04-04 【好感度22】チェスは傲慢を漂白させる
白の百合―シエラ・リリーディアン Side
うん、腫れ物、寄るな危険。私にはきっと他人に視認されにくい結界が張られている。
いえ、クラスメイトのマリアンヌ・メリアーゼ侯爵令嬢のような素晴らしい佳人が挨拶してくれるからそれはないわね。
ふふ、ふふふふふ。でもこれは既定路線。腫れ物は推しへの至る道。問題ないわ。
あれから、ゴーランド殿下には全くお会いできていない。生徒会室周辺をうろついていたら、副会長のイステリア公爵令息に通報されるだろうから、控えるしかなかったし。
『攻略メモ』にあった完璧が好きっていうのってもしかして、女性の好みもそうなのかしらね。
ふふ、ふふふふふ。私のパラメーターは領地での英才教育によって、MAX(仮)なんですよ。
だから、きっとパラ萌をしてくれるはず、いやしてください。私は友好関係が築ければそれでいいんです!
腫れ物になって一週間以上が過ぎた。
今日の三年生のゴーランド殿下やイステリア公爵令息のクラスと合同でのチェスの授業で、教師から二人組を作って対局するよう指示された。
ポツーーーーン。
そうですよね、二人組みになれって言われても腫れ物の私と二人で組んでくれる奇特な方はいらっしゃいませんよね。
メリアーゼ侯爵令嬢たち四人組に『三人でも宜しければ』と気を遣って頂いたけど、彼女たちをこの腫れ物コースに巻き込むわけにはいかないから、断腸の思いでお断りをしたわ。
当然、女は寄るな、燃やす、近づくなの同じクラスの幼馴染レグルスがヒーローのように『組むか?』とか言うわけがない。……というより奴の視界にすら入ってないわ。
この教室の本棚には五手詰めのかなりマニアックなタクティクス問題の本があったし、これで『一人チェス』でも楽しんでいましょう。これはこれで楽しい……はず。
「女、この私が相手になってやってもいいぞ」
あーあ、可愛い女の子とキャッキャ軽いおしゃべりしながらやるのもいいけど、五手詰めもこれはこれでオツよね。
………………………。聞こえない聞こえない。こんな傲慢な声と台詞なんて聞こえない。
さて聞こえないふりで立ち去ろうかしらね。ヒロインは難聴がセオリーなんです。
立ち上がってササッと他へ移動しようとする私の前にニヤリと笑ったゴーランド殿下が立ちはだかった。後ろを振り返るとイステリア公爵令息が眼鏡をくいっとあげながら立っている。
……………詰んだ。この主従、本当にいやだ。
「はっ! いくら私の強さに慄いたからといって、逃げる気か、女。お前はそれでも、あの我が国最高峰のチェス大会三連覇の『リリーディアンの虎』の妹か」
なに、そのダサいあだ名。……それってもしかしなくてもお兄様の事? あの方はただの『チェスの鬼』ですわよ。ため息をこらえつつ、ゴーランド殿下に向き合った。本当に殿下は小馬鹿にするような顔をしてるわね。
「これは、菊の新星・ゴーランド殿下。ご機嫌麗しゅう。気づかず申し訳ございませんでした」
「……あなた、確実に気づいていて逃げましたよね」
イステリア公爵令息、するどい。私を薄い目で睨みつけながら嫌な指摘をされるわね。ここは微笑みでスルーよ。内心冷や汗ものだけど。
「……気の所為ですわ」
「《はぁ、私に従え。ポーンで終わりたいのか?》」
なんで、隣国の言葉で話しかけてきた? ああ、でもその言語は推しの国のもの。たとえ殿下の傲慢な声でも素敵に響きますわ! その言語に惹かれて、もっと話したいと思った私はウキウキと席に着いた。
――そういえば、そのセリフ、ステータス画面に書かれていたあなたの決め台詞ですわね。
あら? よくよく考えてみれば私は友好の好感度まで持っていきたいだけだから、ポーンで良くない? なんだ、下手に怯える必要なかったわね。
「《大変失礼いたしました。それでは不束者ですが一局お願いいたします》」
「《随分流暢に話すな。他にいくつの言語を話せる?》」
「《この国の言語と大陸公用語、この近隣の国々の言葉などを合わせて五言語です。殿下が先攻をどうぞ》」
チェスは先攻が圧倒的に有利だ。
もし、私が先攻して勝利でもしようものなら、先攻だからとか絶対に言われる。だったら殿下に先攻を打たせるほうがいい。
だって、私は『攻略メモ』通りに『忖度無しでおけ』で進めるから勝つつもりだから、余計な後々面倒になる憂いはいらない。手加減は無用だわ!
