02-10 嫉妬眼鏡はお手製鉱石を贈る《藤視点》
学園祭でゴーランド殿下のチェス展示を彼女が説得してやめさせ、学園祭でのチェス大会イベントを提案したというのは知っていました。その予選を今日彼女が取り仕切るそうです。――あのセイルと一緒に。彼女は大変そうです。
シエラ嬢は有害だとは今では思ってはおりませんが、彼女を中心に物事が動くため、面倒事が起こるかもしれません。今日は時間がありますからそれに対応するため、見学に行くことにしました。
予選で彼女は30人ほどを相手にチェスの早打ちをしていました。まぁ、ゴーランドとの対戦で見せたあの思考時間の短さですし、彼女にとっては容易なことですね。それにしても――。
「なぜ、ここにいるんですか? ゴーランド殿下」
「お前にとやかく言われる所以はない。くだらないことを言うな」
そう言って殿下は自分が学園祭に当たるかもしれない生徒を見るのではなく、彼女だけを熱っぽい視線で見つめている。
本当にわかりやすい人です。いずれ王になる人間がこうまでわかりやすいのは、外交面を考えてもよくないですね。相手に簡単に読まれます。
はぁ、仕方ありませんね。
「王妃様が殿下は最近たるんでいるとお考えになっているように見受けられました。殿下は名誉挽回のため王宮に戻って仕事をされたほうがよいとおもいます。」
そんなことは王妃様から聞いてはいないが、あくまで『私にはそう見えた』だけなので問題はないだろう。
「は?」
「行きますよ。時間をかけるのは非効率ですからね」
「おい! 押すな!」
そう言って殿下を連れて王宮へ行って、無理やり仕事をさせた。私も仏頂面の殿下なんて見たくないんですよ。
ちなみに彼女は全員に圧勝し、勝てたものはおらず手数が多かった上位四人で決勝トーナメントを行うらしいです。
これはなにかご褒美をさしあげるべきですね。生徒会の仕事で決勝トーナメントは見に行けませんし、あの能天気娘には私のことを意識させるべきですから、私を感じられるものがいいですね。
何か残るもの……そう考えて自分で研磨した瑪瑙の魔石を彼女に贈ることにした。
これなら魔道具の力を溜めておく貯蔵の役目を担えるはずです。彼女が喜ぶ姿が目に浮かぶようです。
私は昼休みに大図書館で彼女に瑪瑙の鉱石を渡しました。箱だけだと味気ないですから、リボンもつけました。
「これをあなたに差し上げます。私が研磨した瑪瑙です。精々役に立てなさい」
「まあ! これは素晴らしいですね。瑪瑙の美しいグラデーションが全く崩れていないです。魔力の貯蔵庫としての役割に大いに使えそうです!」
彼女は色白だから、少し紅潮しているのがすぐわかる。
……喜んでもらえたようでよかった、いえ当然のことですね。この私が研磨したんですから当たり前です。彼女は魔道具マニアですから、私の意図に気づいたようです。
「……あの、パーヴィス様に相談があるのですが。」
おずおずと彼女は少し上目遣いの可愛らしい顔で言ってきた。何も聞かずに頷いてしまいそうになるが、内容は確認しなければいけない。
だがよほどの内容でなければ、最優先するのが合理的ですね。余裕のない男は敬遠されますから落ち着きましょう。
「内容を聞きましょう」
「ゴーランド殿下のチェス大会で私とセイル様が執り行う司会で、会場を盛り上げるためいくつかの魔道具を作ろうと思ってます」
またセイルか。気に入りません。
「それで? 鉱石が必要なので私に用意してほしいということですか?」
「いえ! 違います。わが領地では鉱石も多く産出されるのでそこから選べばいいのですが、私にはパーヴィス様ほどの目利きはありません。選び方のアドバイスをいただけないかという相談です」
「魔石はよろしいのですか?」
「私の固有魔法の『物質の結晶化』で高純度な魔石を用意します!」
そうだったな、彼女にはそんな固有魔法があるんだった。
つまりは私の知識を利用したいということか。
私の鉱石を使いたいのではなく、知識を求めるとはなんて合理的なんだ。
即物的に物品を求めるのではなく知識があれば、後々に役に立てられますからね。
彼女は天才なだけでなく、合理性も継続できる努力も持ち合わせる。美しく、周囲に腫れ物のように扱われてもそれを軽くあしらえるふてぶてしさ、どれも素晴らしい令嬢だ。
私は二つ返事で了承した。彼女と私の趣味である鉱石を選ぶというのはとても楽しい時間だった。
だが、ともに彼女と食事に行ければもっと楽しかっただろう。




