04-10 【好感度56】殿下にメロメロなので大丈夫
さて、どうしたものか……。とりあえず予定通り、学園祭に対する生の生徒の声は聞かせられたけど、このあとはノープランなのよね。
でもこの方は今はお豆腐メンタルでも傲慢王太子よ。きっとプライドは天よりも高いはず。下手な慰めはいらない……よね?
生徒会室に戻った殿下は、うなだれるようにしていつもの応接ソファに座った。私は再び対面のソファに座り、既に用意されてた影特製紅茶を一口飲んで、殿下に明るく切り出した。おいしいけど影の皆さんが、侍女のようになっているのが疑問ではある。
「さて議題は『学園祭は本当にチェスの歴史展示でいいのか』です。ちなみに私はよくないと思います」
「…………お前、今のこの私に開口一番そんな事を言うのか?」
「はい、言いますね。誰もあなたに直接ぶつけませんから。『面白いと思います』という優しい嘘の言葉が欲しいですか? それを言うのは簡単ですけど、あなたはそんなに弱い人ですか?」
ハッとしたような顔をして殿下が顔を上げて、顔をあたかも苦痛かのようにゆがませたあと、激昂させた。
「馬鹿にするな。私はそんなに弱くはない」
「はい、そうですね。それにちょっと失敗しても改善すればいいだけですから。私が思うに殿下はチェスの面白さを皆さんに分かってもらいたかったのですよね。ならばそれが伝わるやり方に変えましょう」
私は人差し指を一本ビシッと立てて、殿下をじっと見つめた。
私は腫れ物扱いになっていても平常心なのに、殿下はあの一回で心が折れそうになるのかと思わなくもないけど、心の強さは人それぞれだからね。私のハートはオリハルコン製ですし。
今は殿下のメンタルについてとやかく言っててもしょうがない。推しとの砂糖生活のために必須な『学園祭の成功』それのみよ。
「…………どう変えるというのだ?」
「ここに来るまでどうすればいいか考えてたんですが、チェス自体を大きいイベント……『王太子殿下とチェス』に変えてしまうんです。殿下は生徒会の仕事で学園祭当日も忙しいと思いますが、チェスの一局くらいの時間は取れますよね」
「パーヴィスに押し付ければ取れるとは思うが。お前といつもやってるのと変わらないだろう」
ああ、この方は自分が貴族女性の大多数がうっとりするほどの美形だと言うことを忘れているのだろうか。いつもはあんなにも傲慢だというのに、高い鼻がへし折れると、ここまで変わるのかしらね。
「さっきのカフェテリアでの会話を、きちんと聞いてましたか? あの方たちは文句を言いながらも、殿下には敬意を持ってましたよ」
「……そうかもな」
「そ、う、で、す! あと彼らは言ってたじゃないですか。せめてみんなで楽しめる形ならって。つまり、チェスが悪いんじゃなく殿下のセンスが悪いんです!」
さっきは伝わる形って言ってうまく濁したけど、ウジウジしてるから思わず本音で言ってしまったわ。この方、お菓子選びも自分基準だから、プレゼンもセンスが悪いのよね。
「ですので、さっきも言いましたが形を変えるんです。それが『忖度無し大歓迎。殿下を負かすのは君だ』チェスイベント。まぁ、普通にやっても多くの方たちにとって殿下とチェスを打つっていうのはご褒美なので、かなりの応募人数が出ると思いますが――」
「なぜだ? ……私はお前に敵わんのにか? それなのに、それで人が集まるのか?」
「はぁ、殿下は人を惹きつける魅力があるのを理解したほうがいいですわ。特にその整ったお顔で令嬢たちはメロメロです」
「………め、ろ、めろ?」
「ああ、メロメロとは魅了状態になってぽぅっとしてしまうことです。私も何度も経験がありますわ」
「お前がか?」
はい。私も推しに対してよくメロメロになってるからね。あら? 殿下がまた顔を赤くしているわ。この方はよく顔を赤くするけど、体質かしらね。気にせず説得を続けましょう。
「素敵な殿下に近づけると令嬢達の参加も見込めるうえ、そんなふうに令嬢達の視線を独り占めする殿下を忖度無しで倒せるとあっては、気骨心のあふれる令息達の参加も狙えるでしょうね。絶対に打倒に燃えますよ」
「そ、そ、そうか。それならやぶさかでもない。そうだな、お前がイベントを取り仕切れ。言い出したのはお前だ。それ以外認めん」
…………嫌です。面倒ですので。殿下の傲慢な調子が戻ったのは何よりですが、すごく嫌です。
それに私がやらなくてもここまでくれば、『攻略メモ』通り学園祭は成功するはずです。
私は可否には触れず、しれっとした顔をして、とぼけておいたわ。
しかし、私の希望は天に届かず、この王族が関わる大イベントを取り仕切ることになるのである。チーン。
このあと私はこの信頼イベントを通じて、きっと好感度が上がったはずという希望を抱いて、ステータス画面を開くのだけど――。
真っ白? ん?? ……もしかして色ついてない?
……………。いや、ついてないわ。透過するUIとか本当に勘弁してほしい。
その事実に撃沈していた私はバーコード横の数字が56に上がっているのに気づかなかったのである――。




