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エーテルコード  作者: エトコッコ
第9章:変革

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第3話「移住」


リーアとの対話を終えた松永は、足早に司令室へと向かった。


そして、改めてトーマスへ連絡を入れる。


先ほどの会話の録音データに加え、リーアから提供された過去ログ――それら一式を送信した。


『なるほど……段々とピースが繋がってきた』


データを確認しながら、トーマスが低く呟く。


「やはり、アメリカ支部は……完全に……反応がありません……」


モニターを注視したまま、リオが報告する。


その声には、わずかな緊張が滲んでいた。


「……破壊された、というより――“一瞬で消された”……だから、アメリカ支部の消滅にオーキュラムは反応しなかった……?」


松永は思考をなぞるように、静かに言葉を紡ぐ。


『黄金のED……ファイ。このログを見る限り、それほどの力を持っていることは明白だ』


トーマスの声は落ち着いていたが、その奥には確信が宿っていた。


「……そして、ファイのファクターが誰なのかもね……」


松永はわずかに目を細め、核心へと踏み込む。


『ああ……間違いない』


トーマスは静かに、しかし断定的に言い切った。



「——と、いうわけ。さ、みんなにご挨拶」


閃は、オルフェで暮らすことになったメルを、訓練生たちに紹介していた。


突然の話に、場の空気は一瞬固まる。


誰もが驚きを隠せずにいた。


「よろしく〜」


そんな空気など意に介さず、メルは軽やかに手を振る。


「よ、よろしくお願いします……」


東は戸惑いを滲ませながらも、なんとか返事をした。


「こ、ここ、こんな可愛い子が……あのΩチームって……!!」


光井は、別の意味で衝撃を受けている。


「だ……大丈夫……なの?」


みのりは、不安そうにメルを見つめた。


「エドワードさんの脱退の次は、Ωの強化兵がオルフェに住むって……もー……頭ん中ぐちゃぐちゃ……」


アンジュはここ最近の急激な変化についていけず、頭を抱えている。


「まぁ……みんなの気持ちはわかるよ」


閃は苦笑しながら頷いた。


「でも、Ωチームと戦う必要がなくなったって思えば……少しは安心できるだろ?」


その言葉に、訓練生たちは顔を見合わせたあと、ゆっくりと頷いた。


「それに、ちゃんとルールには従ってもらう約束もしてるからさ。大丈夫!」


閃はいつもの調子で、にこやかに言い切る。


「まぁ……それなら……」


みのりはまだ警戒を解かずに、メルを見つめながら小さく呟いた。


「あんた、チビねぇ〜」


——その瞬間、空気が変わった。


メルが唐突に放った一言に、みのりの目が見開かれる。


「アンタも変わんないでしょ!!」


反射的に言い返すみのり。


「何センチ?」


「ひゃ……141……」


消え入りそうな声で答える。


「メルの方が1cmおっきい♪」


メルは得意げに胸を張った。


「どんぐりの背比べだっつーの」


アンジュが呆れたようにツッコミを入れる。


「アンタはエッチな下着つけてそう」


今度は矛先がアンジュへ向く。


「んなこと言うな!」


思わず声を荒げたアンジュの頬が、ほんのり赤く染まった。


(なぁ……なんか、思ったより大丈夫そうじゃないか……?)


光井は隣の東に、小声で囁く。


(そ……そうですね……)


メルの勢いに押されつつも、東も同意するように頷いた。


「あ、そうそう。簡単に自己紹介してもらおうか」


閃の一声で、訓練生たちは順番に名乗っていく。


一通り終わると、メルが軽く指を折りながら口を開いた。


「えーと……アズマに、ミツイに、ミノリに、アンジュ……ね」


まだ少しぎこちない発音だったが、それでもしっかりと名前は覚えていた。


「とりあえず、施設の案内しながら挨拶回りしてる途中だから、また後でね」


「まったね〜♪」


ひらひらと手を振り、閃とメルはその場を後にする。


残された訓練生たちは、しばらくその背中を見送っていた。


そして——


(な、なんだろう……新しいライバルの予感……)