「《ふん、余裕ぶっているのか。まぁいいだろう》」
そう言ってゴーランド殿下は黒の駒を使用し、イステリア公爵令息が見守る中、最初の一手を打ち始めた。
♢ ♢ ♢
「《女、この国のありようについてどう思う》」
「《国政について、一介の公爵令嬢でしかない私が申すことではございません》」
あぶない、あぶない。ここで『ここがだめだと思います★』とか言い出したら確実に、思い上がるなと斬首刑バッドエンドよ。
ゴーランド殿下が駒を打ってから私はあんまり考えることなく自分の手を打っていった。
この方、チェスに自信を持っているだけあって強いわ。……でも、傲慢な性格に合わずチェスはとても実直なのね。
……悪く言えば単調で、読みやすい。捻くれた打ち方をするお兄様にしごかれたおかげで、それがかなり顕著に見える。
うーん、こんなにも搦手ができない方が、次期王だと思うと不安になるわね。
「《この私が許す。述べてみろ》」
「《そうですね、では一つだけ。リリーディアン公爵家では今年から魔道具による土壌改良を始めました。まだ始めたばかりですが、着実に効果は出ています。こちらの魔道具のほかの領地への普及をかんがえたのですが、王宮側に即拒否されました》」
「《は? 土壌改良をしてなんになる。それなら開拓をすべきだろう》」
「《開拓というのは、適していない土地を掘り返して土を軟らかくして、肥料を混ぜ込むなど手の込んだものです。それなら一つの土地から10生み出すほうが効果的です。あり様について言わせてもらえば、何が有用かをきちんと吟味することができる第三者機関が必要だと思いました。……殿下、手が止まっておりますよ?》」
「わかっている!」
あら、隣国の言葉タイムは終わりかしら。残念だわ、推しに触れ合えるようで嬉しかったのに。
「殿下、恐れながらあと13手で殿下の手詰まりとなります。まだお続けいたしますか?」
「なんだと? まだわからないではないか! 知ったかぶりを言うな!」
かなりお怒りになった様子で、殿下は駒を進めた。ああ、チェスは冷静さを欠いたら、悪手になりやすいけど、その道をすすんでいらっしゃる。
13手だったのに殿下の悪手で残り10手になってしまったわ。
「……申し訳ございません。余計なことを申しました……どうぞ」
殿下が打ったすぐあとに、私は考えることもなく打ち返した。
「…………」
あら? 意外にもすぐに感情が落ち着いたわね。冷静に盤をみているわ。でもあと9手で手詰まりなのは変わらない。殿下が長考の末に、型通りの場所に打った。
私たちは会話もなく、チェスを打ち進めていく。そして――。
「……チェックメイト」
私の勝利に終わった。忖度無しでやりましたよ! 私が周囲を見渡すと、イステリア公爵令息とレグルス以外のみんながかなり引いている。
………これ、『攻略メモ』通り忖度無しではアカンかったのでは? ……理不尽。
「リリーディアン嬢。あなたは強いな」
私は目を点にさせて目の前の傲慢ゴージャス美形を見つめた。なんだか、憑き物が落ちたかのようなすっきりとした顔をしていらっしゃるわ。
あなたは誰ですか? さっきまで傲慢をまき散らしてたゴーランド・クリザンテーム王太子殿下ですか? なにかに漂白されたのですか? 私はすぐときめくような喪女ではないんですよ。
「……あなたはどなたでしょうか?」
「リリーディアン公爵令嬢! どこをどう見てもゴーランド王太子殿下でしょう。あなたは頭がおかしくなりましたか?」
ああ、そうですよね。イステリア公爵令息。ですが、頭がおかしくなったのは殿下の方では? さっきまでと別人ですけど。負けてショックでおかしくなったとしか思えない。
「君とまた会話をさせてほしい。それではまたな」
きみ、君?? さっきまで私を女呼ばわりしてたわよね。それに聞き違いでなければさっきはリリーディアン嬢とか呼んでいたわよね。
だめだ、もう何も考えられな………。そうだ! 好感度! もしかしたらこれだけ対応が変わったんだし、菊の花の好感度UIに色がついてるかもしれない。
白い、めっちゃ白い。
バーコード横に数字があるのをこの前発見したのよ。で、今回は?
22█▉▊▋▌▍▎
22………。なんぞ? これ。好感度の数字かなと思ったけど、傲慢から負けて人格に異常がおきただけだから22とかになるわけないよね。
はぁ、それにしても白かー、いや黄色になってるとは思わなかったけど、白か。
―――ピピッ。22█▉感▌▍▎
――――ピピッ。22█▉感度
―――――ピピッ。22%好感度
先はまだまだだなぁと思いながらぼうっとしていたため、バーコード部分が文字へ変わっていることに気づかなかったのだった――




