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クールで冷徹な『氷の令嬢』、なぜか俺の心の声(ダダ漏れ)だけは聞こえるらしい。  作者: わわわ


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30/38

第30話:氷の令嬢は聖夜を独り占めしたい

 俺、春トは待ち合わせ場所の時計台の下で、手提げ袋を握りしめていた。

 十二月二十四日。放課後の駅前は、イルミネーションの光で昼より明るかった。

 中身は、昨日選んだ手袋。

 何度も開けては閉めて、ラッピングのリボンが緩んでいないか確認してしまう。


(落ち着け俺。今日は背伸びしないって決めただろ)

(普通に会って、普通に笑って、普通に渡す。それでいい)


「……春トくん」


 声の方を向いた瞬間、時間が一拍止まった。

 白いコートに身を包んだ美月が、改札の人波の向こうに立っていた。

 髪はゆるくまとめられていて、耳元の小さなピアスが光を拾っている。


(やばい。普通に可愛いの上限を毎回更新してくるの、反則だろ)


「待った?」

「ううん、今来たとこ」


 嘘だ。二十分前からいた。

 でも美月は、俺の右手の赤さを見てすぐに見抜いたらしい。


「……手、冷えてる」

「緊張、かな」


 美月はふっと笑って、手袋越しじゃない方の手を差し出した。


「……まず、あっためる」


 指先が触れた瞬間、心臓がうるさくなる。

 この感覚は何度目でも慣れない。


 ◇


 俺たちは駅前通りをゆっくり歩いた。

 屋台でホットココアを買って、雑貨店を覗いて、川沿いの遊歩道まで回る。


 以前なら周囲の視線に少し身構えていたけど、今日は違った。

 交差点で手を繋いだままでも、美月が手を離さない。


「……見られてても、平気」

「お、今日は強気だね」

「……うん。だって、恋人だし」


 さらっと言われて、俺の語彙は消し飛んだ。

 ココアより熱いのは、間違いなく俺の顔面だ。


 遊歩道のベンチに並んで座ったところで、俺は手提げ袋を差し出した。


「これ、クリスマス。使ってもらえたら嬉しい」


 美月は目を丸くして、丁寧に包装を解く。

 中から出てきたのは、濃紺の手袋だった。


「……これ」

「去年、君が“冬は指先から冷える”って言ってたの覚えてて」


 美月は手袋を胸に抱えたまま、しばらく黙っていた。

 やがて、かすかに震える声で言う。


「……嬉しい。すごく、嬉しい」


 そして今度は、美月が自分の袋を俺に差し出してきた。


「……私からも」


 中に入っていたのは、チャコールグレーのマフラー。

 柔らかいウールで、端に小さく同色の刺繍が入っている。


「え、これ……」

「……春トくん、手もだけど、首元もいつも寒そうだから」


 俺たちは顔を見合わせて、同時に笑ってしまった。


「考えること、同じだったね」

「……ん。……あっためたい場所が、同じだった」


 その返しは反則だ。

 心の中で叫ぶより先に、言葉が漏れた。


「ありがとう、美月。めちゃくちゃ大事にする」


 美月は頬を赤くして、でも逃げずに俺を見つめる。


「……ねえ、春トくん」

「うん?」

「……前は、特別な日のあとって、ちょっと怖かった」


 声は小さいのに、言葉ははっきりしていた。


「……終わったら、また遠くなるんじゃないかって」


 修学旅行の夜に聞いた「帰りたくない」と、同じ色の不安だった。

 俺は繋いだ手を、そっと握り直す。


「大丈夫」


 短く言ってから、ちゃんと続ける。


「不安は消えなくてもいい。消えないまま、俺たちで持てばいい」

「特別な日が終わっても、次の日にまた会いに行くから」


 美月の瞳が、じわりと潤んだ。


「……うん」


 その時、夜空から小さな白い粒が落ちてきた。

 雪だ。


「わ、降ってきた」

「……ホワイトクリスマス」


 美月は少し背伸びをして、俺の肩に額を寄せる。

 俺も顔を近づけて、そっと唇を重ねた。


 冷たい空気の中で、そこだけが温かかった。


 唇を離したあと、美月がくすっと笑う。


「……次は、初詣」

「うん。約束ね」


 マフラーの端を二人で掴みながら、俺たちは駅へ戻った。

 特別な夜は終わる。

 でも、終わるたびに次の約束が増えるなら、きっとそれは寂しいことじゃない。

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