第7話:氷の令嬢は勉強を教えたい
中間テスト一週間前。
俺、春トは教室の机で頭を抱えていた。
返却された数学の小テスト。そこには無慈悲な『赤点』の文字が刻まれている。
(終わった……。このままだと中間テストも爆死確定だ。そしたら補習地獄で、放課後冬月さんと一緒に帰るチャンスも潰れる……)
絶望に打ちひしがれていると、隣から視線を感じた。
冬月さんが、ジッと俺(のテスト用紙)を見ている。
(うわ、見ないで! こんな無様な点数、好きな人に見られたくない! 幻滅されたくない!)
俺が慌ててテストを隠そうとすると、冬月さんはふと目を伏せ、ボソッと言った。
「……教えて、あげる」
「え?」
「……だから、私が、勉強。……教えてあげる」
(ええええ!? マジで!? 学年トップの『氷の令嬢』が直々に!?)
(てか、俺のために時間を割いてくれるの? 優しすぎない? 惚れ直すわ!)
俺は即座に頷いた。
断る理由なんて、天地がひっくり返っても見つからない。
◇
放課後の図書室。
静寂に包まれた空間で、俺と冬月さんは並んで座っていた。
周囲に人はまばらで、ほぼ二人きりのような状況だ。
「……ここ、間違ってる」
冬月さんがシャーペンで俺のノートを指差す。
その時、彼女はカバンから眼鏡ケースを取り出した。
カチャリ、と銀縁の眼鏡をかける。
(――ッッ!!)
俺の心臓が止まった。
普段のクールな美貌に、知的なアクセントが加わった『眼鏡冬月さん』。
その破壊力は凄まじかった。
(め、眼鏡っっっ! 何それ似合いすぎ! 知的! クール! 最高かよ! 先生、ここが天国ですか!?)
(普段は見せないレアな姿を見れるとか、赤点とって本当によかった……!)
俺が心の中で拝んでいると、冬月さんがビクッと肩を震わせた。
眼鏡の奥の瞳が潤み、頬が林檎のように赤く染まる。
「……っ、見ないで。……ノート、見て」
(うわ、照れてる! 眼鏡かけて照れてるとか反則級に可愛いんですけど! もう勉強とか頭に入ってこない……!)
「す、すみません! 見ます! ノート見ます!」
俺は必死に邪念を追い払い、数式と睨めっこする。
しかし、教えるために冬月さんが覗き込んでくるたび、甘い香りが漂い、肩が触れそうになる。
「……ここは、こう展開して……」
耳元で囁かれる美声。
俺の理性は限界寸前だったが、「ここで赤点をとったら冬月さんの努力が無駄になる」という一点で踏みとどまった。
一時間後。
なんとか一通りの範囲を終え、俺たちは休憩していた。
「……ありがとう、冬月さん。マジで助かった。これでなんとかなりそう」
「……ん」
冬月さんは眼鏡を外し、ケースにしまいながら、ふと顔を背けて呟いた。
「……他の人には、教えないから」
「え?」
「……春トくん、だけだから」
その声は小さかったけれど、確かに聞こえた。
独占欲? 特別扱い?
俺の脳内はお花畑になり、思わず机に突っ伏した。
(好きだ……。もう一生ついていきます……!)
冬月さんはまた頬を染めて、俺の足を踏んづけてきた。
少し痛かったけれど、やっぱりご褒美にしか思えなかった。




