第24話:氷の令嬢は後夜祭を過ごしたい
「彼氏宣言」の噂は、光の速さで校内に広まった。
当然、冷やかしや嫉妬の視線もあったが、意外にも好意的な反応が多かった。
『氷の令嬢』を悪い虫から守った騎士、という尾ひれがついた噂のおかげかもしれない。
そして、文化祭のフィナーレを飾る後夜祭。
校庭の中央には大きなキャンプファイヤーが組まれ、炎が夜空を焦がしている。
スピーカーからはオクラホマミキサーの曲が流れ始めた。
フォークダンスの時間だ。
俺と美月は、人混みから少し離れた場所にいた。
「……踊る?」
俺が手を差し出すと、美月は恥ずかしそうに、でもしっかりと俺の手を取った。
「……うん」
二人は輪の中には入らず、少し離れた場所で、音楽に合わせて体を揺らした。
炎の明かりが、美月の顔をオレンジ色に染めている。
その瞳に映るのは、俺ひとりだけだ。
「……春トくん」
「ん?」
「……私、今すごく幸せ」
彼女の真っ直ぐな言葉が、胸に染みる。
俺も同じだ。
ずっと高嶺の花だと思っていた彼女と、こうして手を繋いで踊っている。
秘密がバレてしまった不安なんて、彼女の温もりの前では些細なことだった。
曲が終わり、静かな時間が流れる。
周囲の生徒たちはまだ盛り上がっているが、俺たちの周りだけは、別の世界のように静かだった。
「……これからも、ずっと俺が守るから」
あの時、勢いで言った言葉だけど、今はもっと強い意志を込めて伝えた。
美月は嬉しそうに微笑み、俺の肩に頭を預けた。
「……うん。……私も、春トくんを支える。……ずっと、隣にいる」
それは、未来への誓いのような言葉だった。
俺たちは自然と見つめ合い、どちらからともなく距離を詰めた。
炎の揺らめきと、遠くの喧騒。
暗闇に紛れて、俺たちはそっと唇を重ねた。
柔らかくて、温かい感触。
それが、俺たちの文化祭の、最高の締めくくりだった。




