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エーテルコード  作者: エトコッコ
第9章:変革

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第1話「決別」


早朝。


トーマスのスマカに、一通のメッセージが届いていた。


差出人はエドワード。


その内容を読み進めるにつれ、トーマスの表情は徐々に青ざめていく。


読み終えた瞬間、彼は一切の迷いなく立ち上がった。


急いで身支度を整え、そのままオルフェへと向かった。



移動中、松永から着信が入る。


『トーマス、あなたにも来たんでしょ!?エドワードからのメッセージ!』


焦りを隠しきれない声だった。


「ああ……今、オルフェに向かっている」


『私もすぐ向かいます!』


それだけ言い残し、通話は切れた。


(エドワード……あなたは一体、何を——)


胸の奥に重たい不安を抱えながら、トーマスはエレカの速度をわずかに上げた。



朝食の時間。


食堂にはファクターズや職員らが集まり、穏やかな朝のひとときを過ごしていた。


「わぁ!閃くんのそれ、おいしそうだね!」


音が目を輝かせながら声を上げる。


その視線の先には、閃のプレートに乗った大きなオムライスがあった。


「天然の卵を使った、期間限定メニューらしいよ!」


「ほんと?それに絵も可愛いね!わたしも取ってこよ!」


音は嬉しそうに席を立ち、オムライスを取りに向かう。


「ところで、それ何を描いてんだ?」


烈が身を乗り出し、閃の皿を覗き込んだ。


「これ?あかマッシュ!自分で描いた!」


得意げに笑う閃。


あかマッシュとは、マッシュチームの主人公の1人。


ケチャップで丁寧に描かれたそれは、思わず見入るほど完成度が高かった。


「器用ね」


怜が漬物をつまみながら、淡々と呟く。


「我ながら上手く描けてんなぁー……これ」


自画自賛しつつスマカで写真を撮ると、閃はスプーンを手に取り、そのまま勢いよく口へ運んだ。


「うまうま♪」


頬いっぱいにオムライスを詰め込み、幸せそうに笑う。


その様子を見た怜は、木の実を頬袋に詰め込むリスをふと思い浮かべていた。


その時、館内アナウンスが静かな空気を切り裂いた。


『本日10時より、緊急集会を行います。つきましては——』


「またかよ……」

「なんだろ……」

「最近多いよね〜」


あちこちでざわめきが広がる。


先日のイシュタールの一件も、まだ記憶に新しい。


「……閃、何か心当たりあるか?」


烈が低い声で問いかける。


「いや……」


閃は首を振る。


だが、なぜかエドワードの顔が脳裏をよぎっていた。



講義ホール。


次々と職員が集まる中、すでに壇上にはトーマスの姿があった。


その隣には松永も控えている。


全員が揃うのを待つと、トーマスは簡潔に挨拶を済ませ、すぐに本題へと入った。


その内容が告げられた瞬間——ホール内に大きなどよめきが広がる。


「ど、どういうこと……」

「エドワード総帥が……?」

「なんで急に……」

「一体、何が起きているんだ」


ざわめきは一向に収まらない。


やがてトーマスが静かに口を開いた。


「皆の反応は当然だ。僕自身も、未だ信じ難い」


一呼吸置き、続ける。


「しかし——これは紛れもない事実だ」


松永もまた目を閉じ、黙ってその言葉を受け止めていた。


「エドワード総帥は……いや、エドワード氏は、オルフェを正式に脱退した」


「それに伴い、今後は僕、トーマスが総帥代理として、新体制を率いることになった」


「パパが……総帥代理……?」


クレアは、頭の中が真っ白になっていた。


「戸惑いは大きいと思う。だが今は、目の前の任務に集中してほしい」


トーマスは真っ直ぐ前を見据える。


「僕だけではどうすることもできない。だからこそ、松永主任をはじめ、皆の力が必要なんだ」


「新しい情報が入り次第、すぐ共有する。どうか、力を貸してほしい」


言葉を締めると、集会は解散となった。


しかし、ざわめきはしばらく消えることはなかった。



ホールを出たトーマスの背を、クレアが追いかける。


「待って……パパ!……じゃなくて……総帥代理」


呼び方に迷いながらも、必死に声をかける。


トーマスは足を止め、振り返った。


「何が起きてるの!?エドワード総帥は……どうして……!」


「……クレア」


短く呼びかける。


「こちらも分からないことだらけだ。すまないが、今は何も言えない」


静かで、だが揺るぎない声だった。


その言葉に、クレアはそれ以上何も言えなくなる。



集会後。


閃はファクターズと訓練生を広間に集めた。


誰の顔にも、不安と動揺がはっきりと浮かんでいる。


そんな中、閃はゆっくりと口を開いた。


「みんな、急な出来事で不安だと思う。正直、俺も驚いてる」


一瞬、言葉を選ぶように間を置く。


「でも、こういう時こそ目の前のことに集中しよう」


「混乱してる時に不安に流されて動くと、余計に状況が悪くなると思う」


その言葉は、決して強くはないが、しっかりと芯が通っていた。


「なんなら今日は休んでもいいし、アル先生に話を聞いてもらうのもいいと思う」


「手配は俺がやっとく」


話し終えると、場に少しだけ空気が戻る。


「……俺、アル先生のとこ行こうかな……」


光井がぽつりと呟く。


「あたしも……」


みのりも小さく続いた。


「うん、それがいいよ」


閃は優しく頷く。


やがて、その場は静かに解散となった。



その後、閃はすぐにアルへ連絡を入れ、状況を説明した。


アルはすでに全員のカウンセリングを予定していると告げる。


その落ち着いた声と、変わらない優しさに、閃は胸の力が少し抜けた。


ふと、背後に気配を感じる。


振り返ると、小柄な影——加藤の姿があった。


「あ、カトちゃん」


「閃くん、陰ながら見ていましたよ」


穏やかな笑顔で言う。


「君は本当に仲間思いですね」


「当たり前のことしてるだけだよ」


あっさりと返す閃。


その言葉に、加藤は柔らかく微笑んだ。


「それが当たり前だと思えること自体、とても尊いことなんですよ」


「その優しさや思いやりは、誰もが持てるものではありませんから」


「カトちゃんだって持ってるやん!」


閃は屈託なく笑う。


「ふふ……ありがとう」


「ただ、閃くん。決して無理はしないでくださいね」


「もし困難にぶつかった時、あなたを支えたいと思う人は、必ずたくさんいます」


「——私も、その中の1人です」


「……ありがとう、加藤先生」


その言葉に、閃の胸はじんわりと熱くなっていた。

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