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推しとの激甘生活を目指していたら、塩対応攻略対象たちに溺愛されていました  作者: 水無月傾
青の竜胆の章  〜学園祭

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03-06 【好感度42】ありがたくない兵糧丸のプレゼント

白の百合―シエラ・リリーディアン Side


 あの女生徒たちに絡まれてから一週間後、私はあれとは別件で、これから絶対に面倒なことが起きると戦々恐々としていた。


 ことの起こりは『チェス馬鹿』ことゴーランド殿下のこの言葉だった。

「今年の学園祭はクラス単位ごとのチェスについての展示にする」


 私は結構前にゴーランド殿下をチェスの合同授業で打ち負かせた結果、彼から週三回、放課後にチェスに勤しんでいる。友好まで好感度を上げたい私には好都合だった。


 そこで、彼はさっきの言葉をのたまったのだ。私はこの『チェス馬鹿が! 絶対に学園祭実行委員は面倒になるだろうが』と思っていたので、顔に出てしまっただろうが、ここまで彼は自分の考えに酔っていれば見えてなかっただろうと思う。


 そして、今日は週に一回の学園祭実行委員の会合日。まだ正式に殿下の言葉は公表はされていなかったが、事前に情報を入手していた委員長からこの展示について発表がされた。


 あら? 私に絡んできた副委員長がいない……けど前回いなかった三年生の子爵家の男性が一人いるわね。


 この学園は完全学力順の貴族クラスが各学年二学級、特権階級の平民クラスが六学級ある。貴族学級からは各クラスで一人学園祭実行委員に選出されるが、平民クラスは各クラスで三人選出される。

 平民クラスの学園祭実行委員というのは、貴族と関われるということもあり、かなり倍率をくぐり抜けてきた精鋭たちで、お兄様曰くよく働いてくれるらしい。

 学園祭はこの彼らと業者も多く使うこともあり、貴族クラスの学園祭実行委員の仕事は実は楽だったりする。

 だから委員長もあんな適当そうだけど成績上位クラスの侯爵家出身の三年生男子で、あの副委員長は下位クラスの伯爵家出身の三年女子だった。

 平民の彼らは大変なのに貴族は管理するだけなんて理不尽ではあるけど仕方ない。ここで手伝ったりしたら一気に私は常識なしになってしまうもの。

 

 ちなみに突き飛ばした副委員長含め彼女たちの両親は、あの一件の翌日には丁寧な謝罪の手紙と先触れをよこしてきた。あの態度を見ても彼女たちは家族に報告するとは思えなかったけど……意外に従順だったのね。


 私は面倒だったのでお兄様に『謝罪は受け入れる。慰謝料はなしだけど、魔導具の契約は以前提示した金額の二倍。三年間は見直しはしない』という条件で契約を進めてほしいということだけを伝えて他は一任した。


 あまりにも緩いとリリーディアン公爵家が舐められるから、ある程度は仕方ないです。

 少しどつかれたくらいだから、前世の私なら『ごっめーん』で済んだことだが、貴族は体面があるからなぁ、推しにあうためとはいえ少し心苦しい。


 隣りにいる机に突っ伏したウサギ、もといセイル様でも見て癒されましょうか。


「委員長! 副委員長はどうしたんですか?」

 私も気になっていたことを突っ込んだ二年生の貴族クラスの伯爵家の男子生徒がいた。


「なんか、突然遠くの国に嫁ぐことが決まったんで自主退学したんだよー。困っちゃうよね。だから突然決まった展示についてと副委員長選出が今日の議題だったんだけど、ちょうどいいから君が副委員長ね。はい決定。みんな拍手!」

「え゙。なんで? どうして?」


 思いっきり拍手をしたわ。一年生とはいえ公爵家ということで、私に飛び火しかねないもの。絶対に嫌すぎる、即お断り案件だわ。あ、決まりましたね。副委員長選出おめでとうございます。


 ……え? 突然の結婚って言った? まさか……お兄様が動いたのでは。私には「シエラの希望通りにしておいたよ」とか笑顔だったけど、裏で動いた? ……だめよ、これは公爵家の闇だわ。そっと忘れるのが吉よ。

 ――後日あのとき絡んできた女生徒たちが全員自主退学していた事実を知り、戦慄することになる。……はい、私は忘れました。はて、なんのことでしょうか。


 あの元副委員長の去就について思いにふけっていたんだけど、セイル様が寝苦しそうだ。少し暑いのかもしれないと風を魔法で送っておいた。はい、おやすみなさいませ。


「それで展示についてだけど、これはまだ公表されていないが決定事項だと思ってほしい」


 そこからあの適当さはどこにいったのか委員長は完璧な仕事の割り振りを発表した。印象が薄いけど、よく見ると顔は高位貴族らしく整ってるし、仕事はできるし、気配りも出来るし、適度にゆるいしでさぞモテるでしょうねと客観的に思いながら、ぼうっと委員長を眺めていたが隣から殺気を感じる。

 セイル様が起きたようでこっちを睨んでいるわ。いや、目つきはもとから悪い彼だけど、めちゃくちゃ怖いんでやめてください。

 そしていろいろ濃かったこの日は解散となった。

 


♢ ♢ ♢



 いろいろあった……あれから大変だった。

 学園祭実行委員の会合日の翌日にはゴーランド殿下から学園祭の『チェス展示』が発表された。

 学内は王太子が言い出したことではどうにもならないことにお通夜状態になったわ。


 レグルスへの学園祭での協力が『攻略メモ』にかかれていたというのが主な理由だけど、学園祭を楽しみにしていた彼を不憫に思った。そのため私は、ゴーランド殿下に直談判し、学園祭の健全化をもぎ取ったのである。


