04-08 横暴列車、暴走中につき
白の百合―シエラ・リリーディアン Side
週三回の『放課後チェス』は相変わらず続いている。殿下は推しのテーマソングが気に入ったようで、毎回頼んできてくれるのは布教が成功したようでにんまりだわ。ゴーランド殿下はさすが世継ぎの君だと感心した。
「《そういえば、最近パーヴィスはまだお前につっかかってきているのか?》」
今日の『放課後チェス』。今日は義姉の故国の言語での他愛もないおしゃべりをしながらついでのように聞かれた。
ん? イステリア公爵令息の動向? 側近なのに世間話すらしないのかしらね。
「《最近は鉱石と魔道具つながりで話すようになりました。あの方は鉱石のことだと、目を輝かせて饒舌になるので、楽しい時間を過ごしています》」
「……パーヴィスと? あの男が、目を輝かせるだと?」
「はい。この間はちょっとした問題を出してみたら必死に考え込んでましたね」
なにやら、真剣に考え込んでいらっしゃるわ。私なにか変なこと言ったかしら。ただの世間話しかしていないのだけど。いつの間にか言語も通常に戻ってるし、よくわからないわね。
「たしか、文化祭実行委員のリストにもお前とセイルの名前があったが……」
「はい、セイル様を運んでいます」
私はセイル様を魔法で物理的に運んでいることを簡単に話した。
「…………。あのセイルが他人に触らせた? ――ところで学園祭はお前は出ないのか?」
この方は、有志での参加しか学園祭に出られないのを知っているくせにボッチの私に言ってはならぬことを言うのか。
まぁ、私は気にしてないのでいいんですが、普通の令嬢ならここで号泣されて、殿下は女泣かせになるので気をつけたほうがいいと思うわ。
「そんな時間の余裕もないですし出ませんね。クラスでの出し物もこの学園ではありませんし、実行委員の仕事を頑張るだけです」
「……なるほど。つまりお前は委員の仕事しかないわけだな。つまり暇ということだ。……ふむ、この私が一肌脱いでやろう。ひれ伏すんだな、リリーディアン嬢」
そういいながら殿下の番になり、彼は勝ち誇ったかのようにポーンを動かした。
何言ってんの? 一肌脱ぐ? いや、学園祭実行委員の仕事頑張るといったじゃない。自分基準で考えないでちょうだい。
もしかして、なにか企んでる? すごく嫌な予感がするわ。って、あら……?
「……殿下、悲報です。あと11手で殿下の詰みです」
「なんだと! どこだ! どこが悪かった?」
さっきのポーンですね。なんかキメ顔で打ってましたが、かなりの悪手でした。なにやら殿下は頭を抱えてますが、もうどうにもなりません。
私は勝利の美酒ならぬ、以前しけっていたセカンドフラッシュのダージリンを飲み干すのだった。
――その数日後の放課後チェスの日。
「リリーディアン嬢! 生徒会権限で、今年の学園祭はクラスでの出し物に変えることにした。なんと、内容ははチェスの歴史についてまとめてもらうというものだ」
え? 放課後チェスが始まって口を開いたと思ったら、この人なんかネジが突然外れたんだけど。私は思わず呆然としてしまう。
「ふっ。お前も嬉しくてたまらず言葉を失ったか。ははは。一年の調査内容はチェス創世記の歴史についてだ。あの時代はかなり混沌としているからな。調べがいがあるだろう」
何が楽しくて学園祭という楽しげリア充イベントで勉強しなきゃいけないの? いや、そういうクラブは狂喜乱舞してやると思うけど、この学園にはチェス愛好会なんてないんですよ。
かなりドヤ顔してるけどこのチェス馬鹿は正気なの? 私は嬉しくてじゃなくて驚愕で言葉を失ったんですよ。
また変な良霊(?)にでも取り憑かれたの? いえ、今回は悪霊かしら。
「ええと、なぜ今更変更を?」
「はぁ、鈍いやつだ。チェスならお前も楽しめるだろうし、暇そうだったしな。この私自らお前を学園祭で楽しませてやろうという優しさだ。パーヴィスだけがお前を楽しませていると思うと癪だからな」
別にイステリア公爵令息とは、鉱石や魔道具について話したりはしてますが、彼だけと話しているわけではないのですよ。そして、私は推しとの未来のために全力投球している最中ですので、暇ではないのですよ。
「……それはまだ殿下の中だけでの構想ですか?」
「いや? すでに生徒会で承認を昨日受けている」
ああ、この人は真面目で無駄に仕事が早いから、もう手遅れね。
あの嫌な予感がしたとき、なぜもっと真面目に殿下の話を聞かなかったんだ、自分! 生徒会はなぜ反対しなかった……そうか! あのイステリア公爵令息なら、自分が軌道修正すればいいとか思って反対もしないわよね。
はぁ、学内の二大権力者が決めたことであれば、あきらめが肝心ね。
そしてここで同意するとこで『攻略メモ』通りに学園祭は殿下の大好きな完璧に成功するってわけよ。
「皆さん、楽しめるといいですね」
「ああ! きっとみんな楽しんでくれるはずだ」
この方は本気で生徒たちに喜んでもらえると思っていらっしゃるようだ。自分が好きなものを他人が好きだとは限らないのが、わからないあたりが傲慢なんだけど、喜ぶと信じているのはすごくピュアなのかもしれない。
一応前世では喪女とはいえ成人してたし、私のほうが殿下よりも精神年齢は上だと思うと、殿下のその姿が子供が褒めてっていってるような感じがした。
そのため私は手を伸ばして、形のいい頭をそっと撫でた。とりあえずお互いに座ってるから手が届いてよかったわ。
殿下を見守る王家の影の皆さまの気配が動いたような気がするけど、きっと気の所為ね、うんそうに決まってる……怖いのでこれ以上は影については考えません。
「なぜ、頭をなでる!?」
「お顔真っ赤ですよ。大丈夫ですか? なぜか頭を撫でてほしいように見えました。不敬でしたなら申し訳ございません」
私はこの国の王太子の頭を撫でるなんて少しまずいことをしたと思っていた。影の皆様も動揺したみたいだし、バッドエンドかとも思っていたのでかなり心臓がバクバクした。
でも、殿下は顔を赤くして片手で口を押さえていたから少し恥ずかしかっただけだろうと思う。そうであってください、バッドエンドの斬首刑はいやなのです。
「…………無礼だ」
「そうですわね。ゴーランド殿下は誰かに不敬にも頭を撫でる人間がいたとお話になりますか?」
「…………さあな。お前は伝えられる日がいまかいまかと怯えていろ」
そう言って殿下はイタズラな表情で不敵に笑った。
その表情に不敬罪で訴えられることは無さそうだと安心して、立ち上がった。
お互いにチェスっていう気分でもないだろうし、一旦やめて、気分転換に殿下も大好きな私の推しのテーマソングでも奏でましょうか。
ピアノを奏でながら私は思う。
ああ、ゴーランド殿下の横暴な計画が公表されたら学内は騒然とするのだろうか? それともお通夜状態? まさかの歓迎?
まぁ、なるようになるだろう。
ちなみに私はチェスの歴史なんて全く知りませんので、殿下の目論見通り楽しめるかと聞かれれば否ですね。




