02-12 【好感度60プラス】呪いと決めつけ魔王降臨す
レグルスに深く踏み込みすぎて謝ふ罪の機会を逃した私はここ数日レグルスを探し続けていた。
学園祭前日の今日もそうだった。
学内は学園祭の準備真っ盛りで楽しそうな声や工具の音でかなり賑わっている。
そんな中私は周囲に高速移動がバレないような動きで、スススっと令嬢ができる最高速度で廊下を移動していたら、どこか聞き覚えのある悲壮な声が聞こえてきた。
「イステリア公爵令息。ですからこれは呪いではありません」
「魔法を使って仕上げるなど失敗したらどうされるおつもりですか? あなたたちにそんな責任が取れるんですか?」
「ですが、申請はきちんと出しています!」
あら? パーヴィス様と泣きそうな顔で話しているのは同じクラスの女子四人組……。今話してる方はマリアンヌ・メリアーゼ侯爵令嬢ね。あの中では一番の高位令嬢だわ。
この方たちはこの私に笑顔で挨拶をしてくださるし、公平な目を持った稀有な方たちなのよ。
それにしても……雰囲気的に衝突しているみたいだし、彼女たちの助けになりたいわね。
明らかに魔王に立ち向かう健気な少女の構図だし。
ハッ! これが『攻略メモ』にあった衝突かもしれないわ。これは絶対にこなさなくてはいけないわ。イベントをこなしつつ、彼女たちを救出するなんて一石二鳥よ!
「ごきげんよう、メリアーゼ侯爵令嬢。少々賑やかですがいかがされました?」
「リリーディアン公爵令嬢。……いえ、騒がしくしてしまい申し訳ございません」
「この令嬢方が、呪いとなりかねない出し物を出そうとしているのですよ。今やめさせるのが合理的だと言っているのに、それがわからないというので、困っているところです」
「……っ! ですから呪いではないと申し上げています!」
ふーやれやれとでもいいたげなパーヴィス様だけど、多分行き違って彼は『淘汰モード』に入ってるのだろうなぁ。このメリアーゼ侯爵令嬢たちが呪いなんて出し物をするとは思えない。
ゴーランド殿下が一方的にクラス単位での展示を強要し、後に撤回された学園祭は、今年も従来通りの有志で楽しむスタイルになった。
つまりこのメリアーゼ侯爵令嬢たちのように友人や婚約者同士など少人数で集まって、生徒会に申請して小規模に展示や出店などをしたり、レグルスのように何かを披露するという感じだ。
私は学園祭実行委員で色々忙しいから有志でっていうのはないんだけど。……………ボッチだからとかいう理由ではない。絶対ないんだから!
「こちらはどういった出し物なんですか? なんだか夜空をイメージされた神秘的なブースで素敵ですわね」
「は? 素敵? 禍々しいの間違いでしょう」
ドヤッとしてるけど、いいからパーヴィス様は黙っててください!
「……女性客限定で、お試しネイルを体験していただこうと考えています。私は光魔法が使えますから仕上げにそちらを使って、キラキラと爪を輝かせるというものです」
「まあ! いつもメリアーゼ侯爵令嬢は素敵なネイルをされていらっしゃると思っていたのですが、体験ブースの運営ということは、今されているのもご自分で?」
「……はい。ここにいる全員そうです。最近、貴族令嬢やご夫人たちの間で自分でネイルを施して見せ合うのが流行しておりますので」
「まぁすごいわ! 確かに最近、流行してますわね。私も魔道具作りをしていなければ、可愛らしいネイルを施してみたいのですが……爪が短くて恥ずかしいですわ」
「短くても可愛らしくなるネイルはたくさんありますのよ。それに二日間だけ保つお試しネイルなので……とは言え、出店できるかわからないのですが」
ボッチの私は貴族女性たちの間でネイルを見せ合うのが、流行していることなど知らなかったが、話を円滑にするため知ったかぶりをした。でもメリアーゼ侯爵令嬢が素敵なネイルをされていると思ったのは事実だわ。
そして私と話していたときは、目を輝かせていたメリアーゼ侯爵令嬢が、しょぼんとされてしまった。
どこに呪いの要素があったのかさっぱりわからなかった私は、目を眇めてやれやれ顔のパーヴィス様に訊ねた。
「…………パーヴィス様、この話のどこに呪いの要素が?」
「わが国において魔法が使える方は登録などはしておりません。つまり誰がどのような魔法が使え、どんな影響があるかは詳細不明です。彼女が使うその光魔法が呪いにならないとはいい切れないので、撤退するように言っています。これなら理解できますか?」
