02-04 嫉妬眼鏡は言い訳が多い《藤視点》
紫の藤―パーヴィス・イステリア Side
私はこの学園での最終学年である三年生となった。
生徒会副会長としてこの学園運営を支えつつ、ゴーランド殿下の側近として熟していくのだろうと考えながら馬車止めを歩いていたときだった。
そこで側近候補で未来の同僚となるだろうレグルスがとても美しい令嬢に『いい気になるなよ』と罵倒していたところに遭遇しました。
愚かですね、二人ともこれだけ注目を浴びているのにそれに気づかないとは。
それにしてもあの女嫌いを公言しているレグルスと同じ馬車で来たのでしょうか。……ああ、あの令嬢はおそらく彼の幼馴染のリリーディアン公爵令嬢ですかね。
ふむ、おかしいですね、彼女があのように細身で美しいわけはないのですが。確か、以前お茶会で対面したときは、菓子に執着する少女でしたし、噂では体がボールのように丸いと聞きました。
努力をしてあの容姿を手に入れたなら、彼女は努力家なのでしょう。その時は彼女への認識を改めることにしましょうか。
そうして私はリリーディアン公爵令嬢に少し興味を持ち、とりあえず彼女の入学試験の結果の詳細を調べることにした。
なるほど、彼女は次席ではある。だがこれは……なぜ最後の試験科目だけ高難易度の問題のみを解答して他は空欄なんでしょうか。これが解けるならほかの問題も容易でしょう。
ああ、そうか。彼女も高い才能を発揮するために努力をしない極めて非効率で軽蔑すべき人間のようですね、失望しました。
そう私が心のなかで切り捨てていたのだが、ゴーランド殿下が次席の彼女に興味を持つとは思わなかった。
私は殿下が彼女に使う時間は非効率だと判断して、彼女を切り捨てさせるために更に下げることを選択しました。だがあの令嬢は反対に私を嘲笑してきた。
しかも、試験中に寝ただと? ああ、彼女の脳には菓子でも詰まっているんですね。
この菓子が詰まった小娘に私は淘汰されるべきで現実的にそうなると予言した。この令嬢は人を堕落させ有害です。
私はこの後すぐ周りの人間に彼女はいかに不要であるかを説いた。生徒だけでなく教師までもが私の意見に耳を傾けてくれた。私は正しいという立証ができたので、満足です。
これが現実ですよ、リリーディアン公爵令嬢。
そんな彼女を大図書館で見かけたのは、最初の衝突をした当日の放課後でした。
彼女は鉱石の本を読んで、何かを書き留めていた。
ああ、あの本は素晴らしい。鉱石を極限まで研磨し、磨き方によって変質する鉱石で魔力をどう制御するか、そしてどんな可能性を秘めているかなど多角的に書かれている本です。
かく言うこの私も絶版されて入手はかなり困難だったが部屋に大事に持っています。
鉱石は素晴らしい。美しいだけでなく、魔道具において魔石をアシストする働きは地味だが欠かせないものだ。鉱石について軽く一日は話し続けられるでしょう。
彼女は努力もしない才能だけの魔石のような人間だ。魔石は暴発の危険性がある物質でもある。
彼女も同じだ――。
何か周りに害を及ぼすかもしれないから、私が監視すべきだという思いから、十日ほど彼女の動向を監視してきたのだが――。
彼女の今の机に向かっている姿を見ていると自分が間違っていたのかと思わされた。
周りに目を向けることなく、ただ目を爛々と輝かせて、本が壊れるんじゃないかと思うくらいの高速で本をめくり、一心不乱に書き留めていく。
高速で本とノートを見回すものだから髪は乱れているし、手は炭で真っ黒ですが本人は全く気にしている様子はありません。
そしてゴーランド殿下とのチェスの合同授業で彼と対戦した時もそうです。
あの時私はゴーランド殿下の隣にいましたが、殿下に一切怯むことなく駒を進めていた。その思考時間は長くても数秒。
それでもチェスで誰にも負けたことのない殿下を圧倒していました。その時に交わしていた会話も教養の高いものでした。
これは偶然ではないでしょう。殿下相手にここまでやり込めるのはそれ相応の積み重ねがあってこそでしょうね。
はぁ、総合的に考えて彼女は努力のできる人間なのかもしれないと判断しました。少し話してみて様子を伺うのが合理的判断でしょう。
……あとこのままでは本が壊れます。あの貴重な本は丁寧に扱って後世に託すべきものですよ。
そう、心のなかで言い訳をしながら彼女に話しかけた。
――のですが、この令嬢はただの魔道具マニアです。痛いほど実感しました。
この私の腕につけている魔道具をくいいように眺めて、何かを書き取っている。令嬢としては異質ですし、せっかくの美貌が台無しですね。
しかし、最近読んで感銘を受けたこの論文を彼女が書いたといい出したときには仰天した。
この素晴らしい論文を彼女が書いた?
何度見ても名前は変わらない。シエラ・リリーディアンという文字が残酷に記載されている。
この論文を目の前にいる二つも年下の令嬢が書いたというのか? これは常識にとらわれず、新しい視点で書かれているため、この私でも読み解くのに時間がかかった論文ですよ。
そして私の気のせいでなければ、なぜか嫌な笑みを浮かべている。
突然、よろしくお願いしますと言い出したときは、脳に菓子が詰まりすぎて妖精が住んでいる脳内お花畑の令嬢かと思った。だが、彼女は私にも彼女にも大変魅力的な提案をしてきた。
面白い、確かに互いに利益がありますね。
彼女が孤立するため暗躍したのが私だと分かっているにも関わらず、それを恨んでいないと言い切った純粋さ。だがどこかふてぶてしいこの態度――。
彼女は私をイステリア公爵令息と呼んでいますが、家の肩書は全く見ていないのでしょう。私の家に忖度する人間が多いなかで、それはかなり新鮮でした。
彼女は不要な人間だと断じてきたが見直してやってもいい、私は自然とそう思った。話す価値のある令嬢に会ったのは初めてですしね。それを彼女に伝える気は今は毛頭もありませんが。
翌日から彼女と会うのを少し楽しみにして、わざわざ彼女の前に出現してあげていたのですが、昼休みに彼女の方から挨拶をされるくらいでした。
彼女はとても忙しそうにしていて、全く話し込むことはできず、期待していたので少し苛立っていました。
彼女とじっくり話せたのは土曜日の放課後だったのである。




