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エーテルコード  作者: エトコッコ
第7章:宿命

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第3話「覚悟」


翌日、エドワードはファクターズを司令室に呼び出した。


「すまないね、朝早くに」


「いえ……」


そう答えた閃は、エドワードの様子がいつもと違うことに気づいていた。


隣にいた怜も、同じ違和感を覚えている。


「でも、珍しいっすね。こんな朝早くに」


烈は不思議そうに首をかしげる。


音も同じように、落ち着かない表情をしていた。


「ああ、確かにそうだな……。まあ、座ってくれ」


促され、ファクターズは席につく。


「皆、調子はどうだ?」


エドワードは笑顔で尋ねたが、その表情にはどこか疲れが滲んでいた。


「いつも通りです」


閃が答える。


「私も、特に変わりはありません」


怜が続く。


「まあ、フツーっすね」


烈。


「あ、はい!順調です!」


音。


「そうか。それは何よりだ」


エドワードはうなずいた。


「あの……エドワードさんこそ、大丈夫ですか?」


閃が心配そうに言う。


「そうッスよ!目にクマできてますよ?」


烈も続けた。


「あっ……!」


音はそう言うと、すぐに《安静のウィンド》を発動した。


優しい風のエーテルがエドワードを包む。


「ありがとう、音くん。心配をかけてしまってすまない」


表情は、先ほどよりも少し柔らいでいた。


「君たちに……伝えなければならないことがある」


エドワードは視線を落とした。


だが、次の言葉がなかなか出てこない。


その沈黙に、烈と音は不安を募らせる。


怜は変わらず静かに様子を見ていた。


やがて、閃が口を開いた。


「あの……エドワードさん。もしかして……イシュタールですか?」


「…………そうだ」


短い沈黙の後、エドワードは答えた。


「イシュタール……!? ゼクストか!?」


烈が身を乗り出す。


エドワードは、昨夜の出来事を静かに語り始めた。



話を聞き終えたあと、部屋には沈黙が落ちた。


閃は、思考に沈む沈黙。


怜は、いつもの静かな沈黙。


烈は、怒りと悔しさを押し殺した沈黙。


音は、強い衝撃を受けたときの沈黙。


エドワードもまた、黙っていた。


重い空気の中、閃が口を開く。


「実は……2日前の夜、不思議な体験をしました」


閃は語り出した。


夢の中で見た、イシュタール財団と思しき施設。


アーク、クリス、サムの姿。

エンプティア、ギガスの文字、金髪の女性、紫色の肌の巨人。


それらがすべて、イノの視点だと気づいた。


会話、思考、感情――

断片的に、イノの人生の一部を追体験するような夢。


ただの夢と思いつつ、どこかひっかかっていた。


だが、エドワードの話を聞いて、すべてが繋がった。


あれは、おそらくイノの念のスキル。


自分に見せてくれた“真実”だったのだ。


そして――


ゼクストが戦う理由も、その夢を通して、はっきりと理解した。


話を聞いていた音は、静かに涙を流していた。


怜はそっと、その肩に寄り添う。


「……なにもかも、あのジジイのワガママじゃねえか……!!」


烈は怒りを抑えきれなかった。


「その通りだ、烈くん。それも、数え切れない犠牲の上に成り立っている」


エドワードも、険しい表情で答えた。



話し合いの後、ファクターズは人目のつかない場所に集まった。


「ゼクストは……間違いなく、“切り札”を持ってる」


閃は冷静に言う。


「……そうね」


怜が頷く。


「“完全同調”は、今んとこ俺と怜が成功してるけど、意図的に引き出せたわけじゃない」


「……私は、起きてたことすら知らなかったけどね」


怜が淡々と答える。


「つまり……頼り切れるわけじゃない」


その間、烈と音はほとんど口を開かなかった。


閃はそれを責めなかった。


