第25話:氷の令嬢は修学旅行を楽しみたい
11月。
高校生活最大のイベント、修学旅行の季節がやってきた。
行き先は京都。3泊4日の旅だ。
今日のホームルームは、自由行動の班決めだった。
「はい、じゃあ4〜5人で班作ってー」
先生の号令と共に、教室がざわめき立つ。
普段なら「誰と組むか」で胃が痛くなる時間だが、今の俺には強力なパートナーがいる。
「……春トくん」
予想通り、美月が俺の席にやってきた。
当然のように「一緒だよね?」というオーラが出ている。
「うん、一緒になろう」
俺が答えると、彼女はホッとしたように微笑んだ。
しかし、問題はあと数人のメンバーだ。
俺たちがカップルであることは公然の秘密(というか事実)だが、誰がこのラブラブ空間に入りたがるだろうか。
俺が周りを見渡すと、東雲や他のクラスメイトたちが、何やら目配せをしているのが見えた。
「おい、春トたちは二人にしてやれよ」
「俺らが入ったらお邪魔虫だろ」
「形式上だけ名前貸してやるから、当日は二人で回ってきな」
クラスの友人、東雲がニヤニヤしながら俺の肩を組んできた。
その横で、佐倉が班名簿をトントンと叩く。
「じゃ、事務は私が回す。先生への提出は任せて。二人は当日迷子にならないことだけ考えて」
「俺らは男同士で京都のラーメン巡りするからよ。お前は美少女とデート楽しんでこいって」
「東雲……お前……」
「その代わり、お土産期待してるからなー!」
……なんと。
クラスメイトたちが、俺たちに気を遣って「実質二人きりの班」を容認してくれるというのだ。
2年3組、どれだけ訓練されているんだ。優しすぎる。
「……みんな、ありがとう」
俺と美月は、クラスメイトたちの優しさに感謝しつつ、夢の『修学旅行カップルデート』権を手に入れた。
◇
放課後。
俺たちは駅前の書店に来ていた。
旅行の計画を立てるため、ガイドブックを買うのだ。
「……これ、いいかも」
「こっちのスイーツ特集もすごいよ」
美月は普段よりも明らかにテンションが高かった。
瞳がキラキラしていて、足取りも軽い。
次々と本を手に取っては、俺に見せてくる。
「……ここ行きたい。……この抹茶パフェ、食べたい」
彼女が示したページには、既に付箋が貼られていた。
いつの間にチェックしていたんだろう。
楽しみにしてくれていたのが伝わってきて、愛おしさが込み上げてくる。
その後、カフェに入って具体的な計画を立てることになった。
しかし、美月がリストアップした行きたい場所は山盛りで、3泊4日では到底回りきれない量だった。
「……全部は、無理かな」
しょんぼりする美月。
俺は笑って言った。
「全部行けなくてもいいよ。大事なのは、美月と一緒に楽しむことだから」
「予定通りいかなくても、迷子になっても、二人ならきっと楽しいよ」
俺の言葉(とダダ漏れの心の声『君といられればどこでも天国です』)を聞いて、美月は今日一番の笑顔を見せた。
「……うん。……私も、春トくんと歩ければ、どこでもいい」
結局、細かいスケジュールは決めず、「その時の気分で決める」という贅沢なプランになった。
カフェの窓から見える秋の空は高く、俺たちの旅の無事を約束してくれているようだった。




