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推しとの激甘生活を目指していたら、塩対応攻略対象たちに溺愛されていました  作者: 水無月傾
青の竜胆の章  〜学園祭

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03-03 兵糧丸と待ち望んだ学園祭実行委員選出イベント

 あの日の帰り、私は書店に行き、ウサギの飼育方法の本を探した。


『ウサギのきもち〜やさぐれウサギ編』という睨みを効かせたかわいいウサギが草をくわえてるグラビアの表紙を見たときに、あまりのピンポイントさに「これよ!」書店で叫んでしまい、注目を浴びてしまった。

 側にいた私の侍女は恥ずかしそうだったわ。ごめんなさい。もちろん即購入したわ。


 邸の自室で重要そうな部分には鉛筆で線を引いたりして、やさぐれウサギの飼育法の本を読み込んでいく。


 なんて素晴らしい本なのかしら。

 特に『ソファの裏に隠れて出てこないやさぐれウサギへの対処法』。これはすぐにでも役立てられると思う。

 授業の合間の休み時間はこれを読んで過ごそうとキュッと大事に抱きしめた。これは私の今の愛読書となった――。



「皆さんで相談して、学園祭実行委員をクラスで一人立ててください」


 このクラスの担任教師が私がずっと心待ちにしていた言葉を言った。


『攻略メモ』にあった学園祭実行委員を決める儀式――。これは推しへ至るための大切な切符よ……違ったわ。セイル様の攻略に必須ともいえる大事な選択よ。


 やりたい! 絶対にこれは逃がしてはいけない。どうすればいい? 


 今のこのクラスでの私の評価は最底辺よ。

 元から低かったのだけど、チェスの合同授業があってゴーランド殿下を打ち負かせたことにより『忖度もできず空気の読めない公爵令嬢』にランクアップされたことに由来する。


 いや、だって彼は強かったけど、よくありがちな独りよがりなスタイルで読みやすかったから仕方ないと思うけど、そんな言い訳は通らない。理不尽だけど、これが王族ファーストだわ。


 だからここで普通に立候補しても「あら、公爵令嬢にこんなことはさせられませんわ」とかなって、絶対に邪魔される。……理不尽だけど受け入れよう。


 だけど生徒の主体性に教師が委ねたおかげで、『立候補はいるか?』とか言い出さなかったから、立候補者は誰もいないのは幸運だわ。


 これはチャンスね。ふぅ、一芝居打ちましょうか。

「先生、質問してもよろしいでしょうか?」

「…………リリーディアン嬢、手短に」

「ありがとうございます。こちらの役員をやることで何か利点はあるのでしょうか。例えばですが、大きな試験後に学園祭が行われますが、何かが免除されるなどございますか?」


「何を言い出すかと思えば。利点を期待するなんて生徒の考えることではありません。当然なにもありませんよ」

 ええ! そうでしょうね。利点はないという、その言質が重要なのよ。そしてこの学園の学園祭はクラス単位の参加はなく、有志での参加……。これを上手くつついて追い打ちをかけるわよ!


 あくまで困ったような感じに見えるように私は眉を下げた。

「では、準備に時間が取られて有志参加が難しくなるうえ、試験のための学習時間も減るということでしょうか。まぁ困りますわね」


 教室がざわつく。よしよし、もっと盛り上がれ!

「それなら成績が高い人がやるべきじゃない?」

「そうよ、成績がいい人なら勉強なんて必要ないもの。そうするべきだわ!」


 ふふふ、そうでしょう、そうでしょう。でも、主席のレグルスは……絶対にやるわけがないわ!

 そんなに期待に満ちた目でレグルスを見ても無駄、無意味よ!


「俺は断る。巻き込むな」

 ふふふふふふふ。レグルス、あなたはなんて素晴らしいのかしら! あなたは最高の仕事をしてくれたわ!


「なら、次席のリリーディアン公爵令嬢がやるべきよ。殿下に勝利するくらい目立ちたがりやですもの。適任ですわ」

「そうだな! 彼女は公爵令嬢様だ。みなの見本として立つべきだ!」

「それに彼女は学園祭で有志参加なんて付き合ってくれる相手がいないから暇だろうしな」


 ふふふふふふ。まだまだ足りないわ。もっとよ! でもボッチだということは、あまり触れないようにお願いします。


「……ですが、リリーディアン公爵令嬢もお忙しいかと思いますから、他に立候補がいないようでしたら、ここはくじ引きなど公平にお決めになったほうがいいと思います」

「もっと理性的に考えたほうが私も、その……」

「くじで決めた運命に従うほうがロマンチックですわ」

「わ、私も、そう思います」


 あら? 彼女たちは私に朝の爽やかさを提供してくれるマリアンヌ・メリアーゼ侯爵令嬢たちじゃない。彼女たちは公平な目を持っていて素晴らしい方々ね。……でもごめんなさい。私は欲に忠実に生きるわ!