「……訓練生に、この話をするかどうか。どう思う?」


「……俺は、話さない方がいいと思う。アイツらにまで、余計な不安を与えちまう……」


烈は答えた。


「……わたしも、烈くんと同じ……」


音も続いた。


「……私は、閃が話したいなら話せばいいと思う」


怜は、閃を見て答えた。


「わかった。俺は……話すべきだと思う」


閃は続けた。


「正直に言って、今回の戦い……犠牲の出る可能性が、今までよりずっと高い」


沈黙。


「もし俺たちに何かあったら、次に前線に立つのは訓練生だ。だから、心構えは必要」


「……たしかに、な」


烈が答えた。


「……犠牲……」


音は小さく呟いた。


この後、閃は訓練生とのトレーニングの場で話すことを決め、その場は解散となった。



その後――


烈と音は市街地のパトロールに出ていた。


2人とも、表情は重い。


「……戦いの中で、助ける方法……ないかな」


音がぽつりと呟く。


「……あるわけねーよ」


烈は即答してしまった。


「……あっ! 悪かった、音!俺、無神経だった……」


「ううん。違うよ」


音は首を振る。


「わたしが、甘すぎるだけ。自分でもわかってる」


どうにかして救いたい。


その想いは、2人とも同じだった。



トレーニング前、閃は訓練生とクレアに今回の話をした。


クレアの表情は険しい。


訓練生たちは、不安を隠せない。


「正直言うと、俺はもう、4人を“訓練生”だと思ってない。同じ戦士だ」


静かな声だった。


「だから話した。ただ、もし犠牲が出るとしても……ファクターズ“全滅”だけは絶対にさせない」


「先輩……そんなこと、言わないでくださいよ……」


みのりの目に涙が浮かぶ。


「いざとなったら、この前みたいに……!!」


光井が声を上げる。


「ありがとう、ミチ。でも今回はそうはいかない」


閃は首を振った。


「大事なのは、“その後をどうするか”だ」


「……まだ決まったわけじゃない。覚悟だけしといてって話でしょ」


アンジュが言う。


「その通り!」


閃は微笑んだ。


「……閃。訓練生のことは私に任せて」


クレアは閃の肩に手を置く。


「今、やるべきことをやって」


「頼んだ」


閃はクレアをまっすぐ見て答えた。



午後――


単独任務から戻った怜は、自室でシャワーを浴びていた。


もちのすけ柄のバスタオルで身体を拭いていると、ドアフォンが鳴った。


モニターに映ったのは閃だった。


着替える間も惜しみ、バスタオルを巻いたままドアを開ける。


「……れ、れーにゃん!? そんなセクスィーな……!!全然待っとくのに」


閃は怜の大胆な姿に驚いていた。


「別にいいよ。入って」


部屋に入った閃は、部屋中を見回す。


「……前より、もちのすけ増えとる……」


「で、なに?」


怜は髪を拭きながら尋ねた。


「ああ。怜、頼みがある」


閃は真剣な表情になる。


「もし、いざとなったら……」


「一緒に“犠牲”になって、でしょ?」


怜が先に言った。


「……大正解」


閃は複雑な表情を浮かべていた。


最悪の場合、閃は自分ひとりの犠牲で済めばそれでいいと考えていた。


しかし、相手はそれで済むような存在ではない。


そして、烈と音。


あの2人は、あまりにも優しすぎる。


だからこそ閃は、覚悟を共有できる怜に頼ろうとした。


いざという時、共に犠牲になる覚悟を持ってほしいと、そう思ったのだった。


「……最初から、そのつもりだけど?」


怜は続けた。


「それに……もしかしたら、また“完全同調”が起きるかもしれないし」


閃は顔を上げ、笑顔で怜を見つめた。


「怜……いざとなったら、一緒に、派手に逝こう」


「うん」


怜は微笑む。


「……頼ってくれて、ありがと」


そういうと、怜はそっと距離を詰めた。


そんな怜を、閃は抱き寄せた。


そして――


2人は静かに、キスを交わした。

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