02-05 【好感度29】魔道具オタクと鉱石オタク
白の百合―シエラ・リリーディアンSide
あぁ、忙しい。
レグルスに魔道具を渡したから、邸に戻ってからはお義姉様とのんびりできているのが幸いね。
あの腫れ物が露呈してお二人に釈明したときは、どちらかというとお義姉様より、お兄様のほうが私を心配していたのだけど、現在では反対になってしまった。
お兄様は「男は時折思っていることと反対のことをする生き物だからね。不本意ながらティナに以前そうしてしまった私がよくわかる」とか絶対にわかってないようなことをおっしゃっている。
その言葉に顔をほんのり赤くさせて、扇で顔を隠しているお義姉様は可愛らしいけど、そうではありません。元喪女の私でもわかりますよ。
そして、嬉々として学園内での生徒たちの行動を私から聞き、後ろで侍従が必死に書き留めているけれど、これがどう活きるのか怖くて聞けない。
お義姉様はお忙しいのに親身に話を聞いてくださって浄化される気持ちです。
イステリア公爵令息と利害の一致をしてからは、今まで全く見かけなかったのが嘘のように、大図書館でよく見かけるようになったわ。
こちらが挨拶するまでは彼は気づかないから、挨拶を自分からする。未来の宰相がこんなに鈍感でいいのかしらと不安になるわ。
鈍感さもあるけど、こちらに気づかないあたり、意識は全くされてないのは確定でしょう。まぁいいわ、こちらから関わるまでよ。
めざせ、推しとのラブラブ砂糖生活、あなたにはその礎になってもらうわ!
そして、合理的によろしくと交わし合ってから迎える初めての土曜日の放課後、やっと彼と大図書館で会えたのである。
「イステリア公爵令息。早速ですがその魔道具の腕輪を見せてください。さぁ、すぐ取り外してください!」
「……会って早々にそれですか? あなた自分が今どんな顔をされているか鏡で見たほうがよろしいですよ」
彼はため息をつきながら、素直に魔道具を外してくれた。
あれ? 素直……意外にいい人なのかな?
そして彼は私をチラリと見てから、なんと魔道具をポケットにしまい、代わりに私に手鏡を出してきた。
やっぱり嫌味なメガネだ。一瞬でも見直した自分が馬鹿だった。出してくれた手鏡をのぞき込むけど、いつも通り可愛いシエラがいるだけだった。
「今日もかわいいですね、自画自賛です」
「……そういうことではありません。私の見通しが甘かったようですね。時間の無駄ですのでもういいですよ、どうぞ」
そう言って彼は魔道具をポケットから出してくれた。
ほわああああ。やっと会えたよ! 万華鏡のように魔力が見える魔道具ちゃん!
私はうやうやしく受け取ったあと、前世で言う限界オタクのようにあらゆる角度なら魔道具を眺め、それを図面に起こしたり、魔力を色んな方法で流したりして、魔力の網がどうなるのかをつぶさにノートに書き取っていった。
正直に言ってイステリア公爵令息のことは見えてなかったので、彼が私をじっと見ているのには気づかなかった。
「ここ最近、忙しそうにしていましたが、その脳天気ぶりを振りまいていたのですか? 正直、有害ですが」
「――ああ、ここがこうなってるのか。なるほどなるほど、ではここをこうしてみると……」
「…………全く聞いてませんね。今のあなたは令嬢という枠を軽々超えているのですが、自覚はないのでしょうね」
「……ああ! 失礼しました。最近は学園祭実行委員の仕事でセイル様と行動したり、ゴーランド殿下と『放課後チェス』に強引に強要されたり、レグルスの朝の魔法鍛錬に付き合ったりと忙しくしてました」
「……きちんと聞こえてたんですね。なら返事なさい。ああ、生徒会のない日は殿下と生徒会室で興じていると聞きましたよ。しかし怠惰で動かないセイルや、あの女嫌いのレグルスと関わっているとは驚きですが」
「あっ! すみません。この魔道具に夢中になってしまいました。それにしてもこれはすごいですね」
大抵こういったものは水晶を極限まで磨いて反射板として利用するのが通例だけど、これは琥珀をつかっているわ。
琥珀だと強度は出るけど範囲がどうしても狭くなるデメリットがあるんだけど、この魔道具の場合はそれがうまく使用法と合致している。
それを長々とイステリア公爵令息に伝えると、彼は目を輝かせて、女性のような美人すぎる顔を私に近づけてきた。
「あなたにこれがわかりますか! この琥珀は実は私が磨いたものです。それを職人に魔道具にしてもらいました。琥珀はあの絶版の本にもあったように磨き方でかなり変質しやすいものなんです。個体差を見極めそれをどう研磨するかそれが最大の課題であり、醍醐味です。」
うわ。この人、鉱石オタクだ。普通の貴族は鉱石を磨きません。あと近いし、長いです。
私は魔道具を組み立てることはしますが、鉱石を磨くだのなんだのと、そのあたりは一般流通品を使うことがほとんどだわ。レグルスの魔道具だって一般流通品を使用したからこそメンテが発生している。まぁあれはそれを狙った部分もあるのだけど……。
イステリア公爵令息は顔をほんのり赤くして滔々と鉱石について熱く語っておられる。私は魔道具の話を交えたり、相槌をうちながら彼の話を聞いていく。
おそらく私たちの会話は端から見ると噛み合っていないだろう。でもオタク同士なにか通ずるものがあるのは確かだった。
「――そういえば、話はかわりますが、この問題わかりますか? この大図書館で見つけたんですけど」
前世であった問題自体は簡単だけど超難解な問題なので、この大図書館で見つけたというのは嘘よ。
彼との間に流れる沈黙が恐ろしかったので事前に雑談の種として用意したものだ。
私は邸で用意してきた地図を彼と私の間にある机に出し、彼にこう言った。
「この地図の国を一つずつ色分けしていったら四色で足りる思いますか?」
「ふふ、こういうものは合理的にやるものです。あなたは天才タイプですからそういうことは苦手なのでしょう。素直に私に聞いてきたことは褒めて差し上げます」
あー、これは知らないやつだな。前世ではこれをスーパーコンピューターで無理やり解析した超難問よ。暫く彼はその超難問と格闘していた。
「……………この答えは『四色ではできない』ですね。てっきりできるのかと思いましたが、騙されました。つまりあなたのフェイクです。非効率で時間の無駄ですね」
まぁ、そうなりますよね。でもこれ、四色で塗り分けできるんですよ。私は彼に答えを示すと、悔しそうにしながらも、意外にも彼はそれを受け入れていた。
「……なるほど。確かにできましたね。ふむ。あなたは意外に合理的で、才能だけではない人のようだ。このような難解な問題を考えてくるのですから。先ほどまでただの魔道具マニアかと思っていましたよ」
「それはお互い様ですね。私もイステリア公爵令息はただの鉱石マニアだと思って今日話していましたわ」
「さて、リリーディアン公爵令嬢。次はいつ会えますか? 今度会うときにはこれより複雑な問題を用意します」
え? いや、勘弁してください。何が彼のハートに火をつけたというの? 私はただの雑談の種として持ってきただけで、四色問題マニアではないんですよー。
彼はウンウン頷いて次の土曜の約束を取り付けると、私が無意識にずっと握りしめていた魔道具をサッと回収して、荷物を片付け去っていった。……行動が早い。
どうしてこうなった? そっと私はステータス画面を起動する。うん、白い藤だよね。なにかプライド刺激したみたいだし、色が変わるわけないよねと納得した。
私はそこで安心してバーコード横の数字をみていなかった。
――――そこには29の数字があったのだった。




