第8話:氷の令嬢はデート(?)がしたい
中間テストの返却日。
俺、春トの手には、奇跡のような答案用紙が握られていた。
数学、78点。
赤点回避どころか、クラス平均を上回る快挙だ。
「よしっ……!」
思わずガッツポーズをする。
これも全て、放課後図書室での冬月さんによるスパルタ(でもご褒美満載)指導のおかげだ。
隣の席を見ると、冬月さんが涼しい顔で読書をしている。ちなみに彼女は満点だったらしい。さすがだ。
「あ、あのさ、冬月さん」
「……ん」
「数学、めっちゃいい点取れたよ。本当にありがとう!」
俺がお礼を言うと、冬月さんは本から視線を外し、少しだけ口角を上げた。
「……よかったね」
(うわ、今の微笑み反則だろ……! 思わず見惚れた!)
俺は心臓を押さえつつ、提案する。
「それでさ、お礼と言っちゃなんだけど……今日の帰り、何か奢らせてくれないかな? 甘いものとか好き?」
その瞬間。
冬月さんの瞳が、パァァッ! と輝いた(ように見えた)。
「……好き。……クレープ」
即答だった。
いつものクールな声だが、食い気味だった。
◇
というわけで、学校帰りの商店街。
俺たちは人気のクレープ屋の列に並んでいた。
(え、これ……客観的に見たらデートじゃね?)
周囲はカップルや女子高生ばかり。
その中に、制服姿の俺と、学年一の美少女『氷の令嬢』が並んでいる。
目立たないわけがない。
「おい見ろよ、あの美人……」「え、隣の男誰?」「彼氏かな……羨ましすぎて爆発しそう」
周囲の視線が痛い。
しかし、冬月さんはそんな視線など意に介さず、メニュー表を真剣な眼差しで見つめている。
(メニュー見てる冬月さん、真剣すぎでしょ。受験勉強の時より目力強いよ)
「……これ。イチゴ全部乗せ。……生クリーム増量で」
「り、了解です」
俺は自分のチョコバナナクレープと、冬月さんの豪華なクレープを注文した。
近くのベンチに座って食べる。
冬月さんは、大きなクレープを両手で持ち、ハムスターのように小さく口を開けてパクついた。
「……ん。……おいし」
頬が緩んでいる。
冷徹な『氷の令嬢』の仮面が完全に剥がれ落ち、ただのスイーツ好きの美少女になっている。
(か、可愛い……! 何その幸せそうな顔! 一生見ていられる! クレープになりたい!)
(連れてきてよかった……。こんな顔を見れるなら、毎日でも奢るわ)
俺が心の中で悶絶していると、冬月さんがパクッと大きなイチゴを頬張った拍子に、口の端に白いクリームがついた。
(あ、クリームついてる。……取ってあげたい)
一瞬、俺の脳裏に少女漫画のような展開がよぎる。
指で拭ってあげるとか。
なんなら、そのまま舐めるとか。
(いやいやいや! 何考えてんだ俺! 変態か! そんなことしたら通報されて人生終了だわ!)
俺は慌ててポケットからポケットティッシュを取り出した。
「冬月さん、クリームついてるよ。これ使って」
「……あ。……ありがとう」
冬月さんはティッシュを受け取り、口元を拭く。
その時、彼女はチラリと俺を見て、心の中で呟いた。
(……ヘタレ。……そこは、拭いてほしかった、かも。……なんてね)
!?
今、何か幻聴が聞こえたような?
俺が固まっていると、冬月さんは「ごちそうさま」と空になった包み紙を丁寧に折りたたんだ。
その耳は、夕焼けのせいだけじゃなく、ほんのり赤く染まっていた。




