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推しとの激甘生活を目指していたら、塩対応攻略対象たちに溺愛されていました  作者: 水無月傾
青の竜胆の章  〜学園祭

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03-04 公式公認のお世話係り任命

「なぜ、セイル様のお世話をその方がやるのですか? 学園祭実行委員副委員長でもある三年生のわたくしがやるべきです!」


 私は放課後の学園祭実行委員の初会合に向かうため、セイル様を軽量化魔法や、自分に身体強化をかけてから、物理的に押しながら教室に入ったのだけど……。

 直接絡まれたのは今はオタク繋がりになったイステリア公爵令息以来ね。


 ああ、これが噂の『一部のカルトファン』か。

 ほかの三人よりもセイル様は目つきが悪いけどかわいいから、近寄りやすいのかしらね。

 でも私から言わせると全員クセがあるから、没落とかバッドエンドとか、推しのことがなかったら絶対に近寄りたくないけど。


「君じゃジェシアン伯爵令息は、ピクリとも動かせないよ。リリーディアン公爵令嬢が、とんでもない魔法制御と身体強化でここまで運んでるのわかんないの?」

「え? 魔法、制御? 身体強化?」


 学園祭実行委員副委員長の女生徒は黙って私を睨みつけてくる。まさか、魔法のこと言われると思わなかったわ。


「俺が学園祭実行委員の委員長ね、よろしく一年生諸君。ちなみに魔法開発研究部の部長もやってるんで、入部はいかがかな? リリーディアン公爵令嬢なら歓迎するよ?」

「あ、お断りします」

「即答ですかーーー! ま、今はいいや。さっきも言ったけど、ジェシアン伯爵令息は、君しか物理的に移動できなさそうだから、二人で組んで仕事に取り組んでね。はい、よろしく! じゃ、中断してたけど再開するよ」


 あっという間に、学園祭実行委員の仕事をセイル様と組むことが決定した。ありがたいですけどね……うん、実質一人でお仕事ですねー。知ってた。

 この委員長、かなり適当そうだけど侯爵家の家柄なのよね。

 隣を見るとセイル様は早速机に突っ伏して寝ている。うん、通常運転の省エネモードセイル様だわ。お昼に今日はたくさん食べたからきっと眠いのね。


 この日はお世話係決定と、学園祭実行委員の大まかな仕事が伝えられた。毎週この曜日に集まるらしい。

 セイル様には、『毎週ここまでお運びしますね。お世話係になったのでよろしく』とだけを伝えてから運び出し、馬車止で待っていたジェシアン伯爵家の侍従に託した。


「今日のセイル様は、意欲的に食事をお摂りになり、アスパラの肉巻きの野菜スティックを、ご自分から所望されてました。そして毎週この曜日は学園祭実行委員の仕事のため、このくらいの時間のお届けになります」


 そう伝えると、彼の侍従は涙を流し、いそいそとハンカチを目に当て始めた。

「なんと、あのセイル様が! リリーディアン公爵令嬢、あなたは光のような導き手ですね。これからもよろしくお願いいたします」


 なんでしょうか、初対面なのになぜかチーム感があるわ。お互い苦労してると言うことなのかしら。

 ご本人は園児が保護者の車に乗り込むかのようにして、馬車のなかでお休みになってるし、私は幼稚園の先生ポジションになっているのでは?


 オーホッホッホ。攻略は着実に進んでいるわ。本人や学内だけでなく、邸の者まで掌握し始めた私は無敵のお世話係と言っていいんじゃないかしら?



♢ ♢ ♢



 ――本の返却は明日にして早く帰ればよかった。

 セイル様と別れたあと、私を待っていた侍女を置いて、一人近道を利用して、大図書館に向かっていた。そんな私に後ろから声をかけてきた女性が三人。


 一人は先ほどの学園祭実行委員副委員長の女性。あとは彼女の友人だろう。

 ああ、なんて厄日。せっかくお世話係認定に浮かれていたのに。


「ごきげんよう。公爵令嬢ともなると男性を撫で回すのがマナーなのかしら。私の伯爵家ではそんな教養はございませんでしたわ。ぜひその手管をご教授いただけないでしょうか」


 うわー、テンプレきた。

 ん? もしかして、物理的にセイル様を押すために触れていたことを言ってる? 撫で回すって……私は痴女ではありませんが。

 でも確かにあれはよくなかったわね。今度から風魔法で押すことにしましょう。


「そうですね、まずは自分に身体強化として土魔法で、鎧のようなイメージで魔法を展開して――」

「誰もやり方なんてきいておりませんわ!」

「察しが悪いのですね。セイル様は寡黙で、周囲に流されることなく孤高に君臨される大樹のようなお方。あなたのような身分だけの人間が近づいていいお方ではありませんのよ。身の程をかんがえられては?」


 そう言って私を軽く突き飛ばした。

 ああ……、彼女たちはやりすぎてしまった。これは腫れ物扱いと言って自虐してるだけでは済まない、我が家の沽券に関わる問題になってしまった。

 面倒だわ。何でこの国唯一の公爵令嬢を突き飛ばしたの?

