表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルコード  作者: エトコッコ
第9章:変革

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/68

第4話「境遇」


夕方。


みのりとアンジュ、そしてメルの3人は、並んで食堂へと向かっていた。


「ぷはー!サッパリしたー!」


メルは、みのりの部屋でシャワーを浴びたばかりで首にはタオルをかけている。


さらに、みのりの部屋着を借りて身につけていた。


ほぼ同じ身長のふたりだけあって、サイズは驚くほどぴったりだった。


「——で、サッパリしたら、次はお腹すいたってワケ」


上機嫌なメルの様子を横目に、みのりはアンジュへと視線を向ける。


「そっか。あの空き部屋、旧式のやつだから、シャワーとか付いてないんだ」


アンジュは納得したように頷いた。


メルが使うことになった部屋は、オルフェ日本支部が設立された当初に使われていた、簡易的なものだった。


寮として改装される前から存在していたため、現在の個室と比べるとやや手狭で、シャワーやトイレ、洗面所も備え付けられていない。


とはいえ、不便というほどではない。


トイレや洗面所は各フロアに複数設置されているし、地下5階の訓練エリアに行けば、シャワーは24時間いつでも利用可能だ。


さらに、週に3回——男性は月・水・土、女性は火・木・日には、生活エリアの温泉も使用できる。


生活するうえで困ることは、ほとんどない環境だった。


そして何より、メル自身はそういったことをまったく気にしていない様子だ。


「今ある旧式の部屋ってさ、いろんな人が倉庫代わりに使ってて荷物だらけなんだって。で、唯一何も置いてなかったのが、音の隣のあの部屋だったらしいよ」


みのりが説明する。


「なるほど……そういうことね」


アンジュは小さく頷いた。


「あー腹減ったー」


メルが遠慮なくぼやく。


「呑気なやつー」


みのりは呆れたように笑った。



いつもより少し早い時間に食堂へ入ると、すでにテーブルに座っている閃の烈の姿があった。


「あれ、2人ともこんな早く来てるなんて、珍しいね」


アンジュが声をかける。


「そっちこそ……って、メル」


閃はすぐにメルの姿に気づいた。


「あ、せっちゃーん♡」


次の瞬間、メルは迷いなく閃に飛びつく。


どうやら施設の案内をしているうちに、すっかり懐いてしまったらしい。


「と、テツ」


「烈な」


名前を間違えられた烈が、間髪入れずに訂正する。


「テツはわんちゃんのほう」


アンジュが呆れたように補足した。


「てか、離れなさい!」


みのりは慌ててメルを閃から引き剥がそうとする。


そんなやり取りの最中、UB――ユーティリティボッツが静かにテーブルへ料理を運び始めていた。


次々と並べられていく出来たての料理から、湯気と香りがふわりと広がる。


「わっ!めっちゃ美味そう!」


メルは目を輝かせ、思わずその場で跳ねた。


「コレ、全部食べていいの?」


期待に満ちた声でアンジュに尋ねた。


「まぁ……うん。バイキング形式だから——」


メルの姿はもうそこになかった。


(早っ)


