↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クールで冷徹な『氷の令嬢』、なぜか俺の心の声(ダダ漏れ)だけは聞こえるらしい。  作者: わわわ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/39

第6話:氷の令嬢は動揺を隠せない

 翌日。

 俺、春トは完全復活を遂げて登校した。

 一晩で熱が下がったのは、冬月さんの特製お粥と、あの奇跡のような看病のおかげに他ならない。


(昨日の記憶、途中から夢みたいにぼんやりしてるんだよな……)


 高熱でうなされていたせいか、細部が曖昧だ。

 確か、冬月さんが部屋に来てくれて、お粥を作ってくれて……。

 『あーん』してもらった気がする。あの優しい声と、口に広がった温かいお粥の味は確かに覚えている。


(夢みたいだけど……あの温もりは本物だったよな。冬月さん、本当に来てくれたんだ……)


 そんなことを考えながら、教室に入り、自分の席に着く。

 隣には、すでに冬月さんが座っていた。


「冬月さん、おはよう」


 俺が声をかけると、彼女はバッと肩を跳ねさせた。

 そして、なぜか俺と一切目を合わせず、読んでいた教科書に顔を近づけた。


「……お、おはよう」


 声が震えている。

 しかも、よく見ると彼女が持っている教科書、逆さまだ。


(えっ? 何その反応? しかも教科書逆さだし! 動揺してる?)


 俺は首を傾げる。

 今日の冬月さんは、どこかおかしい。

 いつもなら冷徹なクリスタルのような瞳で一瞥してくれるのに、今日は頑なに視線を逸らしてくる。


(も、もしかして、昨日俺なんか失礼なことしたか? うなされて変な寝言言ったとか!?)

(『お母さーん』とか叫んで甘えたりしてたらどうしよう……死ねる。恥ずかしくて死ねる!)


 俺が勝手にネガティブな想像を膨らませて青ざめていると、冬月さんが教科書を持つ手に力を込め、フルフルと小刻みに震え出した。

 耳が茹で上がったように赤い。


(怒ってる……? いや、あの赤さは怒りゲージMAXのやつか!? やっぱ俺、何かやらかしたんだ……!)


 まずい。これ以上、心の声で変なことを考えて刺激してはいけない。

 俺は必死に心を「無」にしようと試みた。

 座禅だ。座禅を組む僧侶の気持ちになるんだ。


(無になれ……無になれ……彼女はただの有機物の塊だ……美しいとか可愛いとか考えちゃダメだ……)


 しかし、チラリと視界に入った彼女の横顔が、あまりにも綺麗すぎて。


(……無理! 美しすぎる! 有機物の塊レベルじゃねえよ! 神の造形物だよ!)


 一瞬で煩悩に支配された。僧侶失格だ。

 俺の心のリバウンドを聞いたのか、冬月さんはさらにビクンと肩を震わせた。


 周囲のクラスメイトたちも、異変を察知してヒソヒソと噂し始める。

「おい、今日の冬月さん、いつもより空気が冷たくね?」「絶対機嫌悪いよな……触らぬ神になんとやらだ」


 違うんだ。

 みんな誤解している。

 冬月さんは今、俺の心の声(勘違い)を聞いて、「違う……! そうじゃないの……!」と必死に否定したいのに言えなくて、もどかしさで震えているだけなのだ。

 そして何より。

 昨日の俺の「好き」という言葉を覚えているのかどうか、気になって仕方がないのだ。


 そんなこととは露知らず、俺は意を決して話しかけた。

 謝るなら早い方がいい。


「あの、冬月さん! 昨日は本当にごめん。わざわざ家まで来てもらって、お粥まで作らせちゃって……」


 冬月さんが、恐る恐るこちらを向く。


「……別に。……大したこと、してないし」


「いや、すごく助かった! おかげですっかり良くなったし」


 俺は感謝を込めて微笑む。

 そして、心の中で本音を付け加えた。


(あのお粥、マジで美味しかったなぁ……。夢の中の味だけど、人生で一番美味い飯だった自信あるわ。毎日食べたいレベルで最高だった……)

(冬月さんの手料理ってだけで国宝級の価値あるし、またいつか食べられたらなぁ……なんて、贅沢すぎるか)


 その瞬間。

 冬月さんは「ぷしゅ」という音が聞こえそうなほど顔を赤らめ、机に顔を伏せてしまった。


「ふ、冬月さん!?」


 俺が驚いて声をかけると、腕の中に顔を埋めたまま、彼女は何かをモゴモゴと呟いた。


「……また、作る」


「え?」


 よく聞こえなくて聞き返すと、彼女は濡れた瞳で上目遣いに俺を睨み(本人は照れ隠しのつもり)、もう一度言った。


「……また、作ってあげる。……だから、風邪じゃなくても、言えばいいじゃない」


(えっ!? それって、また食べさせてくれるってこと!? マジで!? 神様ありがとう!!)


「ありがとう冬月さん! 絶対頼む!」


 俺が満面の笑みで頷くと、冬月さんは再び机に突っ伏した。

 その隙間からは、隠しきれないニヤけ顔が見えていたけれど、俺は見なかったことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。