第23話:氷の令嬢は守られたい
文化祭二日目。
今日はコスプレ喫茶のシフトが午前中だけなので、午後は美月と二人で文化祭を回ることになっていた。
一応、『秘密の交際』中なので、あまり派手に動かない予定だったが……。
「……目立つな」
「……うん」
美月は昨日の『猫耳メイド』の余韻もあってか、私服に着替えても注目の的だった。
廊下を歩くだけで、周囲の視線が突き刺さる。
その視線には、羨望、憧れ、そして――不躾な欲望も混じっていた。
「ねえねえ、君! 2-3の猫耳の子だよね?」
「めっちゃ可愛かったよー! 写真撮ろうぜ!」
渡り廊下で人気が少なくなった瞬間、他校の制服を着たチャラそうな男子グループに囲まれた。
3人組。みんなピアスやらネックレスやらで着飾っている。
「……」
美月は瞬時に『氷の令嬢』モードに入った。
冷ややかな視線で彼らを一瞥し、無視して通り過ぎようとする。
「あ、逃げんの? 冷てーなー」
「ID交換だけでいいからさー」
一人の男が、美月の腕を掴もうとした。
スッと美月が身を引くが、男はしつこく距離を詰める。
「……やめて」
美月が小さく拒絶するが、男たちはニヤニヤして聞く耳を持たない。
美月の肩が、小さく震えた。
怖いのだ。いくら気丈に振る舞っていても、彼女はか弱い女の子なのだ。
(ふざけるな)
俺の中で、何かが切れる音がした。
秘密? 目立たない?
そんなこと、知ったことか。
「嫌がってるんで、やめてもらえますか」
俺は美月と男たちの間に割って入った。
男が不機嫌そうに俺を睨みつける。
「あ? なんだお前。関係ねーだろ。彼氏気取りかよ」
嘲笑うような言葉。
俺は、美月を背に庇いながら、はっきりと告げた。
「気取りじゃないです」
「……彼氏ですけど、何か?」
シン……と、その場が静まり返った。
男たちが目を丸くする。
背後の美月が、息を呑む気配がした。
「は、はあ? こんな地味な奴が?」
「嘘だろ? 『氷の令嬢』だぞ?」
「嘘じゃないです。大事な彼女なんで、ちょっかい出すなら先生呼びますよ」
俺がスマホを取り出すと、男たちは「チッ、しらけるわー」と捨て台詞を吐いて去っていった。
彼らがいなくなると、再び静寂が戻る。
いや、完全に静かではない。
遠巻きに見ていたうちの学校の生徒たちが、ザワザワとし始めている。
「聞いた?」「彼氏って言った?」「マジかよ……」
やってしまった。
完全に公開宣言してしまった。
「……春トくん」
美月が俺の背中にしがみついてきた。
振り返ると、彼女は目に涙を溜めて、俺を見上げていた。
「……怖かった。……守ってくれて、ありがとう」
「うん、遅くなってごめん」
俺は彼女の頭をポンポンと撫でた。
周囲の視線は痛いほど感じる。
明日からどうなるか分からない。
でも、彼女の震えが止まるなら、それでいいと思った。
「……バレちゃったけど、まあいいか」
俺が苦笑すると、美月は俺の胸に顔を埋めて、小さく頷いた。
「……うん。……春トくんの彼女だって、みんなに知られるの……悪くない」
その言葉は、どんなトラブルよりも俺を強くしてくれた。




