01-05 【好感度23】多少の鎮火と重要パラメーター
白の百合―シエラ・リリーディアンSide
あれから毎日レグルスは鍛錬を始める前、魔道具を腕から外して地面に置く。それを私が拾い上げメンテしてその場に置き、それを奴は無言で拾って回収して黙々と鍛錬を始める。
レグルスに頭を下げろとは思ってなかったけど、私のことを前世で駅にあったスマホのエネルギーチャージャーとでも思ってるんだろうか。
でも睨みつけて舌打ちっていうのはなくなったから進展しているのかもしれない。
……ステータス画面の彼岸花は白いけど。まあ三段階しかないから好感度は0でも30でも白だからもしかしたら30くらいなのかもしれないしね。
そっとレグルスの鍛錬を眺めながらステータス画面を確認する。うん白、謎のバーコードの数字は16。うーん、なんの数字かわからないし、この数字の追求はやめて淡々と数字だけ追えばいいか。
久々に『攻略メモ』のページを開くと内容が変わっていた。
『とりあえず毎日会おう! 学園祭イベントは事前から協力するのがよき』
――先週、私は青のセイル様と同じ学園祭実行委員になっていた。幻のシーラカンスだと思っていたセイル様攻略のためこの委員になるために私はすごく頑張った。私はクラスの意思操作まで行う知性派公爵令嬢よ! 私は見事やり遂げたわ。
この11月3日から4日の二日間開催される学園祭は有志で参加という形となっている。もしかしたらレグルスもなにか有志で参加するのかもしれない。それに協力しろってことかな?
「そういえばお前、最近委員会でセイルと関わってるみたいだな。大変だろう、あいつ動かないし、神出鬼没だから」
レグルスが二メートルくらい離れた場所から私に話しかけてきた。
私をちょこっと心配して自分から話しかけてくるなんて珍しいし、貴様呼び週間はなくなったのかとぼんやり思った。
あー無性に推しに会いたくなってきたわ。彼なら君って呼んでくれるのに。
「そうですね。ですが最近は居場所がわかるので大丈夫です。そういえばレグルスも学園祭でなにかやるんですよね?」
「………………お前に関係ないだろ」
「確かにそうですが、気になりました。幼馴染だし心のなかで応援くらいはできるので」
もちろん応援はするでしょ。『攻略メモ』にもそう書いてあるし。それに努力しているのだし、失敗してほしいとは思わない。
「ふんっ! 馬鹿が!」
そう言ってレグルスは少し顔を赤くしてドスドスと去っていった。
なにか怒る要素はあっただろうか。元喪女には本当にわからない。
教室でも無視されるのはいつも通りなんだけど、今日はかなりおかしかった。
体をこっちに向けても顔を向けないのよね。不自然だったしフクロウみたいだった。
レグルスの周りに集う男子生徒たちも首を捻っていたわ。
ちなみにお義姉様に「レグルスがあまりに怒りっぽいから骨せんべいを贈ろうかと思う」と相談したら「骨せんべいってなに?」と不思議そうな顔をされたからこの世界にはないのかもしれない。おいしいのに……。酒のつまみに最高よ。
何かの骨を入手するのは公爵令嬢には難しそうだから断念したわ。
それから数日後、学園に激震が走った。
ゴーランド殿下から今年の学園祭は自分発案のクラス全員参加で『チェスの歴史』を年代ごとに区切って、クラスごとでそれを調べて展示することに決定したと公表されたからだ。
私は事前に彼から聞いて知っていたので『このチェス馬鹿が』と思ったし、大体の生徒は嫌がるだろうと予想していたが、何も騒動は起こらず表面上は静かだった。
彼は王太子で、側近は宰相子息の紫のイステリア公爵令息。この二人が決めたのだから、誰も反対できる人間なんていない。
こんなときばっかり公爵令嬢の私を期待の目でチラチラ見てきて、少し嫌な気持ちになる。
「学園祭、本当に全部展示になるのか? 実行委員内ではどうなってる?」
朝の鍛錬が終わって、レグルスは私に少しだけ近づいてそう尋ねた。
「ゴーランド殿下のあの強硬な態度ではそうなるでしょう。ご不満でも? ……まぁ、確かに不満しかないですよね」