彼は最後にメリアーゼ侯爵令嬢を見ながらそういって、いつものメガネを指で押し上げた。
まぁ、かなり嫌味だけど言ってることはわからないでもない……か。確かにここでやめさせたほうが、彼にとっては合理的ね。レグルスがやろうとしてる魔法実演は、特殊結界で万が一のことがないように配慮されてるけど、個人ブースはそうではないものね。
でも、と思いながら彼女たちが作ったブースをまじまじと見てみる。金の刺繍で星座を施したり、ビーズで煌めきを作ったりとても凝っているけど、照明はネイルを施しやすく明るくなっている。お金で解決したのではなく、ご自分たちで様々な考えを巡らせて準備をしてきたのが、ぱっと見でもよくわかるわ。
うん、私はメリアーゼ侯爵令嬢たちの頑張りを無にしたくない。
「でしたら本番で魔法を使わなければ、問題ないのですよね?」
「――そうですね。ですが事前に問題ないとされているもの限定です」
よし! 言質は取ったわ! 私はメリアーゼ侯爵令嬢たちの方へ振り返った。
「メリアーゼ侯爵令嬢が最後に光魔法で仕上げるのは素敵だと私も思うのですが、パーヴィス様のように危険だと思われる方も、少なからずいらっしゃるのは事実です」
「……確かにその通りです。ですがここまで友人たちと頑張ってきたことを思うと、どうしてもここで中止というのは諦め切れなくて」
そう言うと彼女たちはハンカチを目に当て始めてしまったわ。
わかる、わかるわ! 私も前世では、推しの『暴食』の花紋である金木犀を育てようと頑張ったけど、枯れたときは泣き叫んだもの。まぁサボテンを枯らすような人間には無謀だったのかもしれないけど。
「ですので、やり方を少し見直しませんか? 幸いパーヴィス様もやり方次第でとおっしゃられていますし」
「リリーディアン公爵令嬢……。ですがどうやって、でしょうか。」
「私は『物質の結晶化』という固有魔法を持ちつつ、魔法士としてS級を所持しています。S級はどんな魔法でも時や場所を選ばず発動可能です。光魔法の代わりに、私がパウダー状に結晶化させたものを、ネイルの最後に振りかけるというのはいかがですか?」
「……え?」
「ちなみに、何を結晶化させたかによって光り方が変わります。そうですね……これを例えば勉学を頑張りたい方には緑の光が出るクローバーのパウダー、恋を頑張りたい方という方にはピンク光が出るピンクの薔薇のパウダーとか、様々な種類をご用意して、お客様に選んでいただくのです。ふふふ、きっとみんなに喜ばれますわ。私もぜひ協力させてくださいませ」
「……まあ……まあ! 素敵ですわ!」
メリアーゼ侯爵令嬢たち四人は、目を輝かせてあの花がいい、こっちの花はどうかと話し合っていてとても可愛らしい。私の今日の予定はこのパウダーづくりへの協力で決定ね。
くるりとパーヴィス様の方へ振り返る。
「こちらならよろしいですよね、パーヴィス様」
「あなたは非効率な選択をしますね。ここでやめさせたほうが、君も力を貸す必要がないのだから楽でしょうに」
まぁ、確かにそうですが、メリアーゼ侯爵令嬢たちの輝く笑顔を見ているとこれが一番よかったと思いますよ。ついでに『攻略メモ』通りですしね。
「だが自分のやり方では解決するのにもっと時間がかかっただろうから結果的にはこれが合理的だった。こういうやり方もあるということを学びました」
「そうですね、相手のやり方と折衷を利かせるというのも一つの合理性ですわね。パーヴィス様も最後まで聞いてくださってありがとうございます」
「…………ふん!」
全く素直ではない方よね。彼の耳が少し赤くなっているのに気づいてもいないんだろう。
あら、メリアーゼ侯爵令嬢たちが呼んでいるわ。
「それじゃいってまいりますね」
私はメリアーゼ侯爵令嬢たちのところへ向かった。彼女たちに「イステリア公爵令息と良い雰囲気ですわね」とか言われてちょっと好感度の藤の色の変化を期待したんだけど、ステータス画面での好感度の花は相変わらず白色だった。
バーコードのやつは60+█▉▊▋▌▍▎ってなってたけど、プラスってなに?
その日、夕暮れまで彼女たちによって学園の庭園へ連れ回されたんだけど、お義姉様以外の女子トークは本当に久々で凄く楽しかったわ。
パーヴィス様、本当にありがとうございます!
レグルスは明日探せばいいよね、放課後前の教室で無事は確認してるし。




