第9話「さよならバイバイ」
「なに……コレ……」
メルは思わず呟いた。
Ωチームが辿り着いた時、そこには――もう何も残っていなかった。
建造物も、気配も、痕跡すらも。
ただ一面の“消失”だけが広がっている。
その中心に、ファイだけが、静かに佇んでいた。
あまりの光景に、さすがの3人も言葉を失う。
やがてリーアが、ゆっくりとファイへ通信を試みた。
映し出されたのは――エドワードの姿。
「え……アンタ、オルフェの……?」
『そうだ。もっとも、今は“元”オルフェだが』
落ち着き払った声で、エドワードは答えた。
「……フレアⅢの後の、あのバカでかい光……あれ、アンタがやったの?」
『そうだ』
天華の本拠地を丸ごと消し去った、ファイの――アリス光だった。
「……これ、アンタの力?」
『違う』
短く、迷いなく返される否定。
(本当に……宇宙人?)
リーアは珍しく、言葉を失ったまま思考に沈む。
すると今度は、エドワードの方から声がかかった。
『どうする?――戦うか?』
リーアとサキは、すでに理解していた。
――絶対に、勝てない。
本能的に、それが分かっていた。
だが、メルは違った。
「さっきから……チョーシ乗りやがって!!」
怒りのままに、ベルセルク・ギアを発動し、そのまま一直線に、ファイへと突っ込む。
「あ、メル――」
リーアが止めようとした、その瞬間。
ファイは静かに手のひらを掲げた。
たったそれだけの動作。
次の瞬間、放たれた光の波動が――
メルのレギオンΩを、消し去った。
爆発も、残骸も、何もない——ほんの、一瞬で。
その現実を目の当たりにし、リーアとサキの背筋に、はっきりとした恐怖が走る。
『さて……君たちはどうする?』
エドワードの声は、先ほどと何一つ変わらない。
2人は、動けなかった。
『君たちは賢いな。退くも勇気だ』
淡々と、そう告げた。
◆
「ねぇ……パパ」
「ん?どうしたんだい」
「さっきの人、“予定”に無かったよね?」
「あぁ……そうだね」
「なら、生き返らせてもいいんじゃない?」
アリスは言った。
「アリスがそう思うなら、そうしなさい」
エドワードは、優しく微笑む。
「うん!」
その返事と同時に、ファイが再び手をかざす。
リーアとサキは思わず身構えた。
だが――
今度は違った。
光の粒子が、静かに集まり始める。
空間に浮かび上がるように、それらは形を成し――やがて“人”へと収束していく。
そこには――先ほど消えたはずのメルが、“再生”していた。
「これでヨシ、と」
満足げに、アリスが言う。
もはやリーアとサキは、驚きすら通り越していた。
理解が追いつかない。
ただ、それだけが確かな感覚だった。
次の瞬間、ファイの姿は音もなく消えた。
◆
「え……何が起きたの???てか、なんでメル素っ裸なの!?」
メルは叫んだ。
肉体だけを再生されたメルは、衣服までは戻らず――完全に全裸だった。
状況を飲み込めないまま、呆然と立ち尽くす。
そこへ、リーアとサキのレギオンΩが降り立つ。
2人はすぐにコクピットから降り、メルの元へ駆け寄った。
「ア、アンタ……幽霊じゃないよね……」
リーアは恐る恐る近づき、メルの頬をぷにっと突く。
確かな感触。
それに、ほっと息をつく。
「幽霊じゃねーよ!!てか何があったの!?」
メルは全力でツッコむ。
サキが、起きた出来事を淡々と説明した。
最後まで黙って聞いていたメルは、やがてゆっくり口を開く。
「つまり……メルはアイツに一瞬で殺されて……気づいたら生き返ってた、と」
「そゆこと♪」
リーアが軽く頷く。
「わかるかぁ!!」
盛大なツッコミが炸裂した。
「いや、そんなこと言われても……ウチらだって信じられないし」
「だが、すべて事実だ」
サキが冷静に補足する。
「う゛ーー……なんか勝ち逃げされたみたいでムカツキ……」
頬を膨らませるメル。
「いや、“勝ち逃げ”って……そもそも勝負になってないって」
リーアはため息混じりに言い、サキも無言で頷いた。
「そもそもアレ何なの?あれもファクター?」
「……断定はできないが、その可能性は高い」
サキは静かに答える。
「あんなのもいるんだ……もう何でもアリじゃん」
リーアは空を見上げながら呟いた。
◆
「……でさ、これからどうする?」
リーアが、座っていた2人に問いかける。
チャンの命令で動いていたΩチームは、彼の消失によって“自由”になっていた。
「たしかに……」
メルは腕を組んで考える。
「なんかさ、急に“はい自由です!”って言われても困るよね〜」
リーアが肩をすくめる。
「てかさ、レギオンΩどうする?」
「このまま貰っていいんじゃない?どうせウチらしか使えないし。退職金代わりってことで」
「くそー……どうせならメルのレギオンも直してくれればよかったのにー!!」
軽口を叩き合う中、サキが静かに立ち上がった。
「……私は、恋人の元へ行く。もう戦いからは身を引くよ」
「そっか。じゃ、お幸せにね〜」
2人は軽く手を振る。
「ありがとう。2人もね」
振り返り、サキは微笑んだ。
初めてサキの笑顔を見た2人は、新鮮な気持ちになった。
やがて、サキのレギオンΩは空へと消えていった。
◆
「じゃ、ウチもそろそろ行こうかな」
リーアは立ち上がり、ぐっと背伸びをする。
「どこ行くの?」
「気ままに♪」
軽やかな返事をするリーア。
「……?まさか、このままメルを置いてく気じゃないよねぇ〜?」
「あ……えーと……」
リーアの動きが止まる。
「メルはレギオン無いんだよ!?しかも素っ裸なんだよ!?こんな所に置いてくとかヒドすぎない!??」
リーアの両肩をつかみ、ブンブンと揺らすメル。
「わ、わかった!わかったから!!」
「ならヨシッ☆」
結局、メルを放っておけず、2人でレギオンΩへ乗り込む。
「で、まずどこ行くの?」
「とりあえず……やること、やらないとね」
そう言うと、リーアのレギオンΩは、日本へと進路を取った。
(第8章 完)




