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エーテルコード  作者: エトコッコ
第9章:変革

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第2話「合流」


エドワード脱退の報が基地全体に広がって間もなく、閃と烈は予定通りパトロールへ向かおうとしていた。


張り詰めた空気の中、それでも日常を回すしかない——そんな空気が、2人の間にもあった。


だが、その均衡はあまりにもあっさりと崩れる。


館内に、警報音が響き渡った。


『天華のΩクラス強化兵の反応!!ファクターズは至急出撃準備を!!』


一瞬、2人は顔を見合わせるも、次の瞬間には、同時に駆け出していた。


「Ωの連中、最近やけに大人しかったが……ついに来やがったな」


走りながら、烈が吐き捨てるように言う。


「……なんか、久しぶりな感じ」


閃はそう返したが、その声音にはわずかな疲労が滲んでいた。


「てか、短期間で色々ありすぎなんだよ」


烈の言葉は、半ば愚痴のようでいて、的確でもあった。


ゼクスト及びイシュタール、そしてエドワードの突然の脱退――事態はあまりにも急激に動きすぎている。


「確かに」


閃は小さく頷く。


整理しきれないまま、次の局面が押し寄せてくる。


そんな感覚だった。



ドッグに到着したときには、すでに怜と音が各EDへ搭乗を終えていた。


閃と烈もすぐに搭乗し、エーテルを集中させる。


その瞬間だった。


各ED、そして司令室へ一斉に通信回線が開かれる。


発信元は、リーアのレギオンΩだった。


予想外の接触に、司令室の空気がわずかに揺らぐ。


リオは思わず松永へ視線を向けた。


「……とりあえず、開いて」


短く、しかし迷いのない指示。


通信が開かれると同時に、ファクターズ側も回線を共有する。


『待って待って。ウチら戦闘目的じゃないから』


あまりにも唐突な一言だった。


誰もが一瞬、言葉の意味を理解できずに固まる。


その反応を見越したように、リーアは軽く言い直した。


『あ、えーと……こちらリーア。戦闘の意思はありません』


「ど、どういう……」


困惑するリオを制し、松永が前に出る。


「Ωチームのリーアさん……ですね。再度確認します。戦闘の意思はない、と?」


『だからさっきからそう言ってるじゃん』


リーアが返すより早く、横からメルが口を挟んだ。


『ちょ!メルは黙ってて!……えーと、そうです』


軽く息を整えながら、リーアが言い直す。


「……目的は?」


松永の声は終始冷静だった。


『ん〜……話すと長くなるんすよね〜』


その曖昧な返答に、松永の中で一つの仮説が浮かぶ。


(……エドワード絡みかもしれない)


トーマス不在の今、判断は自分に委ねられている。


わずかな沈黙の後、松永は決断した。


「わかりました。オルフェ内で話を聞きましょう」


「——ただし、安全が確認されるまでは武装は維持します」


『も〜しつこいなぁ〜』


『メ〜ル〜?……もちろん、構いません』


メルを軽く制しながら、リーアはあっさりと受け入れた。


そのやり取りを聞いていたファクターズへ、松永が指示を飛ばす。


『ファクターズは、レギオンから強化兵が降りるまで、EDで待機してて』


「了解」


全員が応じ、緊張の中で静かに待機する。


その最中、烈から閃へ通信が入る。


『なぁ……レーダー、レギオン1機だけだよな?』


『でも……声は2人分だったな』


『……やっぱ、1機に2人乗ってんのか』


『何か事情があるのは間違いなさそうだ』


短いやり取りの最中、赤いレギオンΩが指定地点へ降下した。


武装した職員たちが包囲し、アサルトライフルの銃口を向ける。


やがてコクピットハッチが開き、リーアとメルが姿を現した。


衣類を失っていたメルは、どこかで入手した水色のワンピース姿だった。


職員はアサルトライフルを構えたまま、ゆっくりと近づき、探知ゴーグルでリーアとメルを確認していた。



『問題ありません』


「わかったわ。そのまま応接室に案内して」


リーアとメルは、職員に案内され、応接室へと入った。


「どうぞ、掛けてください」


松永に促され、2人はソファへ座った。


ファクターズは、細心の注意を払っていた。


彼らは松永の護衛の役割も兼ねていた。


戦闘の意思がないとはいえ、相手はΩクラス。


ファクターと同等、あるいはそれ以上の身体能力に加え、卓越した戦闘技術を有する彼女らは、たとえ武装した兵士が数十名いようとも、丸腰のまま瞬く間に殲滅してしまうほどの力を持っている。


