04-06 【好感度33】王族相手に布教活動
週三回の放課後に殿下と行う生徒会室でのチェス――略して『放課後チェス』は多少のトラブルはあれど順調よ。
多少のトラブルとは――。殿下はお菓子選びのセンスが全くなかったことよ。建国時代の製法の古代菓子は珍しいのでしょうが、ほとんど味がしなくって虚無だった。
結局は、毒見済みの私が持ち込んだお菓子で妥協させたわ。毒見をしてくださる影の分も含めて沢山持っていった。
イステリア公爵令息も健康志向で味は度外視だし、この主従は流行のお菓子について、もう少し学習してほしい。
「《それでは切りもいいですので、今日はここまでにしませんか?》」
いつものように応接ソファにお互い向かい合って座って、大陸公用語で話しながら殿下ご愛用のクリスタル製のチェスに興じていたが、そろそろ終わりの時間だ。
私はこんな高そうなチェスの駒なんて使いたくないが、殿下がこれじゃないと駄目だと言うのでしかたない。白水晶と黒水晶の純度の高い透明感のある駒で、傷つけたらと思うとヒヤヒヤものなのよね。さっさと片付けてしまいましょう。
「《まだいいだろう。お前に勝ち越されているのが気に入らんからまだ続ける》」
「《とはいいましても、私は15勝0敗なので勝ち越しも何もないのではないでしょうか。それに今日は、チェスが終わったあと生徒会の仕事の続きをされるとおっしゃられてませんでしたか?》」
「《……お前ごときが私に指図するな》」
イラッとしたようにゴーランド殿下が指でテーブルをトントンとさせた。どうやら怒らせたようだ……ああ、めんどうくさい。
でも、この方は最初にチェスでやったときに思った通り、かなり実直な部分がある。そうでなかったら、生徒会の仕事を活動日でもないのにやろうとしないでしょうし。傲慢なのに実直とかアンバランスで不思議な人だわ。
「《………私が仕事をしている間、ここにいろ。人の視線があったほうが捗る》」
ああ、お兄様と同じ人に見られて興奮するタイプですか。お兄様はお義姉様を溺愛するのを私に見せつけてる節がありますからね。お兄様に言ったら、煙に巻かれるので言いませんけど。
しかし、好感度稼ぎでここにいるのはいいんだけど、少し暇ね。そう思って生徒会室を見回し、あのピアノを見たとき『これだ!』と思った。
「《では、あの隅にあるピアノを弾いていてもいいですか? 王宮専属の名工の作品ですよね。ずっと弾いてみたいと思ってたんです!》」
「《ああ、そう言えば以前王宮から搬入したな。……好きにしろ》」
「《はい!》」
うっふふふー。この最高級品ピアノでぜひ弾きたい曲があるのよね。我が家が公爵家でも王宮専属の名工の品は、芸術に傾倒しているお母様も欲しがっていたけど入手が難しい。
私は、椅子に軽く腰掛けて、指を少しプラプラさせて気合を入れてから、かなりアップテンポで、目まぐるしく音が変わる万華鏡のような曲を弾き始めた。
これよ! これ! 推しの『暴食』のテーマソング! この曲の中彼が颯爽と現れて、甘い言葉を囁いてくれるのよ! ああ、素敵。うっとりするし、ゾクゾクする! 前世で何度もリピート再生した思い出のあのシーンが蘇るわ。
「おい! それは仕事中に聴く曲じゃないだろう」
まあ! 殿下はこの曲の良さがわからないなんてかわいそうな人ですね。
「領地にいた頃、過去を偲んで楽譜に起こした思い出の曲です。殿下にもお聞かせしたかったのですが」
喪女による推しの布教活動です。あら? なんか殿下が耳を赤くしてフリーズしているわ。叩いたら動くかしら。
「………そうか。お前の思い出の曲を私と共有したかったのか」
「はい。……ゴーランド殿下の顔がどんどん赤くなっていますが大丈夫ですか?」
「な、な、な、な、なんでもない! 余計な世話だ!」
ほんとに大丈夫? その後も何度も確認したが大丈夫だと言い張るし大丈夫よね。いや、知らんけど。
そういえば、最近好感度見てなかったな。ステータス画面の好感度の花を見てみるか。
あー、相変わらず白いねー。白い菊の好感度UIだよ。がっくしするわ。
バーコード横の数字は…………33かな?
で、この数字何?
そして久々に『攻略メモ』を開く。
『学園祭を成功させればこっちのもの!』
……………。いや、もともと成功させるつもりですが。そして当たり前のことでは?
やっぱりこの殿下色々薄くない? なんかほかの塩対応メンズどもより圧倒的に薄いよ、王太子殿下!
まぁ、いいわ。楽にこしたことはないもの!
ああ、いったいいつになったらこの塩対応メンズどもの好感度があがるんだろうか……と考えながら推しのテーマソングを爆音で奏でるのであった――。
殿下はぼうっとしているのでほんの少し心配ですが、この曲だけでも好きになってくれるとうれしいわ。




