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エーテルコード  作者: エトコッコ
第8章:崩壊

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第6話「Dear...」


閃は牧の元を訪れていた。


以前から相談していた、完全同調の補助システムについてだった。


牧は松永や黒須と情報を共有し、オーキュラムにも読み込ませながら、様々なアプローチを模索し続けていた。


「——で、結果なんだけど……そのシステムを実現しようとするなら、少なくとも年単位の時間がかかるわ」


牧はため息混じりに言った。


「年単位、かぁ……」


閃も、思わず浮かない表情になる。


「ファクターズ全員分のデータがあって、それでもコレだからね……」


牧は続けた。


「閃くんが初めて完全同調を成功させる以前は、答えが分かっていても、そこに至る方程式が全く分からない状態だったし……」


事実、閃が実現するまでは、完全同調を机上の空論と呼ぶ者もいたほどだった。


「そっかぁ……マッキー達でさえそうなるってことは、よっぽどのことなんだね」


閃は少し残念そうな表情を浮かべた。


「ごめんね……でも、もちろん研究は続けるからね?」


牧は申し訳なさそうに付け加えた。


「ただ、数ヶ月ではどうしても……ね」


「大丈夫だよ!ありがとう、マッキー!」


閃は笑顔でそう言い、その場を後にした。



その日の夜、閃は他の3人を呼んでミーティングを開いた。


議題は完全同調の件だ。


牧とのやりとりをひと通り伝える。


「——あの力を、ある程度自分でコントロール出来るようになれば、これまで以上に役立てる」


閃は言った。


「確かにな……」


烈は静かに同意した。


「私が完全同調したときは、2回とも完全に無意識だった……」


怜が言う。


「俺もだ。帰還してから言われて、初めて知った」


烈も同じだった。


「……実は、わたしも……」


音も頷く。


「みんなそうなんだ。俺もだけど」


もっとも閃に至っては、完全同調してからの戦闘中の記憶そのものが、すっぽりと抜け落ちていた。


「無意識に発動していたものを、意識して出せるようにするって……難しい話ね」


怜は言った。


「そーなんだよなぁ……」


閃は頭の後ろで手を組み、天井を見上げた。


「そもそも、同調率を100パーセントで維持するって理屈だよな?完全同調って」


烈が言う。


「そう」


閃が短く答えた。


「俺、今までEDに乗ってるとき同調率なんて気にしたことないから、そもそも何をどうやったら100パーセントになるのかわかんねぇよ」


「……確かに」


珍しく、烈の意見に怜も素直に同意した。


閃と音も、無言で頷く。


同調率とは、元々EDを正確に動かすための目安となるパーセンテージ。


常に90パーセント以上の高い同調率を保つファクターズにとっては、普段から意識するようなものではなかった。


結局、その後は特に進展もないまま解散となった。



その後、閃のスマカにメッセージが届いた。


怜からだった。


『少し、話せる?』


『いいよー』


閃はそう返信した。


オルフェの中庭に向かうと、怜がすでに待っていた。


「おまたせ」


閃はそう言いながら、手に持っていた缶ココアを1つ怜に差し出した。


「ありがと」


怜はそれを受け取り、近くのベンチに腰を下ろした。


「どーしたの?」


閃はフタを開けつつ、怜に言った。


怜もフタを開け、少し間を置いてから答えた。


「ねぇ……私たちって、どういう関係なの?」


ゼクストとの決戦を前に、2人は互いの思いを打ち明け合い、それ以来は恋人のような関係が続いていた。


しかし、正式に恋人になったわけでもない——どこか曖昧なままの関係だった。


閃自身も、ずっとそれを感じていた。


「恋人……みたいな、感じ?」


「閃は、私のことをどう思ってる?」


怜は閃をまっすぐ見つめた。


「好きだよ。大好きさ」


閃は迷わず答えた。


「……それって、どっちの意味?」


「仲間としても……その……異性としても……」


閃は少し照れながら答えた。


その様子に、怜はクスッと笑ってしまう。


「ありがとう……嬉しい」


怜は言った。


「私もね……同じ気持ち」


そっと、怜は閃の手の上に自分の手を重ねる。


しかし、怜は少し俯いた。


「……でも、やっぱり恋人にはなれない……」


怜は絞り出すように言った。


「……うん。わかるよ……」


閃自身も、どこかで感じていたことだった。


「……これからは、前みたいな関係に戻りたい」


怜は、閃の手をギュッと握りしめた。


怜が望んでいたのは、曖昧な関係を続けることではなく、互いに背中を預け合えるような、以前の仲間としての関係だった。


そしてその思いは、閃にも十分伝わっていた。


「……うん、そうしよう……」


閃も静かに答えた。


しかし、頭では理解できていても、胸の奥が痛む。


「閃……悲しい……?」


怜は不安げに閃を見つめた。


「悲しくない……って言ったら嘘になる……かな」


閃はそう続けた。


「でも怜の判断は正しいし、俺もその方がいいと思う」


「ありがとう、閃……」


怜の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「私……この人生で、誰かを愛することなんて無いと思ってた」


「いろんな”初めて”を、閃と一緒に経験できて良かった……」


「短い時間だったけど、閃と恋人みたいに過ごせた時間、本当に幸せだった」


「でも、この関係が続くと、私の中で何かが壊れていきそうで怖かった……」


「だから、だから……!!」


閃は無言で怜を抱きしめた。


「大丈夫、怜……ちゃんと、わかってる」


「怜の気持ち、伝わってるから……」


閃の胸の中で、怜は静かに涙を流していた。


「気が済むまで、ずっといるよ……」


飲みかけのココアは、すっかり冷めていた。

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