みのりの胸の中で、小さなざわめきが芽生えていた。



施設を一通り見て回り、ようやくひと息ついた頃。


閃はソファに腰を下ろし、ドリンクを片手に小さく息を吐いた。


そのとき、背後から遠慮がちな声がかかる。


「や、やほ……」


振り向くと、そこには少し怯えた様子の音が立っていた。


「音、どした?」


閃は軽く手を上げながら尋ねる。


「あ……よかったら、メルちゃんの部屋、あたしが案内しようかなって……」


音は指先をもじもじと動かしながら、どこかぎこちなく言った。


——前の戦闘で、メルは音に対して強い執着を見せていた。


その記憶があるからこそ、音の表情にはわずかな緊張が残っている。


それでも音は、メルの事情を受け入れ、オルフェへの移住にも同意していた。


なおかつ、“絶対に音をいじめないこと”という条件は、しっかりとメルに釘を刺してある。


「……うん、そうだね。女子寮だし、その方がいいか。じゃあ、音にお願いしようかな」


自分から申し出たとはいえ、音の様子にわずかな不安を覚えつつも、閃はその意思を尊重した。


「うん!……なら、メルちゃん。あたしについてきて?」


音は意を決したように、メルへと声をかける。


「よろしく〜♡」


メルは軽やかに立ち上がると、そのまま音にぴたりと寄り添った。


「ひゃっ!?」


不意の距離に、音が小さく悲鳴をあげる。


「メールー?」


閃が少しだけ低い声で名前を呼ぶ。


「あはは!ごめんって!」


メルは悪びれもなく、ケラケラと笑った。


「あ……!いや、急だったからびっくりしただけだよ!だ、だから大丈夫!行こっ!」


音は慌てて取り繕うように言い、ぎこちない笑顔を浮かべる。


(……本当に大丈夫かな)


並んで歩き出した2人の背中を見送りながら、閃は小さく胸の内で呟いた。



「へぇー、狭いけどキレーじゃん」


女子寮の空き部屋へ案内されたメルは、遠慮のない第一声を放った。


室内は、備え付けの机と椅子、ベッド、クローゼットのみ。


余計なものは何ひとつない、簡素な空間だ。


「隣の部屋は、わたしだから……何か困ったことがあれば、呼んでくれたら——」


「えっ!となりアンタなの?やったー♡」


音の言葉を遮るように、メルがぱっと声を弾ませる。


「ま、まぁ……喜んでもらえるなら……」


少し照れたように、音は頬をかいた。


「ヨロシクねっ!音♡」


次の瞬間、メルはそのまま勢いよく音に抱きつく。


「ぎにゃっ!!」


不意打ちに、またもや妙な声が飛び出した。


その反応がよほど面白かったのか、メルは腹を抱えて笑い出す。


(こういうところ……ちょっと閃くんに似てるかも……)


そんなことを思いながら、音の口元にも自然と笑みがこぼれていた。



「ね、ねぇ……メルちゃん……」


少し間を置いて、音は意を決して切り出す。


「前に戦ったとき、“マヌケ面”って言ってたけど……」


言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。


「あれって……わたしのこと……?」


問いを受けたメルは、きょとんと目を瞬かせた。


「いや、どう考えてもアンタの乗ってたマシンのことでしょ」


あっさりと、そして率直に言い切る。


「アンタ、めっちゃ可愛いじゃん」


「……え、あ、ありがと……」


予想外の一言に、音は一気に頬を赤くした。


「自分のことだと思ってたの?」


「う、うん……」


思わず漏れた答えに、メルはくすっと笑う。


「あ!でも、ツムギも可愛いでしょ?」


「うん!バカっぽくて可愛いよ」


——褒められているのかどうか、判断に困る評価だった。


音は一瞬、返す言葉を失う。


「アンタはね、メルのどストライクなの♡」


急に甘えた声音に変わり、メルは上目遣いで距離を詰めてくる。


思わず音は一歩、後ずさった。


「ねぇ〜♡ちょっとお願いがあるんだけど……」


そう囁くと、メルは音の耳元に顔を寄せ、こそこそと何かを伝える。


その内容を聞くにつれて——音の顔はみるみる赤くなっていく。


「だ、だだだ!ダメ!!それはダメっ!!」


堪えきれず、大きな声が飛び出す。


「えー、ダメなのー?」


不満げに頬を膨らませるメル。


「ぜっったいダメ!!そ、それはっ……!!それに……そんなことしたことないもんっ!!」


音は必死に首を振りながら訴える。


「メルだってないよ〜」


「そういうことじゃなくて……ダメだから!!もぉ〜……」


真っ赤な顔のまま、音は全力で拒否した。


「ちぇ〜」


メルは少しだけ残念そうに、肩をすくめた。

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