↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クールで冷徹な『氷の令嬢』、なぜか俺の心の声(ダダ漏れ)だけは聞こえるらしい。  作者: わわわ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/44

第28話:氷の令嬢は日常を抱きしめたい

 俺、春トは机に突っ伏していた。

 修学旅行から帰って最初の月曜日。


「……眠い」


 当然だ。

 昨夜は旅館での深夜ミッション(先生の巡回回避)と、その後の余韻で、ほとんど眠れていない。

 隣を見ると、美月も珍しく小さな欠伸をしていた。


「……春トくん、目の下」

「そっちもだよ」


 二人で顔を見合わせて、つい笑ってしまう。

 同じ理由で寝不足だと思うと、それだけで胸が温かくなった。


 そこへ東雲がやってきて、俺の机をバンバン叩いた。


「おい春ト! 京都土産は!?」

「はいはい、八つ橋あるって」

「それと夜の話もな!」


 こいつの目が完全にゴシップ記者だ。

 俺が適当にいなしていると、東雲はひょいと美月の方を見て、ピタッと動きを止めた。


「冬月さん、おはようございます」


 九十度のお辞儀。

 迫力ある『氷の令嬢』スマイル(零度)が炸裂し、東雲は脱兎のごとく逃げていった。

 美月は何事もなかったように教科書を開き、俺の袖を小さく引く。


「……八つ橋、抹茶味」

「了解。放課後に献上します、お姫様」


 俺がふざけると、美月は耳だけ赤くして、そっと視線を逸らした。


 ◇


 ホームルームで、担任がプリントを配った。


「修学旅行の写真、クラス掲示用に班ごと一枚提出なー。締切は明日」


 教室が一気にざわつく。

 俺たちもスマホのアルバムを開いて、どの写真にするか相談し始めた。


「これどう? 清水寺のやつ」

「……こっちは? 二年坂の」


 画面を指で送るたび、京都の空気が蘇ってくる。

 紅葉、石畳、抹茶パフェ、そして――。


 俺の指が、ある一枚で止まった。

 二年坂で撮った写真だ。

 背景の紅葉も綺麗だけど、何より美月が笑っている。

 いつもの澄ました微笑みじゃなくて、いたずらが成功した子どもみたいな顔で。


(この笑顔、いいな)

(修学旅行の思い出っていうより、これから先の「普通の日」にも、ずっと見ていたい笑顔だ)


 隣で美月の肩がピクリと震えた。

 俺は慌てて画面から目を上げる。

 美月は真っ赤な顔で、でも逃げずに俺を見ていた。


「……それ、にする」


 短い言葉だったけど、声は少しだけ震えていた。


 ◇


 放課後。

 写真データを提出したあと、俺たちは誰もいない屋上にいた。

 秋の風が、少し冷たい。


「……春トくん」

「ん?」


 美月はフェンス越しの空を見ながら、ゆっくり言った。


「……修学旅行、終わっちゃって」

「……うん」

「……昨日の夜、ずっと寂しかった」


 中庭で聞いた「帰りたくない」が、まだ続いていたのだと分かった。

 俺は黙って、彼女の手を握る。


「でも」


 美月は握った手に、そっと力を込めた。


「……さっきの写真見て、ちょっと安心した」

「安心?」

「……春トくん、非日常だけじゃなくて、普通の日も一緒にいたいって思ってくれてるんだって、分かったから」


 図星だった。

 心の声は、ときどき俺が言葉にできない本音まで先に運んでしまう。

 けれど、今はそれに甘えたくなかった。


「うん。ちゃんと言う」


 俺は美月の目をまっすぐ見た。


「特別な日だけじゃなくて、月曜の朝も、眠い一限も、テスト前の地獄も、全部一緒にいたい」

「俺にとっては、その日常が一番特別だから」


 言い終えると、美月の瞳がふわっと潤んだ。


「……ずるい」


 彼女は小さく笑って、俺の肩にもたれかかる。


「……じゃあ、次の約束」

「うん」

「……初詣。……一緒に行きたい」


 冬の気配が、少しだけ近づいた気がした。

 俺は強く頷く。


「もちろん。来年も、その先も」


 美月は「……ん」と短く返して、俺の指を絡め直した。

 秋空の下、俺たちは旅の終わりじゃなく、日常の続きを歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。