02-01 【好感度0マイナス】藤の眼鏡は効率厨
「君のような非効率な人間は淘汰されるべきです」
入学式の朝、ステータス画面を開けるようになり、レグルスの次に確認した攻略対象その2の嫉妬の紫の藤『パーヴィス・イステリア』のキャッチコピーのセリフはこれだった。
……ふーん、好感度UIも藤なのね。今は白の藤もこの人カラーの紫になるわけね。
私が知ってるのは二つ年上の三年生で、イステリア公爵家の宰相様の子息で嫡男だということ。ただそれだけ……。
ああ、そういえば……この人のバッドエンドは『餓死』だった。
…………なるほど。淘汰された結果が、わが家の没落と『餓死』なわけね。もしかして私は投獄されるとか?
いや、陰険すぎない? なんで非効率だからって淘汰するわけ? この人一人で世界は完結してませんが! 理不尽だわ!
私という存在自体が非効率ということよね。今まで関わりもないのにおかしいでしょと思うけど、実質打つ手無しなんじゃないかしら。
いやいやいや、推しとの砂糖生活満喫って夢をあきらめてはいけないわ。それに家族が没落するのも嫌。私の両肩に家族の命運がかかってるのよ。
本気でこの塩対応メンズどもを友好まで攻略して幸せ掴んでやるわ。
やる気になったところで……さらにステータス画面を深掘りっと。特記事項は、えーと? 『過去のトラウマから努力をしない人間は嫌いな知性派のメガネ』
これじゃパーヴィスの本体がメガネみたいじゃない。
まぁいいか、メガネね。覚えたわ! それにしてもレグルスに引き続きまたトラウマ。これ全員トラウマ持ち?
うん、これも乙女ゲームあるあるね。……知ってた! なにせ私は数々の乙女ゲーム履修済みの元喪女ですから。
何かこのメガネ打破のためのアドバイスがあることを祈りながら『攻略メモ』を見るため、ステータス画面をスイスイと動かしていく。
そして攻略になってないメモを見て唖然となった。
『本人は従順な子が好きだと思ってるが実は……。朝は神出鬼没、昼休みは大図書館、放課後は生徒会室or大図書館。素直になるとよき』
うん、軽いね。コメントがわたあめより軽いよ。『実は……』じゃないんだわ。そこが重要なんですが。淘汰されかけてる絶滅危惧種となったヒロインに対してシステムすら塩なんだけど!
いや、待って? このゲームはヒロインがこの陰険メガネを落とす仕様になってるのよ? ならそのままの私でいいのでは? ふふふ! いける、いけるわー!
その後この慢心が祟ったのか、私はレグルスに馬車止めで罵倒されることとなったのである――。
♢ ♢ ♢
レグルス、本当に恨む。
あの罵倒された後、私は『あの、レグルス様を怒らせた公爵令嬢』として遠くからヒソヒソされ、どんなにやっても決して視線が合わない扱いとなった。
これについてはわかってたことだし、別にいい。『攻略が捗るというものよ! オーホッホッホッホッ!』とか前向きに捉えていたのだが……問題が起こったのはそれから二日後の放課後の廊下だった。
「お前が、リリーディアン公爵家の娘か?」
…………後ろから声が聞こえるわ。この声、入学式で聞いたあの傲慢がこびりついてるゴーランド殿下のものよね。
私は振り返ってすぐにカーテシーをしつつ、頭を下げた。絶対にいいと言うまで頭はあげない。そうしてる間に周囲から音が消えたわ。
「……頭をあげろ、女。パーヴィス、これがそうか?」
「はい。間違いございません。一昨日レグルスとともに目立つことを厭わなかった奇特な方と同じ顔です」
そういいながらパーヴィス、おっとイステリア公爵令息と言わないといけないわね。
二人セットでなく、せめてバラバラに登場してほしかったわ。
「女、発言を許す」
「……菊の明星、王太子殿下に発言を許していただき恐悦至極に存じます。私はリリーディアン公爵家の長女、シエラと申します。以後お見知りおきをお願い申し上げます」
お義姉様から血がにじむようなレッスンを受けたマナーよ! どう、どう? なんか二人とも見定めるかのようにじっと見てくるわね。
「……これがあのリリーディアン公爵令嬢か? 噂には聞いていたが……」
「……学ぶことを放棄して食べてばかりで貴族としての意識すらない猿……いえ、令嬢だときいておりましたが、入学試験はあのレグルスに次ぐ次席、魔力考査は魔力量は歴代トップクラスかつ、国の認定済みの『物質の結晶化』というかなり珍しい固有魔法の所持者で、主席ということらしいですね」
「ほう、それに加えてこの顔立ちか?」
「……そのようです」
上から下まで舐め回すようにして視線を送るゴーランド殿下と至極どうでも良さそうなイステリア公爵令息。……殿下は少し気持ち悪いし、イステリア公爵令息は令嬢に猿って随分な言い様だと思う。
