02-07 嫉妬眼鏡はネーミングセンスが悪い《藤視点》
紫の藤―パーヴィス・イステリア Side
この令嬢は本当に残念すぎる。
会って早々に魔道具を外せという追い剥ぎのような令嬢なんて初めてみました。この方は本当に公爵令嬢ですかね?
やっと話が通じそうな人と会話ができそうだと思っていた気持ちに水を差されたような気分でした。
そんな彼女にそのまま外して見せてあげても良かったのですが、少し意地悪をしたくなりポケットにしまい、その代わりに手鏡を出してあげました。
これは私なりの親切心です。あなたはとんでもない顔をしていると自覚したほうがいいです。なまじ顔が整っているから、多少は見栄えはマシですがなかなかですよ。
まさか、今日もかわいいとか自画自賛するとは思いませんでたし、脱力しましたが。
ですが、その後です! 彼女は誰も理解し得なかった琥珀の秘密に気づいたのです。
私が100を超える鉱石の原石の中から厳選した琥珀を微妙な誤差まで許さない厳密さで磨きに磨いたあの日々を肯定されたかのような気分でした。
まぁ彼女は鉱石ではなく魔導具の方に情熱を注いでいるようで、時折話が噛み合いませんが、それはいいです。
ですが、なにか通ずるものはあります。きっとマニア同士だからでしょう。悪くはない感覚です。
彼女に出された四色で地図を塗る問題を渡された私は必死に塗れるかどうかを検討しました。
あらゆる側面や可能性を考えながら挑戦しましたが、答えは不可能でした。これ以上は考えても非効率ですね。
ですが、彼女はそれを覆しました。
私は天才は努力をあざ笑うので好きではありません。有り体に言えば大嫌いだ。
だが彼女は大図書館でこの問題を見つけたと言っていた。きっと苦心して解き方を学んだのだろう。努力をする天才は……嫌いではありません。
その一週間後の彼女との約束までに、彼女の作った『四色の地図塗り問題』……この名前はいささか長いですね。合理的に美しく『カルテットEX』とでも呼びましょうか。脱線しました。私はより難易度の高いカルテットEXを作らねばなりません。
ゴーランド殿下が学園祭でなにやら暴走していますが、いざとなれば修正できますし、彼に同意しておきました。
私はチェス展示でも一向に構いませんからね。まぁレグルスはうるさかったですが、あれはいつものことです。そのうち勝手に機嫌を直すでしょう。
ですが、ゴーランド殿下は数日のうちに覆した。あの傲慢な方が自発的に自分の考えを変えるとは思えません。ちなみにその前日は彼女との『放課後チェス』。
私がカルテットEXに頭を悩ませられてるのと同様に彼も彼女に翻弄されているのかもしれません。私は彼女に勝ちたいだけですけどね。……ですが少し気に入りません。
約束の日、彼女は本当に問題を作ってきたのかと呆れていました。
ついでなのでゴーランド殿下の意思を変えたことも確認しましたが、肯定をはっきりとはしませんでしたが彼女が原因なのは間違いないでしょう。
努力は大事だということはわかっていたようなので、引いてあげました。心底ホッとした表情をしていたのでこれは貸しです。
結局、私が生徒会の仕事や公爵家の嫡男としての仕事の合間を縫いながら、一週間練りに練ったカルテットEXは、彼女にあっさり解かれた。 信じることが大事だと精神論で私の努力が粉砕されたと知り、苛つきました。彼女は私を苛つかせる天才なのでしょう。
ちなみに私が命名した『カルテットEX』は、彼女に『四色問題』と呼べばいいと言われました。確かにそのほうが短くて合理的、かつわかりやすいので以降は採用ですね。
彼女がどうしても勉強を教えて欲しいというので、教えてあげることにしました。仕方有りませんからね。
そこでなぜか高難易度の応用は解けているのに基礎問題が解けない世にも不思議な現象を見たのです。
難しく考えすぎると彼女は言っていましたが、私から言わせると視点が、ほかの人間と違いすぎるからだろうと確信しています。
理解不能で、破天荒な彼女ですが、努力はしているようですし淘汰されるのは……少し嫌に感じ、いえ単純に私が困ります。ただそれだけですよ。
彼女は私に教えてもらったにもかかわらず、全く内容を理解していない様子なのは、いただけませんね。理解力に乏しいのでしょう、やれやれです。
彼女に勉学を叩き込まないといけないので、四色問題を作っている余裕はなくなりました。
それにしてもいい加減、彼女とは名前で呼び合うべきではないだろうかと思うのですが、間違っているのでしょうか。そのほうが短いですし、合理的ですからね。
今度彼女に打診してみましょう。
とりあえず心の中ではシエラ嬢とお呼びしましょう。




