02-02 欲深な天使、爆誕
なんて、思っていたときもありました……。
あれから二日後、私はイステリア公爵令息のしでかした後始末で頭を抱えていた。
あの『淘汰すべき』というのは『自分で』という枕詞があるらしく、アグレッシブに彼は同調圧力を周りに求めていった。
彼は、「あれは間違った存在です」とアピールしているし、ゴーランド殿下にも顔と家柄だけの公爵令嬢だと思っていたと公言されたことで、すっかり腫れ物扱いよ。まぁレグルスに罵倒されたことも影響しているけれど。
まさか、教師にまで腫れ物にされるとはおもわなかったわ。視線は合わないし、授業で私に当てる前に深呼吸するのよ?
ふ、ふふふ。ゲーム通り……。本編知らないけど腫れ物は正しき道よ! このフラグがきっと推しへ至るための試練……素晴らしいわ!
公爵令嬢結界ゾーンでもできたのか、半径二メートル以内には滅多なことでは誰も入らなくなってしまったわ。まぁいいでしょう。
正直友人ができてからにしてほしかったというのはあるけど、これもまぁいいわ。
――そう、私が頭を抱えていたのは別の理由だった。
お義姉様にこのことがバレたのである……。
他家でのお茶会という社交から帰ってこられたお義姉様は、私の前世の記憶が戻る前のように表情をごっそり落として無表情だった。
あら、嫌なことでもあったのかしらね。今日は夕食のデザートにお義姉様がお好きなレモンカードのスフレケーキでも出してもらいましょうなんて思っていた私に、声を低くしたお義姉様は告げた。
「…………お茶会でとある伯爵夫人に聞きました。あなた学園でイステリア公爵令息に詰られたり、リコルディエ侯爵令息に罵倒されたそうね。そのうえ、ゴーランド王太子殿下は顔と家柄だけの令嬢だとおっしゃられたとか。その結果、学園で教師含め腫れ物扱いとされた。……これは間違いではないわね? …………ふぅ、この件はグウェン様にも相談いたします。あなたは今日の食事は部屋で摂りなさい。夕食後三人で詳しく話しましょう」
ブルブルブルブル。怖いわ。お義姉様は魔法が使えないはずなのに冷気が漂っているわ。
私は部屋にすごすご戻り、死刑宣告されたかのような時間を過ごすのだった――。
「――王家とは距離を置くことにする。我が家の天使であるシエラの名を貶めたリコルディエ侯爵家とイステリア公爵家への抗議、そして学園でお前に特につらく当たった生徒の家に我が家からの制裁を加えることにする」
ああ、やはりそうなるよね。夕食後お二人にサロンに呼び出された私は意気消沈していた。
お兄様、青筋が立ってます。そしてお兄様の風の魔力が漏れてそよ風を感じますわ。
わが家は、王都の約半分の食糧を支えている大穀倉地帯の大領地を持つ公爵家だ。別名、食糧庫とも言われているわ。
食糧だけでなく魔石や鉱石、宝石が出てくる鉱山も多く所有もしているわ。
お兄様もお義姉様も私の世話をするためだけのために王都にいるわけではない。
むしろ次期リリーディアン公爵夫妻として、王都の有力貴族や他領の貴族との人脈を築いたり、王家への忠誠アピール、商会やギルドへの供給量や価格交渉など、仕事は多岐に渡っていて毎日忙しくしている。
つまりは我が家の令嬢を腫れ物という名の嫌がらせをして避けるというのは自殺行為なのよね。魔道具に使用されている魔石は他国や他領を頼るなど方策はあるけれど、問題は我が家が取り仕切っている約半分のシェアを誇る食糧……。
わが家を愚弄したということは、食糧はいらないと公言したも同然になるわ。王家ですら、王宮を維持するのは困難になるだろう。
さて、どうしたものか。見たところお兄様もお義姉様もかなり怒っているわ。
……あ、これだわ!
「……グウェンお兄様、これを計略として利用します」
「「は?」」
よし、食いついた!
「ふふふ、我が家に仇なす者を洗い出し、先に手を打つための指標とするのです。もし、私に危害を与えるようであればもちろん、即制裁して構いません。ですが、泳がせることで、その親である貴族家の対応を見てその後の取引を考えるのです。子を放置するような危機感のない貴族家とはこちらも距離を置くべきですから」
「あなたがその試金石になるというの? でもあなたをその境遇に陥れさせたリコルディエ侯爵令息、イステリア公爵令息の実家や王家は問題だわ」
「……私は反対だ。お前がそんなことをする必要はない」
うぐぐぐ、しぶとい。私は腫れ物でないと困るんですよ!
「グウェンお兄様、ティナお義姉様。私は大丈夫です! それにレグルスはいつも通り考えなしに私に当たっただけですよ。イステリア公爵令息やゴーランド殿下とはそのうち仲良くなれるような……そんな気がするんです!」
ええ! 友好を目指してますからね。そりゃ仲良くもなりますし、これは絶対です。ですので大丈夫ですよ、ご安心召されよ!
「確かにレグルスについてはそうだな。……しかしお前は、本当に小さい頃からわが家の天使だな。報復を一切考えないとは」
「ええ、全てを許せるなんて、こんな優しい子は他に見たことがありません」
あ、なんか勘違いしてる。お二人ともハンカチで目を拭っているわ。
私は欲にまみれた人間で天使ではありません。そして許してるのではなく、これはフラグです!
でも天使のようなシエラちゃんで押し切れそうですね!
「グウェンお兄様、ティナお義姉様! 私は誰も嫌いたくないのです。ですが私も心が少し痛むこともあると思います。お二人がお忙しいのは理解しておりますが、時折各家の出方を報告がてら話を聞いてくださるとうれしいです!」
「「当然ですわ(だよ)!」」
ふうー、これでなんとかなったわ。危機一髪だった。制裁なんてしたら実家の没落で即バッドエンドよ。
ちなみに私の心が傷つくことはありません。推しがいる私の心はオリハルコン製です。
「お二人とも大好きです!」
そう言って私は二人を強く抱きしめ、お二人も私を受け止めて抱きしめ返してくれた。
シエラは頑張ります! 推しとの砂糖生活のために、邁進しますよー。




