04-09 カップル限定バケツプリンは時間稼ぎです
あれからすぐに、ゴーランド殿下は今年の学園祭の趣旨を『日頃の学習や研究、文化活動の成果を発表し、学生の自主性や創造性を育てるための有意義な催し』というものとし、有志での参加ではなく、クラス参加であること。
そして、学園で統一されたテーマに沿うことで 団結力を深めるとかいいだした。
統一されたテーマの何処に自主性や創造性があるのかさっぱり分からないが、殿下的には理にかなっているのだろう。
学園は殿下が言い出し、隣にイステリア公爵令息も控えていることから何も言えずお通夜状態である。普段は腫れ物扱いしてるのに、こういう時だけ意見が言えそうな家柄である公爵令嬢の私を、チラチラ見てくるのはどうかと思うわ。
私はもう手遅れだと思っていたから何もする気はなかったのだけど、あのおこりんぼの『寄るな、燃やす、近づくな』のレグルスが弱音を吐いたのを見て考えを改めた。確かに彼は頑張っていたし、報われるべきよね。
『攻略メモ』では学園祭を成功させろってあったのに、殿下に翻意することで難しくなるのかもしれない。
でも、私にはあと三カ月ある。その間に好感度MAXにするのではなく、友好にするだけなんだからきっと大丈夫! ………だよね? 少し不安だけど、自己暗示で乗り切るわ!
私はその後ひっそりと、演劇部の黒髪のウィッグを二つ拝借した。これで、殿下を何とか説得するのでお借りします。あとで、返却は必ずしますので!
この部に友人でもいれば頼むところだが、この部どころかこの学園にいないのだからしょうがない。でもあなたたちの学園祭もこのウィッグにかかっているんで、何卒ご理解を!
その日の放課後――。
私は朝にレグルスの弱音を聞いて、その後勝手に拝借したウィッグを持って、殿下との『放課後チェス』に挑むことにした。大忙しよ。
いつものように生徒会室に入って、ゆったりとソファに座る殿下の対面のソファに着席し、早々に私は訴えた。
「殿下、今日の放課後はカフェテリアで出されるカップル限定で注文できるバケツプリンが食べたいです! ぜひ殿下と食べたいです」
「は? …………か、かっぷる?」
あー、カップルの説明からか。殿下は少し世情に詳しくなったほうがいいと思います。
「殿下、カップルといいますのはね――」
「馬鹿にするな。カップルくらいわかる! なぜそれをお前と食べなければならないのだ」
ただの時間稼ぎです。あのバケツプリンは本当にバケツサイズらしいので、食べるのに時間がかかりますから、それ狙いです。でも殿下には永遠に秘密です。
「言ったでしょう? 私が食べたいからです。ですが、婚約者のいない私と殿下が連れ立って行けば、噂になってしまいます。ですのでこんなものを用意しました!」
私はジャジャーンという音が聞こえてきそうな感じで、黒髪のウィッグを掲げた。
「まさかそれを被って食べに行くとか言う気か? お前は正気か? だ、だ、だいたい私とお前はそんな関係では……ないだろう」
「はい! だ・か・ら、変装です。影のみなさーん、殿下にこのウイッグをかぶせてあげてくださいませ!」
「……っ!……なっ!」
私は姿を見せていない影に向かって声をかけた。私は魔力の流れが見えるから、魔力持ちの影の皆さんがどこにいるかわかるのよね。あら? 影の皆様が動揺しているわね。
「あ! もしかして影の皆様は私がいると出てこられないでしょうか。それでは私は生徒会室を出てますので、お待ちしてますね。ゴーランド殿下」
私はボサボサのおさげの黒髪のウイッグをかぶりながら部屋の外にでた。
私の元の髪は銀髪、殿下は金髪だから、黒髪にすれば正体がわかりにくくなるはずよ。その状態で、多くの人間が放課後におしゃべりに勤しむカフェテリアに行って、バケツプリンを食べながら盗み聞きする……これが今回の大事な目的。
バケツプリンは美味しいという噂は聞いてるからかなり楽しみではあるから私的には一石二鳥ね。まぁ、喪女としてはお出かけイベントにときめく場面なんだろうけど、ゴーランド殿下じゃ残念すぎる絵面だわ。
