第7話「ファイ①」
「総帥、ついに完成しました」
「そうか。ついに『ファイ』が……」
スマカ越しの研究員との会話を終え、エドワードは夜空を見上げた。
(ついに……始まる)
アリス復活のための「神の子計画」。
それに合わせ、開発が進められてきたアリス専用のED——ファイ。
過去に襲撃を受け、大きなダメージを負ったイギリスとアメリカの2つの支部を利用し、極秘裏に開発を続けていた。
拠点を日本に移したことで、そちらに注目が集まっている隙をついた形だった。
◆
エドワードは、データで送られてきたファイの情報を確認した。
ファイの開発には、エドワード自身も深く関わっている。
全長33.3メートル——通常のEDと比べ、4倍以上の巨体を誇る。
ファクターズのEDが”力の拡張”を目的として設計されているのに対し、ファイはアリスの”力の器”となることを目的としている。
同じEDでも、その思想はまるで異なっていた。
その巨体こそが、アリスのエーテルがいかほどのものかを物語っていた。
(アリスの器であるファイ。世界を確実に変えてしまう兵器……いや、神器とでも言うべきか)
(これさえあれば……)
◆
エドワードはアリスの元を訪れた。
手には、もちこのぬいぐるみ、そしてたこ焼きが2パックあった。
「あっ!パパ!おかえりなさい」
アリスは笑顔で迎えた。
「ただいま、アリス」
エドワードも笑顔で返す。
「もちこ……だったかな?アリスが欲しがってた子は」
アリスは目を輝かせた。
「わぁ……!可愛い!!パパ、ありがとう!!」
アリスはもちこを受け取ると、思い切り抱きしめた。
「たこ焼きも買ってきたよ。一緒に食べよう」
たこ焼きは、アリスの大好物のひとつだ。
「嬉しい!食べよっ!」
生前、エドワードとアリスは何度も日本を訪れていた。
エドワードは仕事がメインだったが、アリスの目的はもっぱら観光だ。
アリスは日本の文化が大好きで、ローカル語にも強い関心を抱いていた。
エドワード自身も、昔から日本のことが好きだった。
いつかパパと日本に住みたい——アリスは、エドワードに何度もそう言っていた。
◆
「そのキャラクター、アリスの言ってた通り、本当に人気なんだね。どこに行っても、なかなか見当たらなかったよ」
エドワードはたこ焼きを食べながら、笑顔で話した。
「そうなの。パパ本当にありがとう!たこ焼きも美味しい!」
アリスは上機嫌だった。
「アリス……いつも我慢させてばかりで、すまない」
「ううん……なんとなくだけど、大変な状況なのは分かるから……それに、私のこと守ってくれてることも」
アリスはまっすぐエドワードを見つめた。
「ありがとう……アリス。落ち着いたら、正式に日本で暮らそう」
その言葉に、アリスの表情はまたたく間に明るくなった。
「嬉しい!!パパと日本に住めるなんて、夢のよう……」
「パパもだよ、アリス。ちなみに、どこに行きたい?」
「全部!!って言いたいけど、まずはキュウシュウ地方に行きたい!!本場のとんこつラーメンとかマルチョウ食べたい♪」
想像を膨らませたアリスは、今にもとろけそうな表情になっていた。
(キュウシュウか……たしか、閃くんと烈くんの出身地だったな)
「いいね。キュウシュウでグルメツアーをしよう。たくさん美味しいものを食べるぞー!」
エドワードは笑顔で答えた。
「オ〜♡」
アリスは手を上げ、喜んだ。
2人は幸せなひとときを過ごしていた。
◆
しばらく何気ない会話を楽しんだあと、エドワードは本題に入った。
「アリス、ファイが完成した」
「ファイ……パパが言ってた、“もうひとりの私”……」
「ああ。アリスのために作られた”器”だよ」
エドワードは続けた。
「アリスが乗ることで、ファイは”神”となる」
「神……」
アリスは静かに呟いた。
「見に行ってみるかい?もちろん、アリスのタイミングで大丈夫」
エドワードは優しく問いかけた。
「今、見に行きたいな」
アリスは答えた。
「わかった。場所はここだ」
エドワードはそう言うと、イギリス支部の開発エリアの座標をアリスに見せた。
「うん」
アリスは短く答え、エドワードと手を繋いだ。
そして——
2人は光に包まれると、一瞬で消失した。
◆
オルフェ研究機関・イギリス支部の開発エリア。
そこに突然、光に包まれた2人が現れた。
「総帥、アリス様、お待ちしておりました」
開発チームのスタッフが、2人を出迎えた。
アリスのスキル《テレポート》は、座標や写真、あるいは場所の記憶さえあれば、そこへ瞬時に移動することができる。
エドワードやアリスと関わりの深い研究員たちにとっては、何度も見慣れた光景であり、今さら驚くものでもなかった。
「こちらです」
スタッフが、ファイの格納エリアへと2人を案内する。
2人は黙ってそれに続いた。
ロックキーを入力し、生体認証を済ませると、ゲートがゆっくりと開いた。
——そこに、ファイはいた。
エドワード自身も、完成品を肉眼で目にするのは初めてだった。
「美しい……」
思わず、言葉が漏れていた。
そこにあったのは、兵器と呼ぶにはあまりに神々しい、黄金色の女神像だった。
トルーパーとも、各ファクターズのEDとも、明らかに異なる存在感がある。
それは、アリスという異質な存在のためだけに作られたものだった。
「綺麗……でも、ちょっと、怖い……かも」
それがアリスの、率直な第一印象だった。
その感覚は、エドワードも、開発スタッフたちも同じだった。
美しい——しかし、どこか恐怖を覚える。
開発チームでさえ、とんでもないものを作っているという感覚が終始抜けなかったと語っているほどに。
(来るところまで来てしまった……もう、後には引けない)
エドワードはファイを見つめたまま、静かに拳を握りしめていた。




