01-03 【好感度12】魔道具は矯正器具です…、が、激痛です
それから数日後、我がクラスとゴーランド殿下のクラスが合同で行われたチェスの授業で彼に絡まれて勝負した結果、私が圧勝を収めたことで周りの生徒たちはヒソヒソ私のことを言っている。
どうやら、私の腫れ物度は『空気の読めない公爵令嬢』へとバージョンアップされたようだ。
あの時、レグルスが遠くからニヤリと笑いながらこっちを見ていたけど、なんなのかしらね、あれ。
もしかして王太子に忖度せず勝利したのが奴の心に響いたのかもしれないわ。レグルスは『勝ち気』が好きらしいし。
学園内での腫れ物扱いは健在であるが、どうでもいい。公爵令嬢然として、振る舞ってればいい。だってこれが推しへと至る道であり既定路線ですもの。この扱いも、うっとりしちゃうってものよ!
でもこの日以降レグルスのところに日参しても対応は変わらず塩対応だったし、相変わらず彼岸花も白のままだったから、ニヤリとしていたのは別の理由だったのかな。いやはや、お恥ずかしい。
お義姉様の助言に従って、邸に帰ってから時間を見繕って作成していた魔道具が、やっと完成した。今までにない理論を加えたためか結構難航していたんだけど結構いい出来!
これをきっかけにイステリア公爵令息ともほんの少し会話できるようになったし、攻略は順調と言えるだろう。
それからさらに数日後――。
私は完璧淑女なので顔には出さないけど、実際はかなり浮かれながら、昨日完成したばかりの魔道具を持って、いつもの通りレグルスの鍛錬を少し離れたところで、じっと見学していた。
一見健気にみえるが、やってるとことはストーカーに近い。
鍛錬が終わったレグルスは、私のところに初めて自分から近づいてきた。
なんか……気のせいでなければ青筋見えるんですけど。何が奴の逆鱗にふれたの? 本当に怒りっぽいな……あ、憤怒ってこれか!
「……貴様、何の目的で俺を見ているんだ? 目障りだ、消えろ!」
あ、貴様呼びは固定なんですね。入学式以降初めて話しかけられたからわからなかったわ。怒りを極力抑えようとしているのはわかるけど、色々他人に見せてはいけないものが、にじみ出てます。
目的、ですか。『友好まであなたを攻略して、推しとのお砂糖ライフを送るためです★』なんて口が裂けても言えません……が、今日の私には秘密道具があるので、あなたが虚勢を張れるのは今のうちだけですよー。
ふふふふふ、くらえ!
「そんなことを言えるのは今のうちだけですよ。これを見てください」
「……なんだ、この腕輪は? ……いや魔道具か?」
「ふっふっふー! レグルス専用音叉式補助魔導具の腕輪です! 普通なら火属性のレグルスの魔法回路は氷に適していません。でもタイミングを合わせれば他の属性の魔法も撃つことは可能です。これは音叉部分が今が撃つときっていうタイミングを体に知らせてくれます。ちなみのダイヤルを属性に合わせる感じですね!」
あ、しまった! 少し素が出て、じゃじゃーんという音が聞こえてきそうなドヤ顔で私は言い放ってしまったわ。
それとは反対にレグルスは欠点を指摘されたと思ったのか、さっきよりも顔を強張らせてぶるぶる震えている。
あら怖い...... 私は燃やされる? というか火花散ってるよ? もう少し魔力抑えてくれないかな? 私はしれっと霧を出して涼を取りながら、もう少し仲良くなったら骨せんべいでも差し入れようかと真剣に考え始めた。
「俺のやり方や努力の方向が間違っているとでも言うのか? 女の貴様に何がわかる!」
「はい。やり方は間違ってますね。あと努力の度合いはわからないですね。人それぞれですし、私はあなたではないので。ただ地道に努力を重ねるという苦労は理解できます。その努力を否定するつもりはありませんし、報われるべきだとは思っています。まあ、幼馴染に騙されたとでも思って取り敢えず着けてみてください」
そう言ってレグルスに無理やり腕輪の魔道具を渡した。
「…………………試すだけだ」
レグルスは怒りを少し収めたのか、シエラ謹製印の魔道具を乱暴に腕に装着し、ダイヤルを合わせて氷魔法を使った。
多少乱暴に扱っても魔道具は壊れないから別にいいけど、私が普通の女の子ならこんな扱いされたら立ち直れないと思うわ。
本当に奴の中で女性は最底辺なのね。冗談抜きで結婚できないと思うよ?
あー、推しに会いたい。砂糖を摂取したい。はよ、隣国からやってこいー。
「………いってーーーーー!!!!!」
あ、霜が出たわ。今までの鍛錬でまったくピクリともしなかった氷魔法が出た!
「できたじゃないですか! よかったですね!!」
本当に良かった。すっごく怒りっぽいし嫌な奴だけど、努力は報われるべきだと思ったことは嘘じゃない。本当は手を取り合って喜ぶシーンだろうけど、触れたら絶対にレグルスは切れ散らかすから笑顔を向けながら自分の拳を握って喜びを伝える。
「よかったじゃねーよ! 俺が痛がってるの見て何とも思わないのかよ! 体に電気走ったぞ!」
「体に教えてくれると言いましたよ? 矯正器具なので仕方ないです。全く怒りっぽいなぁ」
「先にそれ強く言えよ! そうすりゃ覚悟してできただろうが! ――でも……できたんだよな?」
「はい! できました。そこから少しずつ制御していけば、氷魔法が使えるようになるかもしれません。……さて、ここでレグルスにとっての悲報です」
「…………は? 悲報?」
「――実はその魔道具は、私が結晶化させた魔石を、製造者の私が毎日浄化しないといけません。あ、その外側についてるやつですね! ……つまりあなたは毎日私にその魔道具のメンテを依頼しないといけません」
ニヤリとほくそ笑みながらレグルスに伝えると、彼は絶望感を漂わせた顔をした。これが今回この魔道具を作るにあたり、密かに一番苦労したところよ。強制接触イベントを作ってみました!
イベント名『あなたを癒せるのは私だけ★』よ! さて、貴様にどう響いたか、とくと我に見せよ!
「……貴様、俺の足元を見るのか? 女ごときが」
あれ? 感謝ではなく、怒りで体が震えてるよ? なんかギリギリ歯を食いしばってますけど、歯が折れますよレグルスさん。まぁ私は前世では、君よりお姉さんでしたからね、ここは丸く収めましょう。
「はい、見ます。これからよろしくお願いします!」
「……覚えてろよ!」
そう言って腕輪の魔道具をちゃっかり身につけたレグルスは肩をいからせてずんずんと教室棟のほうへ向かった。
あらあら、まだ怒ってますことよ? 『あなたを癒せるのは私だけ★』作戦は成功したはずと効果を期待しつつかなり浮かれながらステータス画面を確認する。
さすがに今回は一気に色づいたでしょ! 画面を見て唖然とする。
彼岸花は……真っ白。あの意味不明はバーコードの数字は12……かな? この前は13だったよね。
えー、なんで白? 強制接触イベント作ったのに! おかしいでしょ……。そりゃ怒ってはいたけど、あれは好意の裏返しという王道なのではないの?
数字は好感度なのかなともちょっと思ったんだけど、好感度が減るわけないから違うみたいだな。
私は誰もいない朝の裏庭で一人打ちひしがれた――。
その日私は教室でもレグルスにずっと睨まれ続けた……理不尽すぎる。