 やり方を聞いてるわけではないのは分かっていたからとぼけてあげたのに。そこで引くべきだったわ。


 ……それにしても、ものは言いようね。確かにセイル様をきれいに表現したら孤高の存在とかに

見えるかもしれないけど、私の考えるセイル様とまるで印象が違う。

 あの方は大樹でなくウサギよ。カルトファン怖いわね、あまりにも盲目すぎる。


「実は私は洋梨が好きなんです。ですが洋梨って熟す工程が難しくて、味の均一化が難しいんです」

「あら、あなた様は昔は太っていたと聞きましたが食べ物への執着がひどいんですのね」

「セイル様が穢れますわ」

「しかも、話を逸らすのも苦手なようで。殿下やパーヴィス様に蔑まれるのも当然ですわね」


 推しに一途な私はあなたたちの嫉妬や恋情っていうのはわかるつもりだけど……手加減はいらないのかしらね。私は心の中でため息をつき、彼女たちを哀れむ視線を向けた。


「そうですわね。食べ物への執着はある方かもしれません。そのため、私は今年領地で容易に熟成ためするだけの魔道具を開発いたしましたの。洋梨だけでなくメロンやほかの農作物の熟成にも使えますのよ? それをサンプルとしてほかの領地にもお配りました」


「……え?」

「まぁ、シーズンごとでの使い捨てになってしまうのですけどね。来年からは有料でも是非にという声をお配りした領地の領民や領主たちから頂いております。ふふふ、実はその魔導具の権利と裁量権は製作者の私にございますの」


 私はニンマリと笑顔を浮かべ、片手を頬に当てて首を傾げる。お兄様やお義姉様の力を借りるつもりはないわ。私の勝手に家族を巻き込む気はないもの。


「あなたがたのご実家ではその魔道具を組み込んだ来年のスケジュールを立てていらっしゃるようね。そのため領主夫妻であるご両親には、『サンプルのお礼と来年以降の継続購入の意思の手紙』を頂いておりましたが……。今回の件で身の程を考えた結果、私から提供されるのは、さぞご迷惑でしょうという考えに至りました」


 彼女たちは青ざめて何かにすがるような目をして私の話を聞いている。かなり震えているし、もう立っているのがやっとというところね。


「領民の方々には心苦しく、こんなことはしたくないのですけど……。来年からは、あなたがたのお実家へのお譲りは控えさせていただきますわね。ふふふ、契約前でよかったですわ」


 私は眉を下げ、申し訳なさそうな顔をする。

 彼女たちの領地の領民を苦しめる意図はないし、効率を上げるっていうだけの魔導具だから、これがないと立ち行かなくなるというものではない。うん、死活問題でもないし、手打ちとして丁度いいわね。


 あら、全員顔が青ざめているわね。でも自分たちが考えなしに、セイル様への崇拝で暴走したせいだし仕方ないわよね。


「私は邸に戻って、来年分の契約先を見直さねばなりませんので失礼いたしますね」

 私は会釈と軽い笑顔を向け、立ち去ろうとした。


「リリーディアン公爵令嬢様! お待ちくださいませ! 言葉を取り消しさせてください。申し訳――」

「謝っていただかなくて大丈夫ですわ。私は気にしておりません。ああ、それとセイル様に触れたことについては、あなたがたのおっしゃられた通りですわね。ご指摘感謝いたします」


 なんだか三人ともご実家のことを思っているのか慌てた様子だけど、私には関係ない。自分の言葉の責任くらいは取るべきだわ。

 ああ、そうだ。本の返却をしようと思っていたんだったわ。今日はもうつかれたし明日にしよう。


 そんな私を遠くから見つめる視線には気づかないまま、打ちひしがれる彼女たちを置いて、私は颯爽と立ち去ったのだった――。


 邸に戻った私は、報連相の一環でお兄様にお義姉様に報告を入れた。我が家の沽券問題があるから仕方ないわ。我が家の没落は嫌だし……。本当は報告したくなかったんだけど、押されちゃったしね。


 ああ、さっきの三人組のご令嬢方、ごめんなさい。お兄様が激怒されているから、何か過激なことをやってしまうのかもしれないわ。

 そこまでは望んでいなかったのだけど、お兄様の後ろでお兄様の侍従が、高速で何かを書き留めてるから無理そう。

 せめて、ここから彼女たちのご実家の安寧を祈ることにしましょう――。

   


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