04-07 傲慢王子は刺さるとチョロい〈菊視点〉
黄の菊―ゴーランド・クリザンテーム Side
父である陛下からあの女のことについて叱責を受けたあと、私は接近する機会をうかがっていた。だが、あの女は朝は登校は遅いし、昼休みにも放課後もどこにもいない。
会えないとなると、ますます会いたくてしかたなかった。そんなときにあの女のクラスとチェスの合同授業の機会に恵まれた。
あの女は周りに誰も人を寄せ付けず、一人でチェスのタクティクス問題をしようとしていた。
もしかして、あれが孤立なのか?
…………ふん。私のせいではない。だが、多少なりとも罪悪感がある。
――そうだ。私が組んでやればいい。そうすれば、奴を試すことができる。
そう思って話しかけたのだが、この女逃げなかったか? 私に好意的に近づく女は多かったが、逃げた女は初めてだぞ。……まぁいい、この女を得意なチェスで叩き潰してやる。
だが、私は完膚なきまでに負けた。あの女はほぼ思考することなく駒を進めていった。
あと、12手と言われたときは、何もわかっていない小娘がと思ったが、私が打ったあと奴が言ったのは事実だと痛感した。
強い! こんな強いやつは初めてだ。彼女の兄のリリーディアン小公爵よりも強いのではないだろうか。
それに多言語を操るというから隣国の言語で国政について話していても、的確だった。
あの眉唾物だと思っていた『リリーディアンの鬼才』は事実なのかもしれないと認識した。
彼女と有意義な話をしたい、チェスをしたいそんな気持ちが強くなった私は、あの授業以降、無理に話題を作って話しかける。
私は彼女に敬意を向けた。すべてが興味深い稀有で完璧な存在だ。
あのときは隣国の言語だったから内政について話せたが、廊下であっても世間話程度しか話せていたいが、少し彼女の話し方が柔らかくなった気がする。おそらくは私が好意的に話しているのが伝わったのだろうとおもっていたのだが――。
違った、彼女はただ気持ち悪いと思っているようだ。なぜだ! 私は生まれて初めて気持ち悪いと言われたぞ。こんな無礼な女は今まで会ったことはない。怒りよりも疑問が強かった。
それに、この女は立ち去って逃げようとするがなんなんだ! 完璧な女性なのにどこかおかしいこの女と、今までとは違う意味で話したくなった私は、彼女を連れて生徒会室へ向かった。
連れてきて真っ先に思ったのは菓子について執着がある女だということだ。
だが、魔法について『物質の結晶化』という固有魔法があるのは聞いていたが、実際に見ると便利なものだと思った。魔法がすごいのは知っていたが、彼女の魔法はとんでもないな。ふむ、利用価値がある。この私が有用性について考えてやろう。
あの女とのチェスに合理性を認めた私は週三回の、彼女曰く『放課後チェス』を始めることになった。
爽やか殿下は気持ち悪いからやめろと言われたときは公爵令嬢ごときがと思ったが、ありのままの私でいいと言われ、初めて言われたこともあり少しドキッとした。
……あとついでに、私に失礼なことをいったと落ち込む姿は、かわいらしかったような気がする。そんなことは伝えるつもりもないが。
この日から彼女をみる目が変わったような気もする。
何回かの多言語でとても有意義な会話を交わしながら放課後チェスを過ごした。
ある日、彼女が早めに帰ろうとした時には、思わず引き止めてしまった。
ここに残る代わりに何をしてもいいとはいったが、あんな前衛的なピアノを奏でてくると思わなかったぞ。だが演奏技術はとても高いと関心した。うるさくて仕事どころではなかったが。
聞いてみれば、彼女が領地でしたためた思い出の曲だという。それを私と共有したかったと。
それがなぜか私の心に少し響いた気がした。
――いや、この私があの女に心を乱されるなどあり得ん。
……にもかかわらず、顔のほてりだけはしばらく収まらなかった。




