで“なんとなく理解しているもの”として扱っていたそれを、今はひとつひとつ、はっきりと言語化するように整理していく。


まず、閃の特性は“変換”。


雷のエーテルを基盤に、様々なエネルギーへと性質を変える。


電力として電子機器に供給すれば、文字通り“充電”することができる。


武器へ電気を流し込めば、出力や反応速度を引き上げることができる。


さらに、電流を形として扱い、縄のように伸ばして対象を拘束したり、さらに拘束したものを、そのまま操作することすら可能。


次に、烈の特性は“強化”。


炎のエーテルを持つ彼は、最もわかりやすく戦闘向きの特性をしている。


ファクターへの覚醒の影響で、筋力、瞬発力、耐久力——すべてが高水準で引き上げられる。


また、免疫力や回復力といった、生存能力そのものも他のファクターよりも高い。


言ってしまえば、壊れにくく、前に出続けられる存在。


炎の性質そのままに、揺れは大きいが、その分、出力も大きい。


次に、怜の特性は“抑制”。


氷のエーテルが象徴する通り、極めて静かで、ぶれが少ない性質。


感情の起伏が少なく、精神状態が常に一定に近い。


その結果、エーテルの流れも乱れにくく、スキルの発動精度や持続性が非常に高い。


出力を上げるのではなく、“乱れをなくす”。


それが怜の強みだ。


そして、音の特性は“癒し”。


風のエーテルを持つ彼女の力は、他の3人とは少し違う。


それは、個人のみならず、他者にも影響をあたえること。


乱れた精神状態を整え、緊張や不安を和らげる。


それは単なるメンタルケアではなく、エーテルそのものの流れにも影響を与える。


結果として、同調率の安定や調整を可能にする。


まさに“整える”ことに特化した力だ。


その分、広範囲になったり対象が増えるほど、かかる負担は大きくなる。



(あとちょっと……あとちょっとで、何か掴めそうなんだよな……)


頭の中で、断片的なイメージが何度も浮かぶも、噛み合いそうで、噛み合わない。


そのとき——


「皆さん、お疲れ様です」


柔らかな声とともに、加藤が姿を見せた。


「あ、カトちゃん!おつかれー」

「お疲れ様です、加藤先生」


それぞれが自然に応じる。


「これ、皆さんで食べてください」


そう言って、手にしていたビニール袋を机の上に置いた。


「ありがとう!カトちゃん!」

「加藤先生、いつも差し入れありがとうございます」


「いえいえ。では失礼します」


軽くお辞儀をして、加藤は静かに部屋を後にする。


閃はさっそく袋の中を覗き込んだ。


「お、めっちゃ入ってるじゃん」


取り出したのは、ドーナツのセットに、どら焼き、菓子パン——甘いものがぎっしり詰まっている。


「みんな、食べよー」


その一言で、3人も自然と手を伸ばした。


一方で、少し離れた位置にいた牧は、どこか遠慮している様子だった。


「マッキーも食べなよ」


閃はドーナツを頬張りながら、にこっと笑う。


「え、私もいいの?」


「当然じゃないですか!」


音がぱっと明るく言う。


「早くしないと、全部食べちまうぜ?」


烈が冗談めかして肩をすくめる。


「……ふふ、じゃあお言葉に甘えて」


牧は少しだけ笑って、どら焼きをひとつ手に取った。



閃はドーナツをかじりながら、ぼんやりと考えていた。


(特性……個性……バラバラ……でも、合わせる……)


そのとき——


閃の頭の中で、何かがぴたりと噛み合った。


「……あ」


小さく、思わず声が漏れる。


点と点だったものが、一気に線になり始める。


「これだよ……!これだっ!!」


閃は思わず声を上げ、勢いよく顔を上げた。

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