第8話「ファイ②」
天華連盟・本拠地。
深夜――それは、前触れもなく訪れた。
直後、ジョウの元へ緊急通信が入る。
そして、“それ”はモニターに映し出された。
黄金に輝く、巨大な人型兵器――ファイ。
兵士の報告によれば、それは文字通り“突然”現れたという。
出現の兆候は一切なく、ゆえに警報は何ひとつ作動していなかった。
モニター越しにそれを見つめながら、ジョウは静かに思考を巡らせていた。
◆
「今すぐΩチームを呼び戻せ」
緊急警報が鳴り響き、兵士や職員が慌ただしく動き出す中、チャンは冷静に指示を下す。
複数の兵士を従え、ジョウの元へ向かうためエレベーターに乗り込んだ。
「……チャン様、アレは一体……」
兵士の1人が不安げに口を開く。
「さぁな」
別の兵士が続ける。
「地球外生命体……とする見方もあるようですが」
「フッ……お前はそれを信じるか?」
鼻で笑いながら、チャンが問い返す。
わずかな沈黙の後――
「……信じたくは、ないですね」
兵士はそう答えた。
◆
日本へ向かっていたΩチームは、緊急帰還命令を受け、本拠地へと引き返していた。
通信兵から伝えられるのは、ただ一つ。
――未確認の存在が出現した。
「何?ウチュー人なの?それ」
リーアが軽い調子で問いかける。
「……その可能性も、十分にあります」
「へぇ〜」
リーアはむしろ、少し楽しげだった。
(……なんだ、このザワザワした感じは……)
サキはあくまで冷静ではあったが、胸の奥に“経験したことのない不快感”が静かに広がっていた。
「んもぉ〜!!せっかく久しぶりにアイツらと戦えると思ったのに!!ムカツキ!!」
メルは露骨に不機嫌だった。
「まぁまぁ、メル。もしかしたらファクターズより強いかもよ?」
リーアが軽くなだめる。
「ちーがーうーのっ!!メルはアイツらとヤリたいのっ!!」
あくまでメルの目的はファクターズ。
そんなやり取りを続けながら、3機は高速で本拠地へと向かっていた。
◆
世界屈指の技術力と、圧倒的な軍事力を誇る天華。
突発的な事態にも関わらず、統率の取れた動きで瞬く間にファイを包囲した。
地上部隊、空中戦力、全防衛システムが一斉に展開される。
さらに――軌道衛星兵器、ギガ・レーザー砲『フレアⅢ』の照準も、すでにファイへと固定されていた。
その間、ファイは一切動かない。
ただ、そこに“在る”だけだった。
ジョウがスピーカー越しに対話を試みようとした、その瞬間――司令室に通信が入る。
ゆっくりと応答するジョウ。
映し出されたのは――エドワード。
「貴様……オルフェの……」
ジョウの目が鋭くなる。
「となると、アレはオルフェの機体か」
チャンが冷静に分析する。
『そうだ。確かに私がオルフェで作った……いや、“作らせた”』
その言葉に、チャンの目がわずかに細まる。
「その言い方……気に食わんな」
『“ファイ”を完成させるために、オルフェを利用していた――そう言えば分かるか?』
エドワードは、わずかに笑みを浮かべた。
「……証拠は?」
『アメリカ支部を見ろ』
モニターが切り替わる。
そこに映ったのは、存在していたはずのアメリカ支部が、完全に消失した光景だった。
「これは……」
ジョウが息を呑む。
『口封じだ』
あまりにも淡々とした一言。
「なるほど……」
チャンが低く呟く。
「そして……次はここを攻めるつもりか?たった1人で」
『そうだ』
「大国の戦力を持ってしても落とせぬ、この難攻不落の天華を……!!愚かにも程がある!!」
『……お前の目の前にいるのは、“神”であり、“女神”だ』
その言葉を聞いた瞬間、ジョウは全軍に攻撃準備を命じた。
「エドワード……ついに気でも触れたか。くだらん」
そう吐き捨てるチャン。
「愚かな男よ!!貴様を始末した後、オルフェは根絶やしにしてやる!!」
次の瞬間、夥しい銃弾と爆撃が、一斉にファイへと降り注ぐ。
しかし、ファイは黄金のバリアを展開し、その全てを“完全に”防ぎ切った。
それでも攻撃は止まらない。
数秒――いや、数十秒に及ぶ飽和攻撃。
やがてジョウは決断する。
「攻撃停止!!全隊、即時退却!!」
命令は瞬時に伝達され、部隊は一斉に後退。
同時に、本拠地は巨大地下シェルターへと移行を開始した。
『司令官!!準備完了です!!』
報告と同時に、ジョウは素早くパスワードを入力すると、二重ロックのスイッチが解放される。
「消えろ……化け物め」
ジョウがスイッチを押すと、フレアⅢから極太のレーザーが一直線に放たれた。
◆
「え、ウソ!!フレアⅢ!?聞いてないんだけど!!」
天を裂く光を見て、リーアが声を上げる。
それも無理はなかった。
フレアⅢが実戦投入されるのは、前代未聞。
彼女たちが知るのは、低出力の実験照射のみ。
それですら規格外の威力だった。
「……!!」
サキの額に汗が滲む。
フレアⅢに対してではない——それを向けられている対象に対しての恐怖だった。
「ヤバくない?あれ……前が8%でしょ?今回、倍以上あるよね?」
メルの声にも、わずかな緊張が混じる。
夜を塗り潰すほどの閃光。
それは数分に渡り、途切れることなく照射され続けた。
◆
「そんな……あり得ん……!!」
ジョウの声が震える。
光が消えたその先には——
無傷のまま、立ち続けるファイ。
(威力は抑えたとはいえ……長時間照射だぞ……!?)
チャンも言葉を失う。
(フレアⅢに耐える存在など……あり得ない……存在しない!!いくらエーテルファクターといえどっ……!!)
その時、チャンは何かを悟り、小さく呟いた。
「エーテル……ファクター……?」
『気は済んだか?』
エドワードの声に、2人は何も返せなかった。
『ならば――消えてもらおう』
一拍の静寂。
『貴様らのようなゴミ共は――永遠に』
ファイの身体が、光に包まれる。
溢れ出した光は静かに膨張し――
逃げ場も、抵抗も許さぬまま、周囲のすべてを、確実に飲み込んでいった。