アンジュは心の中で、静かにツッコんだ。



メルに続くように、残りの4人もそれぞれ料理を取りに動き出した。


湯気の立つ皿や、色とりどりのメニューが並ぶ中、UBが静かに案内を続ける。


「キョウハ、ビーフシチューモ、ゴザイマス」


「あ!今日ビーフシチューの日だっけ?やった!」


その一言に、閃はぱっと表情を明るくした。


「お、ビーフシチューか」


烈も興味を引かれたように、軽く頷く。


「モウショウショウ、オマチクダサイ」


丁寧にそう告げると、UBは小さくお辞儀をし、次の準備のためにその場を離れていった。



メルの前には、所狭しと料理が並んでいた。


大皿が4枚分――それぞれに山盛りにされた料理が、テーブルを埋め尽くしている。


「あんた……それ、本当に食べれるの……?」


アンジュは思わず目を丸くして問いかけた。


「あったりまえじゃん♪」


メルはけろりと答え、迷いなくフォークを手に取る。


「あ!確か日本ではこうするんだっけ?いただきました〜」


「いただきます、ね」


みのりがやんわり訂正する。


「いただきまーす」


言い直すや否や、メルは勢いよく食べ始めた。


まさに“がっつく”という表現がぴったりだった。


「いい食いっぷりだな……」


その様子を眺めながら、烈がぽつりと漏らす。


「あ!ビーフシチュー来た!」


一方で、閃は完全にビーフシチューに心を奪われていた。



あっという間に目の前の料理を平らげたメルは、迷いなく立ち上がり、そのままおかわりへ向かっていた。


「すげーな……オイ」


さすがの烈も、驚きを隠せない。


みのりとアンジュも、思わず無言で頷いた。


しばらくして、再び山盛りのプレートを抱えて戻ってくるメル。


「メル……どんだけお腹すいてたのよ……」


みのりが半ば呆れたように問いかける。


「だって美味しいんだもん」


メルはあっけらかんと答えた。


オルフェの食堂は、特別なものではない。


一般的な企業にあるような、いわゆる“普通”の食事だ。


それでも——メルにとっては、違った。


「なぁ……天華にいたときは、どんなもん食ってたんだ?食堂くらいはあっただろ?」


烈が何気なく尋ねる。


「あー、確かあったような……でもメル、一回も行ったことないからわかんない」


軽く思い出すように言いながら、メルは手を止めない。


「味気ないって、よく聞いてた気がする」


さらに一口頬張りながら続けた。


「そもそも食事なんて、ずっとブロックフードとかシリアルで簡単に済ませてたし」


「それだけか?だいぶ偏ってんな……」


烈が眉をひそめる。


「あとは、お菓子とかジュース」


「余計偏ってんじゃん」


アンジュが思わずツッコむ。


(そっか……この子のいた環境って、そんな感じだったんだ……)


みのりは、心の中でそっと呟く。


メルをはじめとする強化兵たちは、“戦うために生まれた存在”。


人の姿をした兵器とも言われている。


武力を重んじる天華の思想は、根本からして常識とは違っていた。


そんな環境で育ってきたメルにとって、今こうして囲んでいる食卓や、当たり前のように整った生活は、きっと想像以上に新鮮なものなのだろう。


目の前で美味しそうに頬張るメルの姿を見て、みのりの口元にふっと笑みがこぼれた。


「なーんか……メルの食べっぷり見てたら、またお腹すいてきちゃった!あたしもおかわりいこーっと」


軽やかにそう言って、みのりは席を立った。



食事を終え、閃は自室へと戻り、烈はテツのもとへ向かった。


残されたみのり、アンジュ、メルの3人は、談話室で思い思いにくつろいでいる。


「ふぃー、食った食ったー」


メルは爪楊枝で歯の隙間をつつきながら、満足げに言った。


「オッサンか」


アンジュがすかさずツッコむ。


「あぁ、そういや日用品は無料で置いてあるから」


みのりが何気なく補足する。


「ホント、オルフェの施設って天国だわ〜」


メルはシシシと笑いながら言った。


「ウチらにとっては普通だけどさ、改めて考えると……ホント、住みやすいよね」


アンジュはしみじみと呟く。


「うん……当たり前のことに、ちゃんと感謝しないとね」


みのりも静かに頷いた。


「てかさ〜……」


ふいに、メルが話を切り出す。


「メルの部屋、まだ何にもないじゃん?」


少し身を乗り出して、続ける。


「だから、部屋完成するまで泊めてよ」


あまりにも自然な提案に、2人は同時にメルの顔を見た。


「寂しがり屋か」


アンジュが呆れ半分で言う。


「えーダメー?じゃあ、せっちゃんの部屋行こうかな♡?」


「ダメ、ぜっっったいダメ」


みのりは間髪入れずに即答した。


その速さに、アンジュが思わず吹き出しそうになる。


「もぉー……それなら、あたしの部屋に来なさい」


少し観念したように、みのりが言った。


「わぁい♡」


ぱっと顔を輝かせるメル。


その無邪気な反応に、みのりはやれやれと肩をすくめつつも、どこか楽しそうに微笑んだ。


「いいの?みのりん。ウチの部屋でもいいよ?」


アンジュが気を利かせて声をかける。


「なら今日はみのりの部屋に泊まって、明日はアンジュの部屋に泊まる♪」


メルは嬉しそうに、あっさりと両方採用する。


「はいはい、じゃあそれで」


みのりは苦笑しながら頷いた。


——けれど


その胸の奥で、ほんの少しだけ弾む感覚があることに気づいた。


(……ま、こういうのも悪くないか)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