 ああ、良かった。これで好感度はレグルスはバッチリね。やつの彼岸花のUIは相変わらず白いけど。


 ………………って、何か忘れているような気がするわ。そうよ、介護に夢中になりすぎたせいでセイル様の『攻略メモ』を確認していなかったわ! まずい……まずすぎる。取り戻せる? いや取り戻す! こんなのはただのアクシデントよ。そう思いながらも内心冷や汗だ。


 まずは好感度確認! UIの花は、色づいているようにも見えるけど、白の竜胆っぽい。ほかの塩対応メンズもそうだけど、なかなか色が変わらないわね。推しの『暴食』砂糖ライフが遠くて萎える。わけのわからないバーコード横の数字は42、かしらね。

 そして本丸の『攻略メモ』の確認よ。


『ともに戦え、以上』


 え? 何と戦うの? ちょっと! そこが一番重要なんだけど! というか彼は戦える? 疲れたとか言って道端だろうがそのまま寝そうだけど……。


 …………………いいや、うん。きっとそのときが来たらわかるはず。謎のヒロインパワーがきっと発動する。私はそれまでセイル様を物理的に魔法で押していればいい。


 そういえばあの絡まれた後、彼を直接押すのはよくないと思い、風魔法で押そうとしたんだけど、セイル様に「………それ、やだ」と言われてしまったので、人前以外では直接押すことになった。魔法だと彼なりに違和感があったのかもしれない。


 心配だった彼の食生活はといえば……。

「セイル様は草食だと思ってましたが、意外に肉食だったんですね」


 あれから野菜スティックに様々な肉を巻いて切ったものを彼の口にはせっせと運んでいるし、食事量と内容は彼の侍従に報告をしている。

 肉が加わったことで、心配だった彼の歯も弱らずに済みそうだ。私も彼の口の周りも汚さないように給餌もできるようになったし、死角はない。

 それに最近はフルーツも食べるようになったし、いい感じよ!


「………うん、肉食。………そうだ、シエラ。渡すもの、あった」

 そう言って彼はポケットを漁ってから私に近づいてきた。

『まさか……これはかの乙女のトクン展開? ……私には『暴食』の彼がいるので、それは困ります!』と思っていた私の口の中に、草っぽくいがいがして粉のような味が広がった。彼が私の口の中に入れてきたのだ。


 これは……もしかしてジェシアン家考案のキャンディ型兵糧丸? セイル様がまずいと言っていたあれ? 確かに吐き出すほどではないけどまずいわと彼を見ると、してやったりみたいな顔をしている。なんだかここで「まずいー!」とか言いながら水で流すのも癪ね。


 ………………よし! 噛み砕こう。

 ゴリッ。

 …………………まっずーーーーーーー!!!


 なにこれ! 今までちょっとまずいかなくらいだったのにこれは草! 食べたことないけど雑草そのものよ!

 ふふふ、表情に出しては淑女の名折れよ。堪えるのよ、シエラ!


 涙こらえて飴をすり潰すゴリゴリという音が響き渡って、セイル様も呆然としている。ふふふ、してやったり返し! 諸刃の剣だけど。

 でも令嬢らしくはないので、セイル様はオフレコでお願いします。


「おいしゅうございました。オーホッホッホッホッ。それじゃ昼休みも終わりますから、押して戻りますよ」

 よし! 勝った。心のなかでガッツポーズだ。でも私のライフはゼロよ。泣きそう。


 そのまま教室へ向かっていた私達を、学園祭実行委員の委員長が引き止めるかのようにして話しかけてきた。


「やあ、リリーディアン公爵令嬢。聞いたよー! 君が王太子殿下の暴走止めたって。よっ学園の救世主!」

「はい、頑張りました」


「ウンウン、がんばりやな一年生だね。そんな君は王太子殿下相手にチェス大会を企画したそうだね。な・の・で、その企画は君の方でよろしくね。いやー王族対応が一番面倒、おっと一番名誉なことだからね。一緒に組んでいるジェシアン伯爵令息は側近候補、それに君も公爵令嬢だから適任だよ!」


「え? 本気でおっしゃられているんですか? 私達は入学したての一年生ですよ?」

「私は実力主義だからね! 問題ないない。あ、それだけやってくれればいいから。学園祭実行委員の仕事は先輩たちに任せなさい! 一番面倒ご、いや繊細な仕事がなくなってくれて助かったよ」


 この人、爽やかそうだけど胡散臭い笑顔で、一年生に一番面倒なことを押し付けてきた。しかも私は腫れ物扱いだから、他の生徒たちの力も借りにくいのをわかってるはずなのに! 以前からこの適当そうで食えない人っぷりは、誰かに似ていると思ったけれど、お兄様に似ているんだわ。

 ええ! ええ! 確かにこの企画をゴーランド殿下に持ってきたのは私よ。……因果応報だわ、理不尽……ではないわね。

 ああ、もう! 戦い抜いて見せましょう。ええ、実質一人しかいませんけどね、ははははは。笑うしかないわ。


 ………………………はっ。もしかして『攻略メモ』にあった『戦え』ってこれのこと? まさか……いやでも、なんか適当な感じの攻略アドバイスだし、もしかしたらこれがそうかもしれないわ。

 ふふふふ、これは本気を出すしかありませんね。『推しから溺愛供給』という人参ぶらさげてシエラはがんばります!


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