01-02 【好感度13】現実でも日参は地味に好感度が上がる、らしい
入学式が始まり、見回してみても誰も退屈そうにしてもいないし、あくびを噛み殺すなんてこともしていない。
みなさんすごいわね、私なんて意識が少し遠のいているのに。
そんな変なところで感心する私をよそに入学式は進行していく。
あら、あそこに座っているのはレグルスね。こうして遠くから見てるぶんには、この世界では珍しい短髪でかなりの美形なのに、いろいろ残念な人よね。そういえば、前世でああいう犬いたわよね。なんだっけ? ポメラニアン? まぁいいか。
新入生挨拶で壇上に上がったのは、思った通り主席のレグルスだった。ほぼ全員が精悍なレグルスにぽぅっとなってるように見えるけど、『その人自分が負けると罵倒してくる小さい人間ですよー!』と心の中で叫んで主張しておく。
レグルスの声を聞いているとさっきの怒りが沸々と浮かんでくるので、推しの砂糖がかかったような甘い笑みを思い出して、怒りをなんとか収めた。
そして生徒会長の挨拶で王太子の黄色のゴーランド、いえゴーランド王太子殿下と呼ばなければいけないか。彼が壇上に上がると周囲から息を呑む音が聞こえてきた。
ゴージャスな金髪の長い髪を一つにまとめた、彫刻みたいに整ったお顔をしていらっしゃるけど、私には傲慢がこびりついた嫌味な顔に見えるのよね。どこがいいのかしら。
はあ、それにしても話長くて退屈……早く終わらないかしら。
やっと入学式が終わるとクラス表に従って移動を開始する。
この学園には貴族も平民もいるけれど、完全に校舎が分られている。昔は垣根はなかったみたいだけど、巷でよく聞く『真実の愛騒動』があってそうなったそうだ。
貴族クラスは二クラスあり、成績でクラス分けだけでなく席順も決まる。そうなると主席のレグルスと次席の私は同じクラスの隣の席だ。しかも今年一年間、席替えもなしとか、……理不尽だわ。
せめて授業中くらいはこの不機嫌オーラにあてられたくないし、環境に慣れたら席替えしてもいいんじゃないかしら。
羨ましそうにこっちをみているそこの女子生徒に熨斗つけて献上したいくらいよ。
そういえば青のセイル様はこのクラスではないみたいね。ああ、前途多難。
レグルスに罵倒されるという嫌な思いをした入学式はこうして幕をおろした――。
ちなみに邸にもどった私はお義姉様と一緒にレグルスをこの邸に呼んだことについてお兄様をきつくとっちめた。
♢ ♢ ♢
そんな入学式を終えた二日後、黄色のゴーランド殿下と紫のパーヴィス様もといイステリア公爵令息に『家柄だけのなんの突出したところがない女』と絡まれたことで、私の『腫れ物』扱いは確定した。私は公爵令嬢であり、その他の方たちの実家の爵位は私よりも低いのに、簡単に乗せられて大丈夫なのかしらね。
その後、イステリア公爵令息は王太子側近の権限をフルで使ってきて周囲に同調圧力をかけた結果、教師たちからも今や『腫れ物』扱いされている。
まぁ、あんまり気にしてないけどね。何か被害があるわけでもなし。だけどもう少し遅ければ友達ができたかもしれないのに! せめて友人ができてからにしてくれれば、ボッチじゃなかったかもしれないわ。
でも、まあ周りに人がいないから攻略はしやすくなったかな? ポジティブにいきましょう。
――そういえば青のセイル様をまったく見かけないわね。あの人、幻のシーラカンスなのかな?
そんなボッチの私は入学してから『攻略メモ』にしたがう毎日を過ごしている――。
レグルス攻略に必要な日参。
朝裏庭で鍛錬しているレグルスに挨拶して少し離れたところから眺め、放課後は挨拶だけを重ねた。ストーカーっていうことなかれ。
会うたびにレグルスは睨んでくるし、挨拶しようとすれば舌打ちして去っていく。授業中はこっちを全く見ない。
ねえ本当に攻略はこれで合ってるの? 不安でたまらないわ。
攻略メモにあった『彼に寄り添う』についても、こんな状態で寄り添ったら本当にレグルスに焼かれかねないわ。『寄り添う』と真逆の『寄るな』とか言われているし。
まあ私は光魔法で怪我は跡形もなく治せるから、焼かれたら即対応できるように心の準備だけはしている。備えあれば憂いなしってね。
攻略が進んでるんだか進んでないだかわからないけど、彼の鍛錬を見ているうちに私はひとつのことに気づいた。
なぜ火属性のレグルスが氷属性の魔法を練習しているんだろうかということだ。
レグルス自体は火を作るのに適した魔力回路なのに、氷を作ろうとしてもかなり難しいわ。これは努力不足とかそういうことじゃない。
私のチート能力は魔力の流れも見えるからね、気づいちゃったんだなぁ。
レグルスからは全く氷らしきものは出てないけど、魔力の流れを見れば氷を出そうとしてることはわかる。
適してない魔法なんて使ってたら魔力暴走は起きるし、下手すれば魔力回路は壊れるわ。
本当はやめさせるのが一番だろうけど、何か意味があって氷魔法を使おうとしてるんだろうし、手伝ってあげたい気持ちもある。
でもなぁ、これをレグルスに言ったところで、あの色々小さい男が言うことを素直に聞くとは思えない。どうやって伝えようかなと思い、夕食後お義姉様に時間を取ってもらい相談することにした。
「――なるほどね。リコルディエ侯爵令息にそれとなく力の使い方を教えたいのね」
「はい。あのままでは無理して魔力を使っている状態ですので下手をすれば魔力回路が傷付きますので」
私は紅茶をゆっくりと飲みながらお義姉様に答える。
それに対しふむ、とうなずくお義姉様。
「――なら魔道具でなんとかするのはどう? あなたはそういうの作るの得意なんだし。……でもね、私としては、義妹のシエラに酷いことを言い放った男性を許せないのだけど」
……まあ! お義姉様。学園で腫れ物扱いされていて傷ついた乙女心が浄化されていく気持ちです。グウェンお兄様なんて、レグルスの様々な問題発言に対して「ははっ。男なんてそんなもんだよ、可愛い女の子の前では意地をはりたくなるものさ」とか言い放ったんですよ。
元喪女の私にもわかります。
確実にそんな可愛いものではありませんし、もはや憎悪すら感じます。お兄様はズレてますわ。
入学して一週間が経つけど、相変わらず好感度は白い彼岸花のままだしね。
お義姉様に不審がられないようにそっとステータス画面を開く。
うん、やっぱり白のままね。
そんなとき私は彼岸花の下にバーコードのようなものがあるのを発見した。
なんだろうこれ? ミリタリーチックなUIだし飾りかな? ダウンロードコンテンツの推しのときにはなかったものだし、本編をやっていない私にはわからないな。
13█▉▊▋▌▍▎
うーん、字体が崩れているし、透過してるステータス画面だからよくわからないけど、13っていう数字にもみえる。わからないけど注意しておいた方が良さそう。これからもこの飾りには注視しよう。
私はお義姉様の言った魔道具について思いを巡らせる間に、出しっぱなしにしていたステータス画面のバーコードの形が変わっていっていることに気づかなかったのだった。
―――ピピッ。13█▉感▌▍▎
――――ピピッ。13█▉感度
―――――ピピッ。13%好感度
レグルスの個別ルートなので、ほかの攻略対象たちのメインイベントは、金太郎飴防止のためバッサリと省略してト書きだけにしています。