「メリアーゼ侯爵令嬢、私は構いません。皆様のお役に立ちたいのです。ですので、そのお役目引き受けさせていただきますわ」


 私は最後のダメ押しにと強い決意を持った目と慈愛のこもった言葉でクラス中に訴えかけた。

 教室は静まり返った。

 隣の席に座るレグルスが『うさん臭い』みたいな目で私を見てくるけど、バレるんでやめてくださいませ。


 軽く頷いた担任教師が最終確認をする。


「……学園祭実行委員をリリーディアン嬢に決定することに異議のある生徒はいますか?」

「ありませーん」

「適任ですわ」

「いいとおもいまーす!」


 ふふふ、もっとよ、もっといってちょうだい! 私の目論見通り、どんどん生徒たちの賛成の声が上がっていく。


「では反対の方は挙手お願いします」


 メリアーゼ侯爵令嬢が、おずおずと手を挙げようとしている。お願いやめて! あなたが素晴らしい方なのは、よく分かりますが今はやめてー。


 私はメリアーゼ侯爵令嬢に優しく微笑みながら、首をゆっくり横に振る。

 ……ふぅ、彼女は思い留まってくれたようだ。


「反対の方もいないようですので、リリーディアン嬢に決定します」


 盛大な拍手が起こった。

 メリアーゼ侯爵令嬢たちは心配そうに私をみているけれど……。でもご安心ください、私のハートはオリハルコン製ですので。


 決まった、これでチェックメイトよ! オーホッホッホ、腫れ物サイコー。

 こうして、このクラスの学園祭実行委員はシエラ・リリーディアンに決定されたのだった――。



♢ ♢ ♢



「え? セイル様が学園祭実行委員をされるんですか? 彼の活動時間は普通の人より圧倒的に少ないですが……」


 隣のクラスでは今日の学園祭実行委員ぎめでセイル様が決まったそうだ。

 なるほど、それでこの委員になれって『攻略メモ』にあったわけね。でもセイル様には絶対無理よ。


 そして、隣のクラスの担任は当然セイル様が自発的に動こうとしないのは分かってるみたいで、委員会の部屋までは、私に連れて行ってほしいと頼みに来たそうだ。どうやら昼休みにエントランスまで彼を押していた姿が目撃されていたらしい。

 まぁ私の機嫌を伺いながらという感じだけど、セイル様のことを心配しているみたいだし、いい教師なんだろう。


「ジェシアンには難しいのは私もわかっている。だがなぁ、あれは一部からかなり人望があってな。やつが眠っている間に決まってしまった」

「一部のカルトファンが……」

「カルトファンといってやるな。あれを連れて行くだけでいい。君はジェシアンが信頼する人物だろう。頼んだぞ」


 押し付けるようにして教師は去って行ってしまった。ふむ、他人から見ると私は信頼されているように見えるらしいけど、実態はただのヘルパーもしくは飼育員なのよね。

 ふふふふふ、でもこれで学内でもセイル様に接触できる方便ができたわ。運が私の方に向いてきたわ。稼ぐぞ、好感度! 推しへの道を着実に進んでいるわ。


 ちなみにこのとき聞いた一部のカルトファンのことをすっかり失念した私は後々しっかりと面倒事に巻き込まれることになるのであった――。



 その日の昼休み、いつものように旧校舎へ行くと珍しくセイル様は椅子に座って起きていたのであまり探さずに済んだ。


「こんにちは。起きているなんて珍しいですね。空腹で眠れなかったのですか?」

「…………なんで、委員になった?」


 な、な、な、なんて答えにくいことを聞くのでしょうか。『『攻略メモ』にあったので★』なんて言えない。でも、この逃さないぞ感、嘘なんて言ったら多分バッドエンドだわ。……理不尽。


「シエラのクラスのやつ、言ってた。公爵令嬢様に、押し付けた……って」

「…………」

「……パーヴィス、たちのせいで、嫌がらせされてる……から?」

「…………ちがいます。これは運命です!」

「…………。そう、今日の野菜スティック、なに?」


 あ、一瞬で興味なくなりましたね。まぁいいです。でも嘘は言ってません! 運命、宿命、使命です! 乙女ゲーム三大『命』ですよ。乙女ゲームは大体これで押し切れます!


 ……あれ? もしかしてあの何事にも興味の薄かったセイル様が関心を示した?


「セイル様! やっと、やっと真人間に近づいてきたんですね! ううっ。あんなに関心が薄くて生きてるのかどうか分からなかった、あのセイル様が……!」

「……なっ! かなり、失礼。……いいから、野菜スティック」


 うう。涙が止まらないわ。でも少し顔が赤くていつもより睨みがきつい気がする。というより、少し動揺してる? ……気のせいか。


「ぐすっ。はい! 今日は半生のカブとアボガドです! ディップは細かく刻んだマッシュルームとバターを使用したあまり咀嚼の必要がないものです!」

「……はやく、口、いれて。疲れるから」

「はい!」


 私は無心で野菜スティックをセイル様の口に入れていく。あら? 今日は食べるのが早いわ。これはウサギのきもちの本で読んだ『おいしいものを食べたときの仕草』ね!


「……シエラ。アスパラに、肉巻いたのが、いい」

 それってアスパラの肉巻き野菜スティックバージョンですかね。確かにそれは栄養が摂れそうですし、美味しそうですが……。

 ん? セイル様がリクエスト? これも初めてのことだし、すごく嬉しいし叶えたい……のだが。


「セイル様、悲報です。おそらく、肉が噛み切れず、食べ進めることは無理です。そして、肉汁で顔の周りに肉の脂がつくので、顔を拭く必要があります」

「…………切ってきて。汚れたら、シエラが拭って」

「なるほど。切ってくるという手がありましたね。ではそれでいきましょう!」

「……拭うのは、いいの?」

「はい! でも汚さないようにしますね」

「……本当に、変な子。……今日、委員会連れてって」

「はい! 喜んで!」


 よし、これで公式公認のお世話係よ。早速好感度確認っと。サクッとね!


 んーーーー。色ついてるような? うっすら見えるような? って願望か。白です白!


 ほかの人達もそうだけど、全く色変わんないなぁ。謎のバーコードは分かりにくいけど36かな? 


 推しの砂糖生活はまだまだ遠い……。


 って、あら? セイル様はご自分が学園祭実行委員だというのを知っていたり、私が委員に決まったという周囲の会話を聞いていたのかしら。この方は寝ていたはずなのに……。本当に謎な人ね。



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