表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルコード  作者: エトコッコ
第9章:変革

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/62

第1話「決別」


早朝。


トーマスのスマカに、一通のメッセージが届いていた。


差出人はエドワード。


その内容を読み進めるにつれ、トーマスの表情は徐々に青ざめていく。


読み終えた瞬間、彼は一切の迷いなく立ち上がった。


急いで身支度を整え、そのままオルフェへと向かった。



移動中、松永から着信が入る。


『トーマス、あなたにも来たんでしょ!?エドワードからのメッセージ!』


焦りを隠しきれない声だった。


「ああ……今、オルフェに向かっている」


『私もすぐ向かいます!』


それだけ言い残し、通話は切れた。


(エドワード……あなたは一体、何を——)


胸の奥に重たい不安を抱えながら、トーマスはエレカの速度をわずかに上げた。



朝食の時間。


食堂にはファクターズや職員らが集まり、穏やかな朝のひとときを過ごしていた。


「わぁ!閃くんのそれ、おいしそうだね!」


音が目を輝かせながら声を上げる。


その視線の先には、閃のプレートに乗った大きなオムライスがあった。


「期間限定メニューらしいよ!」


「ほんと?それに絵も可愛いね!わたしも取ってこよ!」


音は嬉しそうに席を立ち、オムライスを取りに向かう。


「ところで、それ何を描いてんだ?」


烈が身を乗り出し、閃の皿を覗き込んだ。


「これ?あかマッシュ!自分で描いた!」


得意げに笑う閃。


あかマッシュとはニャンダルソフトのゲーム“マッシュチーム”の主人公。


ケチャップで丁寧に描かれたそれは、思わず見入るほど完成度が高かった。


「器用ね」


怜が漬物をつまみながら、淡々と呟く。


「我ながら上手く描けてんなぁー……コレ」


自画自賛しつつスマカで写真を撮ると、閃はスプーンを手に取り、そのまま勢いよく口へ運んだ。


「うまうま♪」


頬いっぱいにオムライスを詰め込み、幸せそうに笑う。


その様子を見た怜は、木の実を頬袋に詰め込むリスをふと思い浮かべていた。


——その時


館内アナウンスが静かな空気を切り裂いた。


『本日10時より、緊急集会を行います。つきましては——』


「またかよ……」

「なんだろ……」

「最近多いよね〜」


あちこちでざわめきが広がる。


先日のイシュタールの一件も、まだ記憶に新しい。


「……閃、何か心当たりあるか?」


烈が低い声で問いかける。


「いや……」


閃は首を振る。


だが、なぜかエドワードの顔が脳裏をよぎっていた。



講義ホール。


次々と職員が集まる中、すでに壇上にはトーマスの姿があった。


その隣には松永も控えている。


全員が揃うのを待つと、トーマスは簡潔に挨拶を済ませ、すぐに本題へと入った。


その内容が告げられた瞬間——ホール内に大きなどよめきが広がる。


「ど、どういうこと……」

「エドワード総帥が……?」

「なんで急に……」

「一体、何が起きているんだ」


ざわめきは一向に収まらない。


やがてトーマスが静かに口を開いた。


「皆の反応は当然だ。僕自身も、未だ信じ難い」


一呼吸置き、続ける。


「しかし——これは紛れもない事実だ」


松永もまた目を閉じ、黙ってその言葉を受け止めていた。


「エドワード総帥は……いや、エドワード氏は、オルフェを正式に脱退した」


「それに伴い、今後は僕、トーマスが総帥代理として、新体制を率いることになった」


「パパが……総帥代理……?」


クレアは、頭の中が真っ白になっていた。


「戸惑いは大きいと思う。だが今は、目の前の任務に集中してほしい」


トーマスは真っ直ぐ前を見据える。


「僕だけではどうしようもできない。だからこそ、松永主任をはじめ、皆の力が必要なんだ」


「新しい情報が入り次第、すぐ共有する。どうか、力を貸してほしい」


言葉を締めると、集会は解散となった。


しかし、ざわめきはしばらく消えることはなかった。



ホールを出たトーマスの背を、クレアが追いかける。


「待って……パパ!……じゃなくて……総帥代理」


呼び方に迷いながらも、必死に声をかける。


トーマスは足を止め、振り返った。


「何が起きてるの!?エドワード総帥は……どうして……!」


「……クレア」


短く呼びかける。


「こちらも分からないことだらけだ。すまないが、今は何も言えない」


静かで、だが揺るぎない声だった。


その言葉に、クレアはそれ以上何も言えなくなる。



集会後。


閃はファクターズと訓練生を広間に集めた。


誰の顔にも、不安と動揺がはっきりと浮かんでいる。


そんな中、閃はゆっくりと口を開いた。


「みんな、急な出来事で不安だと思う。正直、俺も驚いてる」


一瞬、言葉を選ぶように間を置く。


「でも、こういう時こそ目の前のことに集中しよう」


「混乱してる時に不安に流されて動くと、余計に状況が悪くなると思う」


その言葉は、決して強くはないが、しっかりと芯が通っていた。


「なんなら今日は休んでもいいし、アル先生に話を聞いてもらうのもいいと思う」


「手配は俺がやっとく」


話し終えると、場に少しだけ空気が戻る。


「……俺、アル先生のとこ行こうかな……」


光井がぽつりと呟く。


「あたしも……」


みのりも小さく続いた。


「うん、それがいいよ」


閃は優しく頷く。


やがて、その場は静かに解散となった。



その後、閃はすぐにアルへ連絡を入れ、状況を説明した。


アルはすでに全員のカウンセリングを予定していると告げる。


その落ち着いた声と、変わらない優しさに、閃は胸の力が少し抜けた。


ふと、背後に気配を感じる。


振り返ると、小柄な影——加藤の姿があった。


「あ、カトちゃん」


「閃くん、陰ながら見ていましたよ」


穏やかな笑顔で言う。


「君は本当に仲間思いですね」


「当たり前のことしてるだけだよ」


あっさりと返す閃。


その言葉に、加藤は柔らかく微笑んだ。


「それが当たり前だと思えること自体、とても尊いことなんですよ」


「その優しさや思いやりは、誰もが持てるものではありませんから」


「カトちゃんだって持ってるやん!」


閃は屈託なく笑う。


「ふふ……ありがとう」


「ただ、閃くん。決して無理はしないでくださいね」


「もし困難にぶつかった時、あなたを支えたいと思う人は、必ずたくさんいます」


「——私も、その中の1人です」


「……ありがとう、加藤先生」


その言葉に、閃の胸はじんわりと熱くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