「ただ、入学試験ではかなり解答にムラがあったそうです。最後の教科以外は満点でしたが、満点でなかったその教科は彼女以外誰も解けなかった問題とその前の記述問題以外は空欄だったそうです。ふう、愚か……いえ、謙虚さゆえに解答しなかったのかもしれませんね」
よく……ご存知で。その二問は問題として面白かったので解きましたね。
「……発言をよろしいでしょうか」
「構わん。私は寛大だからな」
「ありがとうございます。イステリア公爵令息はなぜ私の入学試験の詳細をご存じなのでしょうか」
「調べたからです。レグルスに罵倒され、星のように目立っておりましたからね。さぞ調べてほしいのかと思いましたが、違いましたか?」
レグルスが勝手に騒いでいただけです。
そしてこのメガネは絶対に私を星とか思ってないし、なんなら草くらいに思ってるし、謙虚ではなく馬鹿だと思ってるわ。
一応、全部のパラメーターは100なんですが……。まぁこのメガネに言っても通じないわね。
しかしそれにしても、なんだか苛ついてくるわね。これはチクリと言い返してもいいわよね。
「ふふ、星ですか? お言葉をお間違えでは? 『ほし』草程度にしか注目されていないでしょう。干し草に注目するだなんて、随分お暇なんですね」
「……っ! なっ!?」
「昔は猿、さしずめ今は愚かだとでも思っていらっしゃるご様子ですね。あなたが愚かだと断じたその教科ですが、体調が優れず途中で眠ってしまったからです。それまで色々ございましたから。……それにしても、イステリア公爵令息は他人の体調にすら思いやれない方なのが、人として残念に思いますわ」
ああ! スッキリした。お兄様、お義姉様! 淑女の仮面を被りながら、シエラはやり遂げましたよ!
試験日に私は背景としてお兄様たちのムード作りに貢献していて、心身ともに疲れてました。あなたの理屈だけ押し付けられても困るんですよ。
やり遂げた達成感で心躍らせていたのだが、イステリア公爵令息は下を向いてプルプル震えていた。
…………はっ! しまった! 彼に煽られて余計なことまで言い過ぎたかもしれないわ。彼は『従順』が好き……かもしれないのに! 絶対にこれ避難級のやばさよ!
「ふむ、リリーディアン公爵令嬢。お前は家柄だけの女だと思っていたが、このパーヴィスをやり込めるとはなかなかだ。私のことは王太子ではなく、ゴーランドと呼んで構わない」
「………ゴーランド殿下とお呼びする栄誉を?」
「そうだ、何度も言わせるな。うっとおしい。……行くぞ、パーヴィス」
ゴーランド殿下には思わぬ高評価みたいだけど……イステリア公爵令息はあれから全く上を向かないから目が合わない。彼に魔力があったら何か物理的に迸ってるくらいには怒ってると思う。
……あ、顔を上げてメガネをカチャカチャさせて起動をしはじめたわ。起動レバー?
「……寝た、ですか? はっ。体調管理もできないことに尊敬を覚えますよ。愚鈍で非効率ですし、寝るなど愚の骨頂です。……あなたは最後の教科を放棄した。つまり最後までやり抜く意思がなく、才能に甘えた人間だということだ。そんな人間は淘汰されるべきですよ。この世界に必要ありません。現実がいずれそれを証明するでしょう」
で、ででで、出たー! 非効率、淘汰! しかも私が言った残念な人っていうのは華麗にスルーしてるわ。というよりこの人も器小さいわね。
ああ、せっかくの怜悧な美形が台無しの嫌味な顔よ。残念な人よね。
はぁ、結局こうなるのか……。何が彼の怒りの琴線に触れたのだろうか。『攻略メモ』通りに素直になってみたのに。
バッドエンドと没落、推しに会えなくなる恐怖で慄いて言葉を発せなくなってる私を置いてゴーランド殿下が私を睨みつけるイステリア公爵令息を連れて去っていった。
静まり返っていた周囲は、私を見ながらヒソヒソ話し始めた。被害妄想ではなく、確実に私の名前が聞こえるわ。
これ、まずくない? 取り敢えずステータス画面を起動!
うん、白、白い藤。そんなのは分かってる。君は花紋が『藤』だからね。
なんか取り返しがつかないんじゃ、どうしよう……。いや、始まって二日だよ? いけるよ、いける。誤差だよ、多分。
私は自分で自分を納得させつつ、なだめていたので数字なんて全く気がついてなかった。
0−█▉▊▋▌▍▎
推しの笑顔を思い浮かべてニヤニヤして自分を慰めることに夢中だったから、数字が0マイナスなんてなってるなんて全く注目していなかったのである。
明日から頑張ろう。まぁ……………なんとかなるでしょ!