「………今だから言うけど……。俺は、学園祭では氷魔法の魔法実演をやりたいと思ってた」
「え? そうなのですか? あの二日目の一番盛り上がる催しですよね。最近霜だけでなく氷の粒を出せるようになっておりましたが……さすがに実演は難しそうです……それに演じてて『いってー』とか言ってたら締まらないですし」
私は驚きつつもあまりの状況の厳しさに少し顔を曇らせてしまった。
「痛みは我慢する。だが実演自体は確かに難しいだろうな。でも挑戦したい」
レグルスは怒ることもなく私にそういった。
珍しいわ。怒らずにこんなに冷静なレグルスを見たのは初めてだわ。今までは「寄るな」って物理的に火花飛ばしていたし。
「……私は有言実行の女です。先日あなたに応援すると申しましたので、ゴーランド殿下に今日お会いしますのでお伝えします」
「――今日会う? ゴーランドは王太子だぞ? どうやって……」
「チェスの授業で殿下に圧勝したのがきっかけで、あれから週三日殿下と『放課後チェス』に勤しんでいます。そして今日はその活動日ですね」
「…………は? なんで?」
いや説明しましたが、今。きちんと聞いてましたか? もう一回説明するのはさすがに勘弁なんだけど。
「まあ、そういうわけですので! あの殿下が人の言う事を普通に聞くとも思えないので、あんまり期待しないでくださいね!」
うん、これで押し切るしかないわね、逃げるが勝ち! 私は淑女ができる最高速度でスススっと高速移動していった。
「……おいっ! 待てよ!!」
待ちません、あなたはまた同じ説明を求めてきて面倒そうなので! お先に失礼しますー。
翌朝、レグルスはいつものように、地面に魔道具を置いて私を待っていた。
「学園祭は通常通りになりましたよ! 感謝しなさい、リコルディエ侯爵令息!」
会って早々私はレグルスにドヤ顔を決めながら言った。まあレグルスが感謝なんてするわけないですねと思いながら、地面に置いてある魔道具を拾い上げてメンテを施す。
『今日も魔道具ちゃんはいい感じ!』と思いながら顔を上げるとレグルスが直角に頭を下げていた。
なに? なになになに? なにが起きてるの? なんでレグルスが頭を下げてるの? 怖い怖い怖い。お兄様! お義姉様ー! 鬼の霍乱です!
「……なぜ頭を下げてるの? 本当にあなたレグルス? そのあたりに生えているキノコでも食べたの?」
「……女相手に俺が感謝してるのに、それかよ。はあ、そもそもキノコむしってそのまま生で食うかよ。お前じゃあるまいし。お前のその言動、一気に馬鹿になったし、昔みたいな話し方だな」
そのへんに生えてるキノコは食べませんよ、毒あるかもしれませんし。ん? 言葉遣い? 馬鹿?
「動揺して、家族に話すような対応になっておりした。申し訳ございません。あとそのあたりに生えてるキノコを食べるほど、私は食い意地ははっておりません」
「……ぶっ。まあ、むしって食わないよなキノコ。あと言葉遣いはそれでいい。そっちのがお前らしい。あやまんな」
「いいの? 実はレグルス相手にあの言葉遣いは敬うところ全くなしで大変だったの。人前ではちゃんと公爵令嬢やってるから疲れてたんだよね。ありがとう!」
「お前、一気にさらけ出しすぎだろ。まあいいや、だがあんま近づくな。女は嫌いだからな」
「わかってるわかってる! それじゃまたね」
言葉を取り消されては困るのでさっさと引き上げた。そして誰もいないところでそっとステータス画面を開いた。
さすがに色づいたでしょ、少し笑うとかデレもあったし! 自信あるぞ今回は……!
彼岸花は相変わらず白。バーコードの数字は……相変わらず見えにくいけど23かな?
なんで? なんで、色がつかないの? 推しに会いたい一心でこんなに頑張ってるのに。レグルス難攻不落すぎでしょ。
もう9月も終わるんだよ? あと三か月しかない。あんなにチートしたのに間に合わなそう。そもそもレグルスに必要なパラメーターってなんだったわけ?
私は再び誰もいないこの場所で打ちひしがれていた――。
チカッ!
――パラメーターの魔法と学力が光っていたのに気づかなかったのだった。




