第26話:氷の令嬢は京都を巡りたい
新幹線で数時間。
俺たちは古都、京都に降り立った。
ホテルに荷物を預け、待ちに待った自由行動の開始だ。
俺と美月は、晩秋の京都の街へと繰り出した。
最初の目的地は、定番中の定番、清水寺だ。
清水の舞台からの眺めは絶景で、赤く染まり始めた紅葉が眼下に広がっていた。
「……綺麗」
景色を見つめる美月の横顔。
秋風に揺れる黒髪に、紅葉の赤が映える。
(ああ、絶景かな絶景かな……。紅葉よりも君の方が百億倍綺麗だよ、美月さん)
俺の心の声を聞いて、美月が小さく吹き出した。
「……春トくんって、本当にブレないね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
俺たちは笑い合いながら、境内を散策した。
有名な『地主神社』――恋占いの石がある場所――の前を通りかかった時、美月は足を止めなかった。
「……行かなくていいの?」
俺が聞くと、彼女はキュッと俺の手を握り返してきた。
「……もう叶ってるから、必要ない」
その言葉に、俺は胸を撃ち抜かれた。
そうだね。俺も同じ気持ちだよ。
◇
参道の二年坂でお土産を見ていると、一軒の和雑貨屋に入った。
美月が可愛らしい巾着袋を手に取っていると、店番をしていた優しそうなお婆ちゃんが話しかけてきた。
「あらあら、えらいお似合いやねぇ」
「あ、ありがとうございます」
俺が恐縮していると、お婆ちゃんは目を細めて言った。
「その初々しい感じ、新婚さんかえ?」
「えっ!?」
し、新婚さん!?
いくらなんでもそれは飛びすぎだ。
俺が慌てて否定しようと口を開きかけた時だった。
「……はい、新婚旅行です」
隣の美月が、涼しい顔で――しかし少し悪戯っぽく微笑んで、そう答えたのだ。
「あらー、やっぱりそうかえ! お幸せになぁ」
お婆ちゃんはニコニコしておまけの飴をくれた。
店を出てから、俺は美月に詰め寄った。
「美月!? なんであんな嘘を!」
「……ふふ。……あのほうが、お婆ちゃん喜ぶかなって」
彼女はペロリと舌を出した。
小悪魔だ。最近、彼女のこういう一面が見られるようになってきた。
心臓に悪いけど、可愛すぎるから許すしかない。
その後、真っ赤な紅葉をバックに、二人で写真を撮った。
スマホの画面に映る二人の距離は、以前よりもずっと近かった。
「……これ、待ち受けにする」
美月が嬉しそうに呟く。
俺もこっそり、同じ写真を待ち受けに設定した。
京都の空の下、俺たちは甘い時間を満喫していた。