あれから五分くらい経過してやっと殿下は出てきた。
「まあ! 影の皆様はいい仕事をされましたね。かなり目立つ美形が、ちょっと目立つくらいの美形になりましたわ。ありがとうございます!」
私は影のいる方向に向かって微笑みながら会釈をした。あら、また彼らを動揺させてしまったわ。
「……お前がそこまで言うなら付き合ってやる。行くぞ、リリーディアン嬢」
あら、随分積極的になりましたわね。いいことですわ。
「ふふ。では、エスコートお願いします」
「……なぜだ」
「あら、私たちはこれからカップル限定のバケツプリンを食べに行くのですよ。仲睦まじくエスコートは必須です!」
「…………」
まったくわからず屋ですわね。全くエスコートする気がないようだから、仕方なく殿下の腕を掴んだ。全然エスコートじゃないけど、これはこれで初々しいかもしれないわ。この完璧でないエスコートを見て、誰も王太子とは思わないでしょうし。
「あ、この変装の間は『リリィ』とお呼びください。私は『ティム』と呼びますわね。流石に名前の愛称は大問題ですので、ファミリーネームをもじりました」
「そんなこと許してないぞ。自由すぎるのも大概にせよ」
殿下が何か言ってるけど、どうでもいいわ。それよりもバケツプリンが楽しみ! しまった、目的がすり替わってしまったわ。
そして、私たちは無事カフェテリアに到着して、バケツプリンを頼んだ。なお、殿下もとい、ティムはずっとムスッとしている。そんな倦怠期かとも思われるカップルの前にバケツプリンが到着した。
「この量は食べきれるのか? リリーディ……。リリィ」
「これは、想定よりも大きいですね。バケツはバケツでも特大サイズです。さあ、ティムいただくとしましょう」
私はそのプルプルのプリンをスプーンですくった。カラメルが上から垂れていて光沢があり美しい。味もかなり卵の濃厚な味がするのに、クリーミィですごくおいしいし、カラメルをかけるとほろ苦くなって二度おいしい。私はスプーンが止まらなかった。
「おいしそうに食べるな、リリィは。……太るぞ」
「あら? そういうティムはあまり食べていませんわね。口の中に入れて差し上げましょうか?」
私は口の中にいれるのはセイル様で慣れている。私は第一線で働くお世話係よ。
「どちらかというと、私が口の中に入れてやるほうが性に合っている」
「それは、遠慮申し上げますわね。恥ずかしいので」
「ほぅ、この私の匙が受けられないとでも言うのか?」
男性からのファーストバイトならぬスプーンでの『あーん』は推しの『暴食』イベントに必須なんですのよ。つまり初めては取っておかねばならないのです。
そのため私から食べさせるのはOKでもその逆はNGですわ。
そんなふうに普通(?)のカップルのように盛り上がっていたとき、私が期待していた会話が今隣に座ったばかりの男女二人組から聞こえていた。
「何が楽しくて学園祭に誰も興味もないチェスを調べなきゃいけないんだろうな」
「私もあなたと一緒に楽しみたいと思ったけど、王太子殿下がおっしゃるのだもの。仕方ないじゃない」
「あの公爵令嬢も役に立たないよな。公爵家の権限使えっての」
「その通りよね。せめてみんなで楽しめる形にしてほしいわね」
「殿下は尊敬するがほかの生徒を巻き込むなっての」
うん、予想はしてたけど辛辣。殿下はさっきまで楽しそうにしていたけど、下を向いてうつむいてしまったわ。殿下はみんなに楽しんでもらえると思ってたのだから、これはかなり傷つく。
この方は意外に真面目でピュアだから荒療治になるとは思ったけど、時間がなかったのでごめんなさい。
これ以上聞くのは無駄に殿下を傷つけるだけだわ。
「行きましょう、殿下」
「………………」
私は影のいる方向に目配せをして、殿下をささえるようにして生徒会室に戻っていった。
これで残したバケツプリンは影の方々の胃袋に入ってくれるはずだから一安心だわ。
前世からのもったいない精神はなかなか治らないらしい。




