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エーテルコード  作者: エトコッコ
第8章:崩壊

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第2話「心の内」


ファクターズはオルフェへと帰還していた。


全員生存、ほぼ外傷もなしという、この上ない結果だった。


しかし——


4人の表情はどこか晴れなかった。


そして、ひどく疲れている様子だった。


労いの言葉をかけた訓練生やスタッフも、それ以上何と声をかけていいのか分からなかった。


「とりあえず、今はゆっくり休んで」


松永も、それ以上のことは言わなかった。



それから数日が経った。


松永はアルの心理ケア室を訪れていた。


アルはこの数日の間、ファクターズを個別に診察していた。


松永は、彼らのメンタルの状態を聞くために来ていたのだ。


アルはコーヒーを淹れると、松永に差し出した。


豆の香ばしい香りが、静かに広がる。


「ありがとう、アル。それで……4人の様子は?」


「ええ。まず——」


アルの説明によると、まず閃はすでに回復傾向にあるという。


さらに閃は、いざとなったら自分が犠牲になるつもりだったこと。


しかし1人ではどうにもならない時は、怜にも同じ覚悟をお願いしていたこと。


そして、怜の存在がとても心強かったこと。


イノとの出来事なども、色々と話してくれたらしい。


「そう……だったのね」


松永は胸が締め付けられる思いだった。


いつも太陽のように明るく、人懐っこい笑顔で皆から好かれる閃。


その彼が、内心ではそんな覚悟をしていたという事実。


次は、怜。


彼女もまた、最初から自分を犠牲にする覚悟を持っていたという。


しかし、先ほどの閃から「共に犠牲になってほしい」と言われた時は、言葉では表せないほど嬉しかったと語っていた。


戦闘後の精神状態は、4人の中でも最も安定していた。


完全同調の影響による肉体的な疲労も、そこまで大きくはないという。


「怜……」


松永は、あの凛とした表情を思い浮かべた。


次は烈。


やはり精神的ショックと、初めての完全同調による疲労感が強く出ていた。


それでも彼は、気丈に振る舞っていたという。


そして自分のことより、他の3人の心配ばかりしていた。


さらに烈は、自分には覚悟が足りないと、自身を責めるような発言もしていたらしい。


もちろんアルは、その気持ちをすべて受け止めたうえで、優しく諭した。


「烈……」


烈はぶっきらぼうだが、誰よりも思いやりがある。


松永を含め、全員がそれを知っている。


どうしても自分より他人を優先してしまう——


優しすぎる人間だった。


そして最後は、音。


松永は個人的に、彼女のことを最も心配していた。


それはアルも同じだった。


音は感受性が強く、誰よりも繊細な性格だからだ。


しかし——


その心配に反して、音はかなり落ち着いていた。


音はゆっくりと、しかし丁寧に自身の心境を語っていたという。


最初はどうしていいのか分からなかった。


だが、サムの暴走、そしてイノとサムの戦いを通して完全同調が発動し、最悪の結果を避けることができた。


おそらく、あれが自分にできた最善だった、と。


さらに音は、サムがもう長くないことは分かっていたが、それでも彼の苦痛を取り除くことができたこと。


そして、彼がイノとの時間を過ごせるようにできたことに、初めて自分の力に感謝したと語っていた。


ただ、烈と同じく、初めての完全同調だったため、肉体的な疲労はかなり大きかったという。


これが、アルが語ったファクターズの現在の状態だった。


「ありがとう、アル」


松永は静かに言った。


「いえ、私は当たり前のことをしているだけです……しかし4人とも、確実に強くなっていますね」


アルは少し微笑んだ。


「心が」


「ええ……」


松永も小さく頷く。


「強くならざるを得ないのかもしれないわね」


アルは少し考えるようにして言った。


「彼らも、私たちも……きっと生き物は、皆そうなんでしょうね」


「生きるために」


アルは静かに呟いた。



牧はデスクで、PC画面に映るいくつものデータを表示させながら、キーボードを操作していた。


デスクの周りには、小さなお菓子の袋が散乱している。


「ムァッキィー」


突然、背後から声がかかった。


「うわぁ!!」


牧は驚いて勢いよく振り向いた。


そこには、閃と怜が立っていた。


「閃くん!?……と、怜?」


閃は満足そうにケラケラ笑っている。


イタズラ好きな閃は、牧のオーバーリアクションが大好きで、たまにこうして驚かせていた。


「やめなさい」


隣にいた怜が、閃を咎めた。


「2人とも……もう大丈夫なの!?」


牧はメガネのズレを直しながら尋ねた。


「俺と怜は大丈夫」


閃は笑顔で答えた。


「そう……なら良かった」


牧は安心したように微笑んだ。


「ところで、2人ともどうしたの?」


牧が尋ねる。


「完全同調のこと」


閃はそう言いながら、牧の隣のデスクの椅子に腰掛けた。


「あの戦いで、烈も音も発動したってことは、ファクターズ全員が発動したってことだよね」


「そうね」


牧が頷く。


「私に至っては、二度目になる」


怜が言った。


リーアとの戦闘で史上初めて完全同調を引き起こした閃。


オキナワ海の任務とゼクストとの戦いで発動した怜。


そして烈と音。


これで、ファクターズ全員が完全同調を経験したことになる。


「あの力、ある程度任意で出せないかなって思って」


閃が言った。


「今まさに、そのデータを調べてたところよ」


牧が答えた。


「でも……あなた達を見ている限り、反動もかなり大きそうね」


完全同調のあと、閃は数日まともに動けない状態だった。


そして烈と音も、アルとのカウンセリング以外は、まだ自室から出ていない。


だが、怜だけは違っていた。


怜によると、一度目の発動後は、いつもより少し体が重い程度だった。


そして二度目は、一度目よりもさらに影響が少なかったという。


「これって、怜の体質なのかな?」


閃が言った。


「うーん……今の時点では何とも言えないわね」


牧は困ったように答えた。


「ただ、多分だけど」


閃は少し考えながら続けた。


「完全同調って、回数を重ねると体が慣れるんじゃないかな」


「怜が一回目より二回目の方が負担が少なかったみたいに」


「そうかもしれないわね」


牧は顎に指を当てた。


「ファクターが完全同調を発動しやすくなるような、補助システムを考えていくべきかもしれないわね」


「何か手伝えることがあれば、協力します」


怜が静かに言った。


「ありがとね、怜」


牧は微笑んだ。



閃と怜は牧の元を離れ、並んで歩いていた。


ふと、閃が声をかけた。


「怜、このあと何かある?」


「んー……特にないけど」


怜が答える。


少し間を置いて、閃が言った。


「俺の部屋……来る?」


そう言った閃は、どこか照れくさそうだった。


「えっ……」


怜の頬が、ほんのり赤くなる。


「あ、うん……行く」


怜は小さく頷いた。


そして、誰かに見られていないかキョロキョロと周りを確認しながら、閃の後ろについていく。


やがて、閃の部屋の前に着いた。


閃がドアを開けると、怜は少し慌てた様子で中へ入り——


そのまま、2人は部屋の中へと消えていった。

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