緊張した面持ちでいるファクターズとは対照的に、リーアとメルは非常にリラックスしていた。


「そんな身構えないでよー」


「そう言われても……ね」


閃が静かに返す。


「では、さっそくですが……」


松永の促しに、リーアはゆっくりと語り始めた。



話が終わる頃には、空気は完全に変わっていた。


松永も、ファクターズも言葉を失っていた。


リーアのスマカから提示された通信ログ、映像。


そこに映っていたのは、常識を覆す存在。


黄金の巨人――ファイ。


「なんだよ……これ……」


烈の声は震えていた。


「エドワードさんが……オルフェを……利用してたって……」


音は涙をこぼしていた。


「アメリカ支部が……消滅……?」


怜の声にも動揺が滲む。


「人が……生き返った……?」


閃は、ただ目の前の映像を見つめることしかできなかった。


そして——


「……天華本拠地は、消滅……で間違いないのね?」


「そうですね」


リーアはあっさりと肯定した。


あまりにも軽い口調が、逆に現実の重さを際立たせる。


「で、ウチらはチャンってヤローの命令で動いてたんですけど」


「そのチャンが死んだんで、もうフリーなんすよ」


「つまり――戦う理由がなくなったってこと」


静まり返る室内。


「……なるほど。こちらとしても、不要な戦闘は避けたい——」


松永が口を開いた、その瞬間。


「オ、オイ!ちょっと待てよ!本当かよ!」


烈が声を荒げる。


「本当だよ?」


リーアは即答する。


「それとも……決着つけたいの?」


リーアの問いに、烈は言葉を詰まらせた。


「……いや……ただ、こんな終わり方、想像してなかっただけだ」


「それはウチらも同じだって」


リーアは肩をすくめる。


「ま、人生なにが起こるかわかんないってコトよ」


「……確かに」


閃が静かに応じた。


「正直……Ωチームと戦わなくていいなら、それに越したことはないし」


閃はそう言って、隣の烈へと視線を向けた。


「まぁ……そりゃ、そうだな」


烈もまた、小さく頷きながら応じる。


それほどまでに、ファクターズにとってΩチームは脅威の存在だった。



「これから、どうするの?」


閃の問いに、リーアは笑った。


「ウチは自由気ままに行動するさ♪」


その視線の先で、メルがソファでぐっすり眠っている。


「でさーお願いがあるんだけど、この子……メルをここで預かってくんない?」


リーアの突然の提案に、その場は一瞬、静まり返った。


最初に口を開いたのは松永だった。


「え、えっと……それは……」


「まーイイじゃないですかー♪」


リーアが軽い調子で割って入る。


どうやら、かなり本気でメルを置いていくつもりらしい。


「部屋、空いてる?」


いつの間にか目を覚ましていたメルが、ひょこっと顔を上げて松永に尋ねた。


「空きはあるけど……」


「ならよろしく〜」


ぺこり、と素直に頭を下げるメル。


「まだ決まったわけじゃねーよ!」


烈が思わずツッコミを入れる。


「メ〜ル〜?ちゃんとお世話になるなら、礼儀正しくしなさいよ?」


リーアがやや呆れたように言う。


「わかってるよぉ」


「特に日本は、礼儀を重んじる文化だからね? わかった?」


「はぁ〜い」


(……なんかもう、住む前提で話進んでる)


一連のやり取りを眺めながら、怜は内心で小さくため息をついた。


「まぁ、放置しておくより、ここに置いておいた方が安全ですし……いいんじゃないですか?」


閃が松永に視線を向けて言う。


その言葉の「安全」が指すのは、メルではなく一般市民の方だった。


「そうねぇ……」


松永は少し考え込む。


「それに、もし何かあっても、僕らがいますから」


「……確かにそうね。ただ、まずはトーマス総帥代理に確認しないと」


そう言うと松永は席を立ち、応接室を出てトーマスへ連絡を入れた。



ほどなくして戻ってきた松永は、トーマスから許可が下りたことを伝えた。


「良かったね、メル♪」


リーアがメルの頭をぽんぽんと軽く叩く。


「あらためて、よろしゅうおねがいしますぅ〜」


妙なイントネーションのローカル語で、メルが再び挨拶をした。


その言い回しに、松永とファクターズは思わず笑みをこぼした。


「もー、笑わないでよ!!」


そう言いながらも、メル自身もどこか楽しそうに口元を緩めていた。



「んじゃ♪そうと決まれば、ウチはそろそろおいとましますかぁ」


リーアが立ち上がる。


「リーアさん、様々な情報提供ありがとうございました」


松永は丁寧に頭を下げた。


「いやぁー、こちらこそ。話が通じる人でよかったっす!」


「じゃ!メルをよろしくお願いします!」


そう言い残し、リーアは応接室を後にして、レギオンの元へと向かった。



「リーアー!!バイバーイ!!」


メルは飛び立とうとするレギオンΩに向かって、大きく手を振った。


リーアもまた、機体越しに手を振り返し、そのまま高速で空へと消えていく。


(元気でね、メル)


胸の内でそう呟きながら、リーアは振り返ることなく飛び去った。

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